タストラ・シティ・ラプソディ
横島孝太郎
クビの配達引き受けます #1
AP。
その言葉が意味するのは、大体二つだ。
一つはアーマー・ピアシング。徹甲弾。
もう一つはアーマード・パルクール。装甲戦闘服の運び屋。俺みたいな。
「昔の戦争の花形がなあ」
「ボヤくなよマスター。俺は割と気に入ってんだから」
酒場の店先、デカいコンテナを置く。中身は無論酒。割れキズ遅延無し。
「んじゃまたご贔屓に」
跳躍。重力制御。ビル壁三階、垂直着地。
走る。ハードルじみた電子看板。跳ぶ。跳ぶ。次のビルへ着地。ニュースを流すモニタ。大富豪ラティナ家当主が行方不明。跳ぶ。次のビルへ着地。考える。
どうするか。仕事は終わりだが、このままだといよいよ大家に追い出される。アーマーは金がかさむのだ。
「あー。何かドカンと稼げる仕事が」
DOOOOM!
左上、飛び去るエアカー一台。優雅な外観。だが尻から煙。ロケットでも受けたか。ややおいて飛び去るエアカー三台。黒塗り。窓から乗り出すデミヒューマン。明白な追跡。
直後、飛び込む通信。知らぬ名前。だが取る。
「ザザッ。初めまして。APの方とお見受けしました」
「ご明察。そっちは? 追われてる方?」
「はい、ご理解が早く助」
銃声。舌打つ。全力疾走。すぐ追いつく。斜め上、黒塗り三台。跳躍。最後尾に着地。
生体反応。銃。だが俺のが早い。ルーフへ銃口密着。AP弾。撃つ。撃つ。撃つ。
墜落する最後尾。跳躍。スラスター。回転。残り二台の前へ。逆さの視界。それぞれの運転デミへ照準。射撃。射撃。
落ちる黒塗りを背に、追われてたエアカーのルーフへ着地。ドアを開く。覗き込む。
「悪いねー道が混んでてさ。んで依頼は」
言葉は途切れた。
「詳しくは、主から」
運転者は事切れた。白い血。この男もデミ。だが、同乗者の姿はない。
「主って、どこだよ」
「こちらです」
後部座席、一抱えある銀の箱が開く。
圧縮空気と共に現れたのは――生命維持装置に繋がれた、ラティナ家当主の首であった。
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