雇われた聖女
仙人掌
雇われた聖女
気が付いたら森の中にいた……。
「え、え……?」
自分が何者なのか、何故ココにいるのか思い出せない……。
突然の事態に驚いていると腹部から大きな音が鳴り響く、何で鳴ったのか謎だったがすぐにお腹が減った事が判明した、とにかく何か食べたい。
しかし周囲を見回したところで食べられそうなものはない、あるのは食べられそうにない植物だけだ。
食べ物を求めて自然と足が進んでいく、どこに向かっているか分からないがとにかく歩きだした。
途中で向かってきた生き物を殺して食べてみたがどうもおいしくない、それに口に入れてから飲み込む事に手間がかかってしまい、無理やり飲み込む事でかえって空腹を増す要因になってしまい無駄な労力になってしまっている。
「お腹……空いた」
しばらく彷徨っているとなぜか見覚えのある人里に到着した、これで何か食べられると思うと自然と進む足が速くなるが、人里に入った瞬間に手持ちがない事に気が付いた。
お金がなければ食べ物を得ることができないことも思い出して軽くなっていた足が再び重くなる、強盗や食い逃げをすることも頭をよぎったが、空腹が強いこの状態で食べ物を入れて急激に体を動かしても成功できる気がしない。
「どうしよ……」
空腹を更に主張するお腹を抑えて俯くと足元に光る物が見えた、よく見るとそれは小銭で先ほど生き物を仕留めた時よりも素早く動いて拾い上げる、もしかするとまた落ちているかもしれないと希望が見えたので、人目を気にせず下を用心深く見ながら進んでいく、するとまたいくつかの小銭を見つけたのでそれらも素早く拾っていく。
ある程度拾えたので目の前にあるいい匂いがする店に入っていく。
店に入ってみると客の姿が無くどうやら今はそういった時間帯ではないようだ。
「これで何か出してほしい……」
持っている小銭を全て出したがこれで足りるだろうか……、後で知ったのだが金額的にはこの地域の子供のお小遣いの方がもっとあるほどの少額だった。
「……おう、まかせてくれ」
若い店員が少し厨房に籠った後に懐かしい匂いと共に小皿に何かを載せて戻ってきた、量が少ない気がするのだがそれは出した金額が少ないのだろう、それでも無いよりかは断然いい、とにかくソレを早く食べたい。
そういえば気が付いてから初めてまともな物を食べる、何故か少し緊張してしまったが空腹が躊躇いを無視して口に運んでくれる。
おいしい、そう思った時には既に料理がなくなっていた。
「ぁ……」
「ほらよ」
「いいのか?」
「そんな食いっぷり見てたらその程度じゃ足りないと思ってね」
「ありがとう」
店員がおかわりを出してくれた、今回は味わってじっくりと堪能する、カリカリとした食感とそれに甘いソースがかかっているようで出された料理の正体はお菓子だと判明した。
「おいしい……」
2回目にもかかわらず思わずつぶやいてしまった、小皿に乗った料理があっという間になくなってしまったのがとても惜しくて寂しく思える。
何とかこの料理、もとい食事が一度きりで終わるのはとても惜しく、それにお腹が少しマシになったことで頭が動くようになり今後の事を一気に想像してしまった、また空腹に戻ってしまい野垂れ死にしてしまうかもしれない、そんな恐怖が徐々に込みあがってきてしまい涙があふれてきた。
「おい、大丈夫か?」
「……あの」
「はい?」
「ここで雇って下さい!」
「お、おう」
「あの、ここで働かせてください!」
「いえ、しかし自分にはそういうのは決められないので……」
「ここで働けないと私はもう餓死するしかないんです」
「いやそんな事言われても……」
「えーいいじゃん丁度女手が欲しかったし」
店員が困っていると店の奥から店員よりも少し若いまだ少女と呼べるような人物が出てきた。
「いやかってに人雇ったらダメでしょう?」
「でもさお兄ちゃん、前にお母さんが人手が欲しいって言ってたじゃん、そこにいるからちょっと聞いてくるね」
そう言うと少女は奥に消えていった、どうやら2人の男女は兄妹のようだ。
「あぁ、まぁとりあえず飲み物どうぞ」
「ありがとうございます」
嵐のように去っていったせいで気まずいような静寂が訪れる。
「この子が新しく入って来た娘のかい?」
「そうだよ」
「名前はなんていうんだい?」
「えっと、フィリシティ・アソシニッジです」
「アソシニッジね……」
奥から白髪交じりの女性が出てきて自分を下からじっくりと眺めると少し納得したような顔をした後にすぐに飽きたのか奥に引っ込んでいった。
名前を聞かれたことで勝手に口から出てきた、おかげで自分の名前が思い出せた。
「とにかく面倒はあんた達で見るんだよ、とりあえず丸洗いしてきなさい、そんなボロボロじゃあお客さんの前には出せないよ」
「はーい」
「ありがとうございます、これからよろしくお願いします」
「はいよろしく私はアリシア、じゃあきれいきれいしましょうねー」
ひとまずアリシアに促されるまま入浴場所に運ばれる、奥に入ってみると複数の扉があり大きな建物のようで入浴場所の手前で掃除中の立札を掛けていたのでこの建物が飲食だけではなく宿屋だということが判明した。
「本当にありがとうございます」
「いいのいいの私がしたいって言い出したことだし、それにしてもいい体してるわねぇ、これだと私の服は入らないし……、おかあさんの最大サイズもってきてー」
「ふむ、それはなかなかだねぇ」
着替えを持ってきた白髪交じりの女性は再び値踏みするようにながめる。
「え、私って何かおかしいのでしょうか?」
「いんや、何もおかしくないですよー」
「そうね、このバカが変な事を言わなければよかったんだよ、それにしても良い体してるね、何かやっていたの?」
「えっとそれは……」
「……言いたくないんだね、じゃあいいよ、とりあえずコレを来て試に接客やってみるかね」
「わかりました」
「……といっても人がくるまで少しだけ時間があるから練習するよ」
「はい」
2人からの接客の手ほどきを受けてある程度のことは教わった、その途中で常連が来たので事情を話して練習相手をしてもらうことにした、最初は緊張しながらもなんとか対応できたのでその日はアリシアと2人でいっしょに対応することになった。
ついでに2人が接客対応しているので、最初に対応してくれた青年以外は厨房に入れないようで仕事が増えて忙しそうだった。
初日ということで早めに飲食スペースの営業を閉めてくれた。
その夜は家族の紹介と歓迎会を兼ねることになった、その夕食を用意する際にフィリシティが手伝いを申し出たので調理の腕を見ることも兼ねて簡単な調理を任せてみると真っ黒な塊ができたのでしばらくは調理場にいれないことが決定された。
ちなみに最初に対応した店員はショウジ・アムスロックというらしい。
それから数日ほど接客させているとフィリシティの容姿が有名人に似ているということで彼女目的で飲食メインの客が増えてきた。
「やっぱり美人がいると活気があっていいなぁ」
「どうも……」
今日も酒が進み遠慮がなくなってきた客の相手をしている。
「美人ならもともといるじゃない」
「君はほら、ちょっとまだ早いからなぁ、それにこっちは毛色が違うがあの聖女サマにそっくりだぜぇ」
フィリシティだけでは対応できない事がまだ多いのでアリシアがフォローに入ってくれる。
「聖女様ですか?」
「そうだよ、最近あの魔王がついに討伐されたんだよ、その立役者なんだよ」
「そうなんですね」
「しっかし魔王を倒すとはいえ、聖女サマを犠牲にするなんて勇者もまだまだだよなぁ」
「ですねぇ……」
どうやら似ているといわれている聖女様は既に存命ではないらしく、それもあってか来る客が多いようだ。
「これも嬉しい悲鳴なのかねぇ」
「どうしたんですか?」
「それがね」
どうやらフィリシティが働き始めてから客が増えたことにより食材が足りなくなっているようだ。
近くの商店などで買うだけでは量が足りず、また通常の入荷よりも高くついてしまうので、飲食スペースのお昼営業を閉めざるを得なかった
「そういえばあんた腕に覚えはあるかい?」
「たぶん行けると思います」
「まぁ行けなくても最終的には行ってもらうけどね」
「あ、はい」
「とりあえず私とあんたとショウジお前で行くよ」
「うっす」
そういう訳で3人で近くの森に食糧を調達しに行く事になった。
森では山菜や小型の野生動物、魔物などを狩っていた、その日はいつもより小型の動物が多く獲れた。
「今日は早めに切り上げるよ、なんか嫌な予感がする」
いっぱいに入った籠を眺めながら神妙な顔をしている。
「嫌な予感ですか?」
「こんな獲れるのはおかしいからね、何かあるかもしれない」
「わかりました」
獲った得物を仕分けて籠に入れていると、森中に何かの叫び声が響きわたり、何かがこちらに近づいてくる音がする、警戒しつつ仕分けを急いでいると巨大な魔物が大きな口を開けて向かってきている。
「アレは大きな川にしかいないヤツだからこんな所にいるのはおかしい、散開しながらちょっかいかけつつ退散するよ!」
森の中な事もあってなんとかお互いをカバーしつつ回避ができていた、しかし魔物の諦めが悪くついに町の近くの森が開ける場所に出てしまった、そんな場所では逃げることが難しく、ショウジが一番近くにいたため今にも追いつかれそうになってしまい、食べられそうな状態になっていた。
「ダメ!」
ショウジが食べられそうになった時に、フィリシティの胸の奥から制御しきれない程の力が湧き上がってきた、それを大きな口を開けている魔物に向けて力任せに放つ。
放たれた力はとても大きく魔物の頭部に直撃してショウジを大きく吹き飛ばしてしまった。
土埃がおさまり見てみると魔物の頭部があった所は大きなクレーターになっていた。
「なんだこりゃ……」
「何がどうなったの……」
その光景を見ていた2人と攻撃をしたフィリシティ自体も何がなんだかわからない状態になっていると、大きな足音と共に何者かの叫び声が聞こえてきた。
「フェリー!」
誰かの叫ぶ声が聞こえてくるとフィリシティの頭の中で反響して、覚えのない記憶が断片的に流れこんでくる。
それにより思い出してしまった、さっきの誰かが叫んでいたのは私のことを呼んでいたのを、叫んだ人物があの魔王を倒した勇者だということを思い出した。
しかしそれ以上の事を思い出そうとすると霧がかかってしまい上手く思い出せなかった。
「フィリシティ!」
「……はっ」
記憶を無理やり思い出そうとして放心状態になっているところにショウジが名前を叫んだ、それにより更に記憶が思い起こされる。
勇者と会うずっと前の小さな頃にショウジと会っていたことを思い出した。
「どこに行っていたんだ心配したんだぞ」
勇者が馴れ馴れしくフィリシティにゆっくりと近づいてくるが、近づいてくるたびに勇者に対して嫌悪感が大きくなり、アレに関わると悪いことが起こる気がしたので接客で教わった対応の超丁寧バージョンで対応する。
「申し訳ございません、どこかでお会いしましたでしょうか?」
フィリシティの名前自体は探せばあるような名前なので、そこをついてなあなあにしてその場を収めようとする。
「僕が君を見間違える訳ないだろフェリ、僕だよ!」
「申し訳ございません、存じてないです、それでは私は仕事があるので」
勇者が引き留めようとするが仕事があると言って逃げるように退散する。
フィリシティ以外の2人は吹き飛んだ魔物の残骸を回収して換金と報告に持っていくと、どうやらかなりの額になったようでフィリシティ以外はホクホクとした顔をしていた。
「いらっ、……しゃいませ」
後日、勇者が客として現れた。
最大限警戒しつつ接客に挑むが普通に飲食した後に普通に帰ってしまい拍子抜けしてしまった。
それからは毎日のように勇者が昼食にやって来た、こちらを伺うような視線をよく感じるが接客が忙しいので無視していた。
お店での勤務と勇者からの視線が慣れて来た頃、相変わらず勇者は昼食をとっていた。
いつもは早くに食べ終わり早々に店を出るがその日は人が少なくなるまでゆっくり食べていた。
客が引いていき、こちらの仕事が一息つくのを見計らって話しかけてきた。
「最初は君に似た娘に君を重ねてしまって話しかけてしまいすまなかった、でも今は君そのものに惹かれているんだ、もっと君のことを知りたいと思ってね、よかったら今度食事でもどうかな?」
「仕事が忙しいのでごめんなさい」
「そうか時間ができそうな時にまた申し込ませてもらうよ」
そういって勇者はさわやかな笑顔を作って去っていった。
「……お断りします」
それから元勇者は毎日のように誘いをかけてきた。
「実は僕ってこの国ではかなり上位の貴族なんだ、でも僕はその地位に拘りはないのだけれど利用しない手はないと思うんだ、君はどうかな?」
「権力はあっても良いと思いますよ、私は今の場所がいいので大丈夫ですが」
「もしお金が必要だったらいくらでも言ってくれないか、タダで渡すことはできないが……、もし1日僕といてくれるなら出してもかまわない」
「そうなんですね、注文は以上でいいですか?」
「僕の家がお金に余裕があるんだ、もしよかったら支援でもどうかな?」
「そういった話は店長にお願いしますね」
「そういえばここの設備は型落ちの古い物だろう、だったら僕が高級な最新式をプレゼントしようじゃないか」
「……こんな大きなモノをどうやって店の中にいれるんだい?」
こんな感じで勇者のアピールは上手くいかなかった、それに見かねた勇者の部下が秘密裏に取り寄せた媚薬を使おうとしたが、仕込んだ飲み物が偶然にも床に落ちてしまい失敗するなんて出来事もあった。
「どうしたんですか、そんなに弱った風にして、私が盗賊の類だったら絶好のカモだとして襲撃していますよ」
勇者が広間のベンチで座って項垂れていると特徴のない男が話しかけてきた。
「問題ない、これでも勇者だからその程度には遅れはとらないよ」
「それでもそんな無防備にしていては危ないですよ、どうしたのですかよければ私に話してくれないですか?」
「……実は」
本来なら他人に言うものではないが度重なる失敗で心が弱っていた勇者は愚痴るように相談してしまった。
「気のある人に振り向いてもらえないんですね、では提案があるのですがどうでしょう?」
翌日も勇者がいつも通りに昼食に現れて普通に完食した後の会計にて、少し弱った風に話しかけてきた。
「実は自分でも料理を初めてみようと思ってね、お抱えの料理人はどうやら教えることに関しては上手くなかったんだ、いろいろな本で勉強しているのだがそれだとどうしても限界があってね、よかったら今度教えてくれないかな?」
この提案は最近料理の練習を始めたフィリシティにとって自分の腕を試せるので乗せられてしまう。
「まぁ、それなら私も練習しているから、人に教えることで上達しやすいっていうらしいしそれならまぁ」
「本当かい、それじゃあ後日」
勇者は上手くいった事で舞い上がってしまい、日程を決めずに帰っていってしまった。
「おはよう、昨日は上手くいったようだね」
翌日にあの男と会った場所に行くとあの男がベンチに座っていた。
「おはよう昨日のアドバイスは上手くいったよ」
「朝から熱心だね」
勇者は男を探すついでに全身に重りをつけてトレーニングをしていた。
「魔王を倒す旅が終わってからどうも剣の腕が伸び悩んでいてな、また1から鍛えなおそうかと思っていたところだ」
「でしたらいっそ戦闘スタイルを変えてみてはどうでしょう、私は剣術には精通していないのでアドバイスになるかわかりませんが」
「それでもいいならやってみるよ」
「でしたら一時的ですが体を慣らすために身体強化の魔法をかけてあげますよ」
「それは助かる、最初は変な動きをするからな、そういうのがあるのは助かるよ」
「いえいえ」
「いやー君と会えてから調子のいいことばかりだよ」
「それはなによりです、でしたら良い魔法があるのですが……」
「ほうなんだ、それは?」
「人を魅力的に見せる魔法ですよ」
「そんなモノがあるのか、ぜひかけてくれ」
「しかし実は、それには副作用がありまして……」
「僕は勇者さ、それくらい突破してみせるさ!」
「わかりました、では……」
ある日、フィリシティが休憩中にお菓子を堪能していると勇者が現れた。
「フェリ、こんな薄汚い所にいないで俺の所に来い、そんなゴミじゃなくてもっとうまい物を食わせてやる!」
「コレはゴミじゃない、いくら魔王を倒して世界を救った勇者で貴族であろうとももう許さない、そもそもお前なんか嫌いだ、もうココに来るな!」
近くに置いてある汚れたお皿を数枚投げつけて勇者を追い払う、さすがに追い払われるとは思っていなかったのか驚きつつ逃げるように消えていった。
「あ……」
「お嬢ちゃん、全面的にあんたの味方をするが、さすがに相手が悪くないか?」
「どうしよ……」
「まぁ、最終的にはみんなで引っ越しかねぇ」
「私のせいでごめんなさい……」
「いいのよ、もともとこの国に見切りをつけていた頃だしね、いい口実になったよ」
「じゃあ俺もその時は移動するかね」
「俺も俺も」
みんなで引っ越しするかと笑い話になり一時的に場が和む、その後は客も含めて全員が警戒していたが結局その日はなにもなかった。
翌日になると勇者が兵士達を引き連れてやってきた。
「フェリシティ、お前に不敬罪の容疑ある、おとなしく拘束されろ!」
勇者が兵士達の中心に立って店の前で大きく叫ぶ。
「好きな人に振り向いてもらえないからってそれは無いだろ!」
「勇者様が女の子1人相手になにムキになっているんだ!」
「なっ……」
勇者に対して次々とヤジが飛んでくる、さすがに複数の住人を相手にするのは分が悪いようで動揺を隠せずにいる。
勇者が俯いて動かなくなったかと思うといきなり腕で近くにいる兵士の腹部を貫ぬく。
そのまま心臓を取り出して捕食しだす、兵士が興奮して勇者に切りかかるが勇者は見ることなく片手で受け止めてそのまま剣をひねり兵士から剣を奪いとり、そのまま投げ返して殺した。
勇者の視線が野次馬に視線を移すと腰にある剣を抜き、一番近くにいる人に向けて切りかかる、少し距離があったおかげで致命傷はならなかったものの大怪我してしまった。
野次馬が「これはヤバイ」と感じたようで蜘蛛の子を散らすように逃げていったが、近くに住む住人達は居場所を守るために残った。
住人の1人が魔法で地面を隆起させて拘束するが、勇者は筋力で拘束を解除する。
今度は3人がかりで魔法を使って拘束して動きを止めるとさすがに筋力ではどうにもならないようで魔法を発動させて拘束している土を粉々にして吹き飛ばす。
勇者が再び近くの住人に切りかかるが剣を持った住人に防がれてしまう、がすぐに剣同士を弾かせて再び切り込む、住人はそれに対応できず正面から切り裂かれる。
目の前で仲良くなってきた住人が切られていくことで怒りと悲しみと罪悪感で勇者のところに向かう、途中で住人から剣を奪い魔法で自身を強化して切りかかる。
勇者はフィリシティが切りかかってきたことで動揺するが切払いして受け流す、フィリシティは咄嗟に空いた手から魔力弾をだして攻撃をする、咄嗟に攻撃したせいで大したダメージは無いようで少し後退させる程度だった。
フィリシティが一番強いと判断した住人達は彼女を中心とした陣形になった。
まずショウジが勇者を対象に麻痺させる魔法を放った後に住人達が4人がかりで土魔法を使って拘束を開始する、それからフィリシティが正面から切りかかるが勇者は剣を地面に突き立てて衝撃波を出して盛り上がった土を全方位に飛ばした、飛ばされた土片で戦闘に参加している住人の半数が被弾して脱落してしまった。
住人の多くが脱落したのでどうするか考えているとフィリシティのお腹が大きく鳴る、それで勇者以外の雰囲気が緩んでしまいショウジは吹き出してしまう。
そのせいで勇者のターゲットにされてしまい、ショウジに対して黒い炎を複数だして攻撃する、それに対して魔法で水を出して対抗するが火力が強いようで水蒸気が出る程度で消化できなかった。
ショウジに黒い炎が届きそうになった時にまた胸の奥から力が湧き上がってきた、前回は分からなかったが今なら分かる、魔王の力だ、前回は放出して使い果たしたが今回は全身に纏わせて身体の強化を図る、すると急に空腹になりショウジに向かっている黒い炎がとてもおいしそうに見えた。
ショウジに迫っていた黒い炎を引き寄せて吸収する、吸収できた本人が回りの住人達より驚いていた。
「うそぉ?!」
「おい今どうやった?」
それに勇者も驚いたようで今度はフィリシティに向かって魔力弾を大量に展開して発射する、しかしそれらもおいしそうに見えてすべて吸収してしまう。
魔法攻撃では効果がないと判断したようで接近戦を仕掛けようとしたがフィリシティが吸収した魔力を一部解放して勇者を吹き飛ばす。
遠くまで飛ばすつもりだったのだがやはり数メートル後退させる程度だった。
後退された勇者の足元には殺した兵士が転がっていた、それを少しの間見つめていると唐突にむさぼり始める、あまりにも光景に周囲は唖然としていた。
一通り食べ終わった後に獣のように叫んだと思うと巨大化していく。
さすがに動きを止める程度ではいかないと判断した住人達は拘束魔法から攻撃魔法に変更して攻撃を開始するがあまり効果がないようだ。
どうするか考えているといつの間にかショウジがお菓子を持ってきた、こんな時に持ってくる事に対して嗜めるがフィリシティのお腹が鳴ってしまい有耶無耶になってしまいフィリシティはショウジが持ってきたお菓子をやけ食いする。
お菓子を食べたことにより気力とかいろいろ回復した。
フィリシティがこれ以上町に被害が及ばないように大きな魔力弾を当てて注意を引くと元勇者が一度吠えた後に口から光線を放つ、それも吸収して魔王の力を増幅させて身体を強化すると体が隆起していきフィリシティも巨大化する。
巨大化したフィリシティの手には巨大で禍々しい剣を携えており、それを元勇者に向けると少し怯んだように見えたがすぐに口から炎を出す、しかし持っている剣に触れると炎が剣先に集まりフィリシティには届かなかった。
元勇者が建物を破壊しながら主人公に向かって人間離れした大きな鉤爪で攻撃してくる、それを剣で受け止めるとそのまま上に跳ねて刃を滑らせつつ元勇者の腕を切り裂いていく。
肘までは奪った炎が切れ味を強化してくれていたが炎がなくなったので肘から先は上手く断ち切ることができなかった。
それでも肘まで切断したダメージは大きいようで悲鳴を上げながら大きくのけ反った、フィリシティはそのまま飛び上がり剣に全体重を乗せて元勇者の頭部を貫くと絶命し悪臭をまき散らしながら切断面から溶けだした。
元勇者が完全に溶けて周囲が悪臭だらけになってから複数の兵士たちがやってきた。
「さきほどまでいた大きな化け物はどうした、倒したのか?」
「そうだよ、全員で協力して倒した」
「そうか大義であった、周辺の被害等の補てんは後日行うとして、たしかこの付近に勇者がいたハズなのだがお前たちはしらないか?」
「いえ知らないです」
他の住人達も首を横に振る・
「そうかで我々はこれにて失礼する」
「……役立たずだな」
誰かがそうつぶやくとみんなが笑いだした。
それから溶けた液体が広がっていた地域には破壊された物に対して国から少々ながら補てんがでるとの事だった。
液体の処理を総出で行っていると住人の1人が話しかけてきた。
「そういや嬢ちゃんに渡したアレはなんだい食べたらすごい力が出るみたいだが」
溶けた液体は粘りがあり片づけるのに苦労していた。
「そうなんだよ、アレすごいおいしかったよ、アレってどうやって作るの?」
「そうだよアレがあれば俺たちもパワーアップできるかもな」
「アレ?、あぁパンの耳を揚げただけだよ」
「……へ」
「ずいぶん安っすい強化アイテムだな」
再び町に大きな笑が響いた。
雇われた聖女 仙人掌 @Kakutasu
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