第16話 半分エルフは神を信じるか?

 ようやくデートだ!


 ついに今日の授業が終わったら、この間ソホンさん達と行った店で待ち合わせをして、サナラさんと夕食を共にすることになった。

 説明会最終日から、さらに三日経った訳だが、それはもう気にならない。

 説明会が終わり学生達が退室した後、サナラさんと教室で話す事が出来たからだ。

 トリスティアさんが気を利かせて出ていった後、日が暮れかけて少しずつ暗くなっていく室内で二人きりになったのだ。

 オレが受講を予定している最終の授業説明会が始まるまでの、少しの時間だったが二人はまるで恋人の様(?)だった。

 二人でデートの待ち合わせ場所と、日時をしっかり打ち合わせをしていたのだが、『デート』とオレが口にした時のサナラさんは、あっという間に耳まで赤く染めて、なんだか少し目を潤ませてさえいた。

 オレの視覚に直接的に訴え掛ける破壊力満点のサナラさんの姿は、オレの理性のブレーキを瞬時に故障させてしまったようで、あの時に次の授業時間の接近を知らせる予鈴が鳴らなかったら、色々と危ういところだったと思う。


 次の日からのオレは、やる気に満ち溢れていた。


 統合して、総合的な学習の可能な場となった学院は、まるでオレにとってはスキルの草刈り場の様であり、やる気を十二分に発揮したオレは、新しいスキルを既にいくつか習得している。

 例えば「騎乗」である。

 馬には乗れた方が確実に良いだろう。

 さらにオレは、これをアレンジして「騎射」まで習得出来ていた。

 休憩の時間に物は試しと、特習クラスの権利を行使して馬場と馬を借り、騎乗しながら弓を射つ練習をやっていたら、拍子抜けするほど、あっさりと習得出来ていた。

 自覚は無いが元々センスでも有ったのかもしれない。

 恐らく最短記録での武術スキル習得だった。

 その他にも「軍学知識」「短剣術」「体術(拳闘)」「長柄武器ポールウェポン」「御者技術」を習得することに成功。

 全て、まだスキル習得したてで習熟しているとは言いにくい状態だが、自習出来るものは自力だけでも上達が可能なのだから、実際にきちんと使えるようにしていきたい。

 さらに講師陣は専門の技術に限らず、全員が優秀な元冒険者などであり、授業内容以外にも彼らから学ぶ事は実に多い。

 魔法の授業でも、案外知らなかった応用的な使い方など、本では得られなかった生きた知識を学ぶことは今後も大いに期待出来そうで嬉しいところだ。


 そして魔法の練習の場を借りられるのも、実は非常にありがたい。

 帝都内では中々、故郷の様には都合の良い広い場所など無くて、どうしても魔法の練習は、主に生活魔法や攻撃魔法以外に偏っていたのだ。

 大規模な上位精霊魔法などは、エスタ村付近でさえも適切な場所が見つからず、まだ父から習っていない魔法も大変に多いので、父が迷宮都市オーウィズから帰って来た時は、必ず父を学院に連行して精霊魔法の教えを乞わなければならない。

 トリスティアさんの話によると精霊魔法については、すでに学院で習える範囲を越えているらしいからなおさらだ。


 昨日、父は迷宮都市オーウィズに向けて旅立って行った。

 元の仲間のうちジャクスイさんという人が迷宮都市にいて、パーティーメンバーを募っているらしい。

 乗り合い馬車なら片道三日ほどだが父は乗馬の心得が有るらしく、中々の駿馬を購入すると颯爽さっそうと旅立って行った。

 あの駿馬ならば、恐らく二日と掛からずに迷宮都市へと到達出来るだろう。

 ジャクスイさんは、よほど困っているのだろうか?

 サナラさんの師匠で、お互いの父親の元冒険者仲間……もしも結婚しているならば、仲人第一候補だな。

 もちろん、この世界に仲人制度が有ればの話だが。


 ちなみに母は父の迷宮都市行きについて、最初は相当に怒っていたが、ジャクスイさんの名前が出ると途端に怒りを収めて、しばらく冷静な話し合いをした後、快く送り出している。

 父の元パーティメンバーについては、かなりの実力者揃いだと聞く。

 当時から黄金級冒険者だったナシュト(サナラさんのお父)さんは別格にしても、アステールさん、ソホンさん、もちろんオレの父も相当な強者つわものだ。

 唯一、ずっと現役のジャクスイさんには、いつか体術や短剣術はもちろん、冒険者の心構えなどを教えて頂きたいものだ。


 今オレは学院内の新設された図書館で、最近の日課である、兵書や武術指南書などの速読を進めながら次の授業の開始時刻を待っていた。

 次の神学の時間は、神聖魔法習得に絶対に欠かせない授業だから、正直なところ、これまでの授業とは、やる気も違っていた。

 時間に余裕をもって本を元の棚に戻すと、予鈴がなってすぐに行動を開始……首尾よく一番最前列に陣取ることに成功した。

 この帝国には国教も禁教も無いのだが、神学の授業では主に『万神教』についての授業が行われる。

 この世界には庶民を中心に広く信仰される『万神教』と、王権や貴族権力の神授説を唱え支配層に根強く影響力を持つ『唯一神教』の二大宗教がある。

 帝国では五族対等を掲げ支配層にも五族の代表各が名を連ねているのもあって、人族以外を一段下に置く『唯一神教』を信仰する者をあまり見ない。

 むしろ『万神教』の祭礼行事などは、頻繁に見かける。

 太陽の神、地の神、知恵の神、戦の神、鍛治の神、幸運の神、航海の神などなど、簡単には覚えきれぬほど多くの神が存在する。

 変わったところでは料理の神、釣りの神、歌声の神、絵心の神など……。

 しかもそれぞれ一柱ひとはしら一柱に、個々の御名みなを持つ。

 しかも、神聖魔法行使の際は、詠唱する呪文に神様の名前が入るのだ。

 そのため神聖魔法の実際の行使を学ぶ授業については、以前の神学校時代から一年生の後期にしか受講出来なかったというのも頷ける話だ。


 まぁ、オレには向いてるかもね?


 何と言っても元々オレは、神社の初詣に始まり、七五三、お彼岸、お盆、クリスマス、最近だったらハロウィンからイースターまで、何でも有りの国の人だったようだから、神は唯一の存在で……信じない者は皆救われない……とか言ってるらしい『唯一神教』を信仰するのは実に厳しい。

 反対に、困った時の神頼み……で大丈夫そうな『万神教』の方が絶対に馴染みやすいし、現金な話だが、それが神聖魔法を使うためなら頑張って覚えようという気にもなる。

 しかし……クリスマス、かぁ。

 自分の記憶の大半は曖昧なのに、何故かしらこうしたことは覚えているから不思議なものだ。

 ちなみに担当の講師は、かなりご高齢な男性の太陽神の神官で何だかとても親しみやすい方だった。

 またもフィリシスが横に来て、授業が終わってからも歩きながら何かと話し掛けて来ているが……今日はデートだ。


 失礼させてもらう。


 現時点ではフィリシスの方が素早いので、撒くのに苦労するかと思ったが、正門に着く前にはいつの間にかオレの横から居なくなっていた。

 また何かしら、興味をひかれて、どこかで引っ掛かっているのだろうか?

 いやいや、今はフィリシスの行方よりも、サナラさんとのデートが大事だ!


 急いで待ち合わせ場所に向かって走り、サナラさんを発見!

 何だかいつもよりも、一段とお洒落な格好で、ごくごく薄いが化粧も施している様に見える。


 …………とても綺麗だ。


 ……綺麗なのだが、何やら横に見知らぬオッサンが座って、馴れ馴れしくマイスウィート(仮)に話し掛けていやがる!

 ……誰だ?

 しばらく睨むような視線を向けていると、二人がオレに気付いて、顔を向けてきた。

 サナラさんがオレに向かって可憐に笑い掛けてくる。

 ……嗚呼ああ、何て美しい女性ひとなんだ。

 ……じゃなくて、このヒゲがやたらとダンディなオッサンは誰なんだ?


 …………ほどなくして、このオッサンの正体は明らかになるのだった。

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