閑話4) 子に尾を踏まれた虎は
今オレは、帝都の冒険者ギルドの一室に設置されている、大型の魔法装置の前に立っている。
しかし……まさかカインズのやつが、ここまで早く力を付けてくるとは、正直なところ思ってもいなかった。
もちろん才能は認めていたし、学院で一年、二年……と学ぶうちに実力的に並ばれることすら覚悟はしていた。
しかし……まさか授業すら受け始めていない段階で、ここまで伸びるとは、誰だって思わないだろう。
魔法に関しては既に使える種類からして同等どころか、それ以上の実力をカインズが身に付けているのは分かっていた。
問題はむしろ武術の方だ。
他はともかく、オレが教えていた弓や槍まで、既に達人の域に達しているのだから……。
息子は、ここのところ、毎朝のように、オレを相手にして槍の鍛練をしている。
しかも気を抜くと、危なく一本取られそうなほどの一撃を、ちょくちょく放ってくるようになってきた。
技量的には、実はまだ荒削りな部分も残っているのだが、あれほど闘志を剥き出しにして、向かってこられると、どうしてもこちらの注意も防御の方に向いてしまう。
何くそ……とばかりに反撃すると、大抵はオレが一本を取って仕切り直しになるのだが、たまに滅茶苦茶な反応速度を見せることが有り、そんな時に放たれる迎撃の一撃が恐ろしいほど鋭い。
……そういう時は、敢えて貰ってやっている。
闘志を宿した戦士は強い。
良い傾向なので是非ともこのまま伸ばしてやりたいものだ。
精神状態の変化を切っ掛けに、自分自身の壁を破ることに繋がるというのは、戦士には良くある話だ。
オレ達と組んだばかりの時の、ソホンが良い例だった。
同じような境遇の農村出身組の中で、ソホンだけが頭一つ抜け出したのは、ヤツが前にいたパーティが想定外のアクシデントで、半ば壊滅してしまってからだ。
そんな目に遭ったら、普通なら田舎に引っ込むか、自堕落な生活ぶりをして駄目になるのだが……ヤツは違った。
もの狂いのように鍛練に励み、
その姿は見ていて危ういものを感じさせた。
ヤツをうちのパーティに引き込んだのは、ナシュトさんだ。
ナシュトさんは『あれほどの前衛をソロにしとくのは惜しい』などと言っていたが、本当は純粋な若造が壊れていくのを、心配していたのだろう。
カインズの変化は、勿論だがソホンとは違う理由だろう。
試験中の同年代の受験生に、よほど優秀なヤツが居たのだろうか?
だが、それにしちゃ気合いが入り過ぎだ。
……さては女か?
こないだソホンが家に引っ越し祝いを持ってきた時に、何やら二人でヒソヒソ話してたが……何か関係あるのかね?
悪い遊びでも教えてなけりゃ良いんだが……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
オレが考え事をしているうちに、ギルド職員に頼んでいたスキルやステータスステージの代筆が終わったようだ。
『名称:イングラム』
『種族:エルフ』
『年齢:39歳』
『職業:冒険者』
《能力》
生命力:99
魔力:302
筋力:65
体力:71
知力:68
敏捷:139
器用:221
精神:158
《スキル》
「弓術」「槍術」「短剣術」「聴覚探知」「精神集中」「魔法耐性」「状態異常耐性」「魔力感知」「魔力操作」「魔力回復速度上昇」「魔力消費減少」「高速詠唱」「詠唱短縮」「風魔法」「生活魔法」「精霊魔法」「精霊の加護」「演奏」「歌唱」「木工」「釣り」「算術」「罠作成」「野草知識」「史学知識」「魔物知識」「御者技術」「騎乗技術」
当たり前かも知れないが、田舎の安穏とした生活では、能力やスキル等は伸びない。
たとえ自己鍛練を欠かさない者でも、現状維持か微増というのが関の山というところだろうか。
オレも例に漏れず、ほとんど引退時と変わっていない。
エルフという種族の特性が、老化を遅らせてくれるため、能力の減退こそ無かったが、逆に言えば、能力が上昇していくほどの鍛練も、出来てはいなかったようだ。
やはり、潜らねばならない。
帝国領内で最大の
迷宮都市へ向かうとならば、帝都は離れねばならない。
日帰り可能な帝都近郊のダンジョンでは、正直オレには物足りない。
それに、日銭稼ぎの冒険者と臨時に組んでいても、得られるものは極めて少ない。
帝都に来てからの二週間ほどで、その事実は痛いほど実感出来ていた。
迷宮都市には今、ジャクスイが居ると聞いた。
仲間には、そこそこの腕利きを揃えているようだが、ちょうど学院の講師になった者がいて、後衛が不足していると聞く。
ここは素直に甘えてしまおう。
ヤツにとっても悪い話では無いはずだ。
家への道すがら、オレは決意を固めると、帰宅を取り止め、古い友人が切り盛りする孤児院へと足を向けた。
オレが不在中の息子のことを頼むのに、彼以上の適任者はいない。
彼なら快諾してくれるだろう。
……問題は、その後だ。
結局、孤児院を後にし我が家に辿り着いても、アマリアに何て言ったら良いのかは、オレには一向に良い案が浮かばないままだった。
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