第14話 半分エルフの半分純愛物語

 ついに入学式だ!


 オレは今日という日を心待ちにしていた。

 何故かは、もうお分かりだろう。

 そう! やっとサナラさんの顔を、再び見ることが出来るのだ。


『まずは、お友達』


 これがオレとサナラさんの現在の関係だ。

 教師と生徒。

 三歳の年の差。


 それが何だと言うのだ!

 猪突猛進、一気に落とす!

 鈍感? 何それ? 美味しいの?

 もう一週間も会っていないのだが、オレはむしろ激しく燃えていた。

 萌えたがゆえに燃えていた。


 自然と鍛練にも身が入った。

 ここのところ、一日に一度は、槍の鍛練中に父に良い一撃を入れてやっていた。

 まぁ、いつもより本気にさせちゃって、倍じゃ効かないぐらいやられているけどね。

 何やら『急にどうしたんだ? やはり早々に潜りに行かないとダメなのか』などと呟いていたけど、いったい何の話だろうか?


 この一週間というもの、サナラさん、トリスティアさんらの講師陣は、学院にほとんど缶詰めといった有り様で、採点と合否判定、クラス分け作業に励んでいる。

 今回『帝都五学舎』が統合されたことに伴い、採点やクラス分けを担当した講師陣には、より繊細かつ膨大な作業が求められているらしい。

 単純に考えても、例えば、本来であるなら五学舎の首席に座ったであろう、それぞれの長所に秀でた人材が、その統合によって『帝立大学院』だけに集中するのだ。

 しかも学院になって新規に、一定以上の水準に達すれば、希望者には奨学金というものが支払われる運びとなり、入学試験を受けた人数は、今まで五学舎を受験した平均の人数からすれば、優に三倍を数えたという。

 これについては、もちろん新しく技術学校的なものが併設されたことから、本来なら徒弟として追い使われる以外に、技術習得の術が存在しなかった分野をも、学生生活を送りながら一般教育の分野とともに、効率良く習得出来るとあって、本来なら各種商工ギルドの門を叩いていたであろう人材が、一気に流入してきたのも大きい。

 以前にも述べたかも知れないが、今回の統合における教育体制の一新は、帝国ばかりか、その周辺国に、間違いなく人材面はもちろん、経済的にも好影響を及ぼすだろう。

 経済圏単位での発展を、広範囲に渡ってもたらすはずだ。

 大変に素晴らしいことでは有るのだが、今回の五学舎統合によって、オレがサナラさんに会えない日が、間違いなく伸びたのも事実だ。

 オレが、ほんの少しだけ祖父を恨みたい気持ちになったのも、仕方がないことだと言えるのではないだろうか?


 合格通知についてだが、これは二日前には届いていた。

 つまり採点自体は既に終わっていて、サナラさん達は、それ以降はクラス分けをしていたことになるのだろう。

 担任制度とかは有るのだろうか?

 有るなら是非、サナラさんのクラスに!

 ……いや、待てよ。

 非常勤には担任も何も無いよな。

 そもそも完全に自主単位制なのだから、日本で言えば大学みたいなもので、担任とか多分必要ないハズだ。


 あれ、実はクラスも必要無いんじゃ?


 あれこれ考えているうちに、学院に着いてしまい入学式が始まる。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 まず、結論から言わせてもらおう。


 ……クラスって、そういう意味じゃ無かったよ。

 クラスごとに、選べる授業や講師が違うのだ。

 つまり『学級』という意味のクラスじゃなくて、この場合は『階級』という意味での、クラスだったようなのだ。

 幸いなことにオレは、入学試験で目立った失敗もしなかったので、この学院の一回生としては、最良の順位を得ていた。


 つまりは首席合格というヤツだ。

 三歳の頃から弛むことなく努力して来たオレとしては、そうした苦労が報われた気がして、何やら感慨深くもある。


 ともあれ……入学式も無事に終え、今は入学後の手続きと、実際上の単位選択の方法について講習を受けている。

 今、この教室には特に選りすぐられた十二名の生徒しか居ない。


 特別習得クラス……何故か教頭だという担当者自ら略称を決めて、特習クラスと呼んでいた。

 名前はちょっとアレだが、希望すれば全ての授業を選択可能だし、授業が途中でも及第以上の水準に達すれば、その時点で単位が貰えるうえ、学院の施設の使用権なども優先して与えられる。

 …………まるで誰かが手回ししたような都合の良さを感じたが、気のせいだと思いたい。


 他のクラスには、各得意分野ごとの専攻クラスや、総合的には及第点に達したものの特筆すべき能力を持たない総合履修クラス、専門技術クラスなど非常に細かく分類されていて、それぞれに配属されたクラスについての説明を受けているようだ。

 オレと同じ特習クラスに配属された他の顔ぶれも、何となくだが『デキる』オーラを漂わせている。

 だが、その中には異様に目立つ存在が含まれていたのだ。

 オレも背は低い方だが、それより明らかに小さい入学生がいた。


 あの時の、地這族ミニラウの少年だ。


 この少年だけは、妙にピリピリした他の者と違って、何だか周囲を弛緩しかんさせるような気配を撒き散らしているのだ。

 そういった態度はむしろ彼の存在感を高めていて、その小さな身長に反して一際ひときわ異彩を放っていた。


 ガイダンス的な講習も半ば終わり、休憩として自由な一時が与えられる。

 オレは、まず真っ先に彼の元に向かった。

 彼の名はフィリシス。

 姓は地這族ミニラウには無いらしい。

 ちなみに、十二名の中でも最も幼い容姿ながら、教頭から発表された順位によれば次席だということだ。

 ……彼に言わせれば不服らしいが。

 ほんの少し話しただけのつもりだったが、休憩時間は終わりを告げる。


 この時既に……オレは何となく、この先もフィリシスとは縁が有りそうな気がしていた。

 底抜けに良いヤツだったのも有るが、ナリに似合わず、言葉選びにも、身のこなし方にも一切の隙というものが見当たらなかったのだ。


 それよりも、オレが悲しかったのは、今日の入学式で教員の列に並んでいたサナラさんは、試験の時と同じようにフードを目深に被っていたことと、やっと廊下の向こうに見掛けても、大変に忙しい様子で一言も話せなかったこと。

 嬉しかったのは、すぐに行ってしまったものの、一瞬だけ目が合った際にこちらに向けて恥ずかしそうに、ほんの少しだけだったが微笑んでくれたことだった。

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