第9話 入試② 鑑《かがみ》映す鏡
武術試験が無事に終わり、入学試験会場では、続けて魔法の試験が行われている。
まずは自己申告により自分の適性の有る属性を試験官に告げ、特殊な魔法具を用いて試験官が適性と魔力量を測定することで、受験生の申告に誤りが無いかを確かめていく。
これは『魔通の儀』が各家庭単位、または私的な繋がりにより、儀式親を定めて行われていることの、ある欠点を補うためのものらしい。
事前に説明された内容によると実は、よほど優秀な儀式親で無い限り適性の診断に誤りが有ったり、適性の診断自体を行うことが出来ていない場合が有るのだという。
最低限、生活魔法だけでも使えれば、何とか『魔通の儀』の儀式親自体は務まる。
……とは言え、単に体内魔力オドと自然魔力マナを繋げるだけならば……という話ではあるのだが。
それ以上の、魔力親和性診断や基礎魔力量診断、適性属性診断となると、儀式親に求められる能力は途端に上がっていく。
そのため本来は可能ならば、出来るだけ実力の有る
だが実際に儀式親を務めるのは、庶民の場合は大抵が両親、家族など血縁の有る者のうち最も魔力が高い者か、その知人等で魔法を使い慣れた者に限られる。
元来、魔力や魔法の適性は人それぞれだ。
種族や両親からの遺伝などの要素はもちろんだが、神や精霊との親和性などによっても個人差が出てくる。
親を上回る才能を持つ子供は、いつの世でも、当たり前に生まれてくる(……その逆の場合も多いが)。
統合以前の『帝都五大学舎』体制下において魔法の試験が行われていたのは、魔法学院、冒険者養成所に限定されていた。
今回の魔法適性測定試験の方法は、元々は冒険者養成所で行われていたものだ。
以前の魔法学院を受験していたのは、一部の例外を除いて貴族など富裕層の子弟ばかりで、私塾の教師や家庭教師を生業なりわいにする魔法行使者から、魔法の才能を認められた者に限られていた。
つまり、よほど優秀な才能の持ち主で無い限りは、充分に正確な判定が儀式親から為されていたということでもある。
むしろ
判定に用いられるのは『
オレも先ほど試験を済ませてきたが、映し出されたのは、オレが固有スキル【解析者】の脳内音声を聞いて、その都度アステールさんから貰った自習用の紙(この世界では貴重品……)に書き出していたメモに記されたものと、寸分違わず実は少し驚かされた。
しかし、何故だか分からないがオレの横に試験官として臨席していた妙齢のエルフ女性が、オレ以上に驚いたような顔をしていたのが印象的だ。
美しい女性試験官は暫く食い入るように魔法装置を凝視していたが、しばらくして我に帰ると非常に整った怖い顔でオレを睨み付け、次の試験に向かうよう淡々と言い渡された。
何か失礼なことをしたのだろうか?
すごく良い香りだ……などと思っていたことが、あの人にバレていないと良いのだが。
今は次の試験の順番待ちの列に居るのだが、先程のエルフ女性から視線を向けられている気配を感じて振り向くと、慌てた様子で顔を背けられてしまう。
……うわ、やっぱりバレてたのかな?
◆ ◆ ★ ◆ ◆
(……あの子、いったい何者なのよ?)
私は自分に与えられた役割をこなす合間に、先ほどの少年をチラチラと見るのを止めることが、なかなか出来ないでいた。
最初に少年から自己申告を受けた時に、内心は嘲るような気持ちでいたのも否定出来ない。
変わり者のエルフの
半分エルフ。
半端エルフ。
私自身は自らも生まれた森を出てきた変わり者なのだから、そこまで偏見の強い方ではないと思っている。
でもハーフエルフの少年が、純血エルフかつ最近まで現役冒険者だった、この私より精霊魔法のスキルレベルが高いとは思えないもの。
しかも、他にも属性魔法全種と未習得ながら、神聖魔法の適性まで持っているなんて信じられるわけが無いじゃない。
良いところのお坊ちゃんで、周りの適当な賛辞を真に受けている可能性は……ハーフエルフなんだから無いわよね。
だったらやっぱり子供の頃からイジメられて、心に傷を受けたほら吹き君ってとこかな?
もしそうなら背伸びしたくなる気持ちも分からないではない。
……でも、私は嘘が嫌いだ。
嘘は冒険者としてやっていくうえで、最も忌むべきものだもの。
一度、自信満々の人族の男達に騙されて彼らのパーティに参加してゴブリンの巣を潰しに行ったけど、口ほどにもなくホブゴブリンに蹴散らされて逃げた男達のせいで、危うくゴブリンの赤ちゃん産まされそうになったんだから!
私は嘘をつく男が大っ嫌いだ!
……里の皆がハーフエルフを悪くいう理由が少しは解った気がするわ。
そんな内心をおくびにも出さず、ほら吹き少年に魔法装置の前に立つように促す。
しかし、少年の言っていた内容は、目前の鏡に映し出されたものと寸分も違わなかった。
カインズ?
そんな名前の子は、試験官を務める先輩講習陣の下馬評に出てこなかったじゃない。
帝都で有望視されていた子の名前は、私塾を経営していた人や、貴族の子弟の家庭教師をしていた人から、事前に話題にされていた。
その中で最も優秀な子でも、こんな桁ハズレの魔力も膨大な数のスキルも持っていなかった。
それは、ある意味当たり前の話。
十二歳という年齢を考えれば、最も早熟な人族でも、魔力は二桁前半、スキルに到っては一つ二つ持っているだけでも、充分に良い方なのに……。
第一、金持ちのボンボンみたいな、ベテラン冒険者同伴による同行育成パワーレベリングされてるわけでもないみたい。
そんなのに、こんな異常な魔法行使能力……貴族どころか王族、帝族でもあり得ないわよ。
誰だって目の前に天才がいるなんて、にわかに信じられる訳がない。
しかもハーフエルフ。
さらに今まで全くの無名の存在。
信じられない。
でも信じざるを得ない。
何とか我に返り次の試験に向かうように言い渡すと、何だか彼は怪訝そうな顔をしていた。
……よっぽど難しい顔でもしていたのかしら。
エルフに老化の心配はあんまり要らないけれど、眉間にシワを寄せてばっかりだと癖に成らないとも限らない。
あ、カインズ君が次の試験を受けるわ。
実際に魔法を目の前で見せられる試験官の驚きは、私の比じゃないハズよ?
せいぜい驚かせてあげなさい。
悔しいけど、私はあなたを認めてあげる。
明日には、みんな認めてくれる。
私は……最近しつこくエルフの私をデートに誘ってくる人族の新米騎士の顔を思い浮かべながら、試験を受けに向かう少年の後ろ姿を、いつまでも見送っていた。
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