第5話 得物違いの獲物
オレの十歳の誕生日から半年ほどが過ぎた。
あれから、精霊魔法を中心に修練していたが、あまりにも短期間で上達したため、父も戸惑うことが多いようだ。
最近は、魔法にばかり偏らないようにと、もっぱら体力造りと弓術、槍術を中心に、鍛練に励んでいる。
まだまだ体力や武術よりも、魔力、魔法関連の方が得意で、バランスとしては
現在は、こんな感じだろうか?
生命力:6
魔力:9
筋力:3
体力:3
敏捷:4
器用:5
精神:7
《スキル》
「弓術」「槍術」「投擲」「魔力感知」「魔力操作」「魔力回復速度上昇」「高速詠唱」「詠唱短縮」「火魔法」「水魔法」「土魔法」「風魔法」「闇魔法」「生活魔法」「精霊魔法」「精霊の加護」
《固有スキル》
【解析者】
〈※派生スキル〉
「自習自得の心得」「師事効果増大」「心身成長補正」「読書の骨子」
時折、脳内に響いて新しいスキルの習得や、スキルレベルの上昇、ステータスステージの上昇を告げて来る機械的な脳内音声を、オレは敢えて擬人化し【解析者】さん……と呼んでいる。
父とともに鍛練に励んでいる時は良いのだが、1人で黙々と修練している時に【解析者】さんの声がすると、孤独な努力にも張り合いが出るというものだ。
元々が人族と比較すると、魔力に優れ肉体的な能力で劣るのが、エルフやハーフエルフの特徴と言われている。
平均的な人族の基本魔力を十とすると、エルフが二十、ハーフエルフが十五。
同様に人族の基本体力を二十とすると、エルフが十、ハーフエルフが十五。
魔法関係の素質に較べて、武術関係の素質に劣るのは、謂わばエルフやハーフエルフという種族の特性で有って、実に先天的なものだ。
そのため、冒険者のエルフやハーフエルフには、前衛を務めるタイプは皆無に近い。
主に後衛からの精霊魔法で、支援・攻撃を行い、魔力に乏しくなったら、そのまま後衛から弓で援護するか、中衛に上がり槍で戦闘に介入する。
ただしハーフエルフの場合、魔力量や魔法の適性で純血のエルフに劣り、武器戦闘でも、純粋な戦闘職に劣るので、中途半端な存在になりやすい。
……ハーフエルフの冒険者は大成しない、という常識が有るようだ。
ところが、オレの場合は固有スキル『解析者』が、段々と壊れ性能になって来ていて、色々とヤバい感じに成長している。
ここのところ、肉体的な鍛練メニューが多くなったせいか、身体能力の上昇が日ごとに実感出来ている。
そのうち、気付いたらゴリラみたいになってそうで怖いのだが、外見的には今のところ大きな変化は見えない。
今日は、本来なら二週間に一度の休養日なのだが、ここのところの習慣のせいか、朝起きてすぐに体を動かさないと落ち着かない気分だったので、軽い走り込みと、槍の鍛練をしに森まで来ていた。
森に入るとすぐ、いつものように半実体化した精霊達に囲まれたが、今日は精霊魔法の練習をしないことを、走りながら思念で伝えて解散して貰う。
ひとしきり走ると、徐々に汗が滲んできた。
今ではもう何の問題にもしていないが、平坦な道を走るのではなく、起伏に富み障害物も多い森の中を走るというのは、慣れないうちは大変な作業だった。
この頃は息を乱さず、なおかつ必要以上に物音をたてずに、森中くまなく走破することが可能なぐらいだ。
槍や弓の練習についても、障害物の無い平地でばかりやっているより、よほど実践的なものになり得る。
実戦の機会は、何も平地に限定されるとは限らないのだし……。
いつもと比べれば軽めの鍛練だったが、有意義な時間を過ごして満足したオレは、自宅へと戻った。
すると、家の前に見知らぬ男性が立っていて、こちらに気付くと、人懐っこい笑みを浮かべてくる。
男性は年齢はパッと見では、二十代半ばぐらい。
全体に人の良さを醸し出しているが、会釈を返しながら近寄れば、見上げる様な大男だった。
旅装では有るものの、大きな鎧櫃を革のベルトでリュックのように背負って、腰には剣帯で長い剣を吊っている。
まんま戦士…だな、うん。
「やぁ! カインズ君……だよね?イングラムそっくりだなぁ。あ、でも目鼻立ちは、アマリアちゃんに似てるかも…………」
「はい、僕がカインズです。初めまして。父のお友達ですか?」
「お、ご丁寧にどうも! オレはソホンと言う。イングラムとは昔の冒険者仲間さ。朝早くに済まないが、イングラムは居るかな?」
ソホンさんは、地面に片膝を突いてオレの目線に合わせると、グリグリ頭を撫でながら話掛けて来た。
しかし、デカいうえに良く通る声だな。
案の定と言うべきか、オレが答えるよりも早く玄関の扉が開いて、母が顔を見せた。
「ソホン君? うわぁ、お久しぶり! 変わって無いわねぇ」
「アマリアちゃん、久しぶり! アマリアちゃんこそ相変わらず綺麗だね。……アレ、そのお腹はもしかして?」
「うん、そうよ。やっと二人目。それはそうと、イングラムなら中に居るから入って、入って!」
母に招き入れられ、しゃがみ込むようにして、家の中に入っていくソホンさんの後に、オレも続く。
「ソホン! 久しぶりだな! それで、今日はどうしたんだ?」
「やあ、イングラム。元気そうで何よりだよ。実は今まで居たパーティなんだが、そろそろ解散って話になって。それで……来年、久しぶりに一般向けの騎士登用試験が有るだろ?」
「あぁ、五年に一度……そういや、来年か」
「そうそう、それを受けることにしたんだけど、それまでは故郷で、のんびりしようかなって思ってね」
「故郷ってことは、ソホン……この村に?」
「ま、そういうことになるね。しばらくは、ご近所さんだ。改めてヨロシク頼むよ」
こうして、故郷のエスタ村に戻って来たソホンさん。
そう、ここは元はソホンさんの生まれた村で、両親が結婚後に転居先に選んだのも、まったくの偶然では無いらしい。
ソホンさんの父親は、この村の村長だし、ソホンさんのお兄さんも、次期村長として人望の厚い人だったりする。
本来、のんびり鋭気を養うつもりで帰って来たソホンさんだったのだが、うちの両親がソホンさんほどの逸材を単に安穏と過ごさせるハズは無かった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
明くる朝、村長宅にソホンさんを訪ねた両親が、渋るソホンさんを説得して、オレへの剣の指導を承諾させてきた。
……説得に出掛ける時の両親の目は、まるで獲物を狙う狩人の様に爛々と輝いていたのを、付け加えておく。
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