第2話

「アキト!おい!いるのか!」

大声が家にひびく。

少年はびくっとなり、ドアをみる。何もない部屋に、男3人が上り込む。

「ちょっと遊ぶからよ、でてってくれ。3日くらい。ほらよ。」


男は千円をアキトに渡した。

「はい・・。」

アキトは小さく頷いた。


そそくさと身支度を揃えて、でて行く。身寄りはないので、近くの海で野営というか、野宿でもしよう。


千円を握りしめて、足早に動く。


身体中が痛い。


大声を出した人物は父親だ。母もいるが、仕事をしているため滅多に家に来ない。


アキトの身体中にはひどい傷があった。


本来なら、学校に行く年齢だが、アキトは戸籍がない。

両親が手続きしていないのもあるが、両親はヤクザだ。世間受けは良くない。

公的なサービスも規制がある。


身体中の傷は、強い男にするために訓練した結果だ。

命が終わるギリギリまで毎日追い詰められた。


その時に、おった代償で僕の右目は潰れている。

刃物での訓練の際、うっかりスパッといったのだ。

さすがにこの傷は母親が心配したのか、刃物での訓練はなくなった。


右目が見えないせいか、耳が敏感だ。おそらく、一般人よりは聞き分けができる。


だから、大きい音には必要以上にびっくりするし、人混みは苦手だ。

人の心臓の音まで聞こえてしまうからだ。


僕は、自然や動物が好きだ。

家にいるより、野営の方が好きである。

だから、ヤクザの自立する年。ヤクザは15で社会にでる。

その時は、漁師か、森林保護か、そのあたりに弟子入りしようかと思っている。


などど考えいてるうちに、目的の海についた。この海は治安が悪く、闇取引を行う場所になっている。あまりに危険なため、警察も一般人も近寄らない。

しかし、今の時期は穏やかだ。闇取引も浮き沈みがあるから、今の海には人っ子一人いない。そして、ここには野生生物がたくさんいる。海も綺麗だ。


皮肉なもので、人が寄り付かないと、こうも美しい自然が広がっているものなんだと思った。


早速野営の準備をする。


砂浜にもってきたブルーシートを引いて寝る。

これでおしまいだ。


夜空にはたくさんの星が輝いている。

あの星にはそれぞれ世界があるのかな。なんて考えると、思考はどんどんと飛躍していく。

この世界以外にも世界があるのかな。

もし、そうだったらなぜ僕はこんな環境に生まれたんだろう。

ヤクザをつぐため?

幸せになるため?

誰かの役に立つため?

痛い思いをするため・・・?


なんだか悲しくなってきた。右目が痛む。

僕には、友と呼べる人はいなかった。


一匹の鳥が、僕の頭を突いた。


「はは。こらこら。まだ生きてるよ。」

僕は囁く。

鳥は僕の仰向けに寝た、お腹に移動して、ちゃっかり座る。とても暖かい。


軽く撫でると、鳥は気持ち良さそうに目を閉じる。

鴨の一種みたいだ。


ということは・・・。


気がつくと、周りに十匹ほどの小鴨ともう一匹、親鴨がいた。


「はは・・・。親子連れか・・・。」


いつのまにか、羽毛ぶとんのようになったブルーシートは冬の海にしては随分と暖かくなった。



そこで僕は異変に気が付いた。


最初にのったかもの背中に手紙が挟まっていた。


なんだ、これ・・・?

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