新たな冒険の始まり2

「失礼いたしました、ヨーイチ様。ギルドマスターでしたら執務室でお待ちです」


 すでに陽一の用件を知っていた受付嬢が、そう言って彼を促す。


「どうもありがとう」


 陽一は受付嬢に一礼すると、女性陣を連れてセレスタンの執務室を訪れた。


「アラーナちゃん、陽一、それに他のみんなもよくきた」


 執務室のドアを開けると、セレスタンが5人を迎え入れた。

 室内にはセレスタンの他に、彼の妻であるフランソワと、娘にして魔術士ギルドマスターのオルタンスがいた。


「わかっていると思うが、新境地の調査には冒険者ギルドの威信がかかっている」


 セレスタンが厳しい表情と硬い口調で言うと、室内の空気が一気に引き締まったように感じられた。


 背筋を伸ばし、緊張の面持ちで言葉を待つ陽一らだったが、セレスタンはふっと表情を緩める。


「……と私がなにを言ったところで、気にするお前たちじゃあるまい」


 ギルドマスターはそう言うと、陽一の肩に手を置いた。


「いつもどおり、好きにやってこい」


 そして苦笑気味な笑みを浮かべ、そう言った。


「はい、師匠」


 そんなセレスタンに、陽一も微笑んでそう答えた。


 場の空気が緩くなったところで、各々好きに話し始める。


「カリン、アミィ、くれぐれも無理はしないようにね」

「はい、フランさま」

「了解っす、ばあちゃん!」


 フランソワの言葉に、花梨は穏やかな笑みを浮かべ、アミィは元気いっぱいに答えた。


「ミサト、寂しくなるわね……」

「大丈夫ですよ、先生。ときどき帰ってきますし、シャーリィもいますから」

「ふふふ……それもそうね」


 実里の旅立ちに寂しそうな顔をしていたオルタンスだったが、すぐに笑顔を取り戻す。


 そうやって各々別れの言葉を交わし、一段落ついたところでセレスタンが表情をあらため、5人を見回す。


「カリン、ミサト、アミィ、気楽にやればいい。ヨーイチはみんなを頼むぞ。それからアラーナちゃん」


 そして彼は孫娘を見ると、複雑な表情を浮かべる。


「なんですかお祖父さま?」

「いや、なんというか……くれぐれも、やりすぎないように」


 アラーナは、史上最強ともいうべき魔王パブロを一撃で倒したうえに、時空の裂け目を生み出した。

 あれには管理者ですらドン引きしていたのだ。


「はい、心得ております」


 祖父の言葉に彼女は苦笑しつつ答えた。


「よし、それじゃあいってこい!」


 セレスタンらの激励を受け、陽一、花梨、実里、アラーナ、アミィの5人は、執務室を出るのだった。


○●○●


 冒険者ギルドを出た5人は、セレスタンが用意した馬車に乗って町の外へ出た。


 そこにはロザンナたちが乗った馬車が停まっている。

 彼女たちはすでに降りて待っていた。


「おっ、きたみたいだね」

「遅かったやないかー」


 陽一らが馬車から降りると、サマンサとシーハンが声をかけてきた。


「悪い、おまたせ」


 陽一は彼女たちに答えながら馬車を降り、ほかのメンバーも続く。

 全員が降りると、馬車は町へと引き返した。


「おっ、どうやら全員揃ったみたいだね」


 そこへ、ひとりの青年が現われた。


 ジェイソンである。


「ジェイソン、悪いな」

「いいよいいよ。あれ以来、また写真熱が再発してね」


 ジェイソンはそう言いながら、一眼レフカメラを掲げた。


 この場には、トコロテンのメンバー以外にヴィスタとジェイソンしかいない。


 町を挙げての壮行会をやろう、という意見も出たが、陽一が断った。個人的な見送りに関しても、メンバーそれぞれ顔が広く、かなりの人が集まるうえに、それが呼び水になって大騒ぎになる恐れもあったので、こういうかたちに落ち着いたのだ。


「それじゃあみんな並んでー」


 ジェイソンが声をかけ、荒野にトコロテンのメンバーが並ぶ。


 これから、メンバー全員で記念写真を撮るのだ。


「エリザベス、いい子にしなさい」

「はーい」


 エリザベスは、ロザンナが抱えた。


「あ、ロザンナさんの隣、ひとりぶん空けといて」

「オッケー」


 陽一が声をかけ、サマンサが答える。


「みんなー、もうちょっと詰められるかい?」

「じゃあアタイがうしろにいくっす。こんな感じでどうっすか?」

「うん、いい感じだ!」


 全員が並んだうしろに、アミィがふわりと翼を広げて浮かぶ。


(管理人さん、笑って)

(は、はい……ふひひ……)


 陽一が心の中で語りかけると、管理者がそれに答えた。


 この場に彼女の姿はない。


 なんらかの制約があるせいで彼女は現世に降臨できないが、写真に写るようなかたちで自らの姿を投影することは可能だという。

 そこで、ひとりぶんのスペースを空けてもらったのだ。


 ちなみに【鑑定Ω】を持つ陽一とカメラのモニターを覗くジェイソンには、管理者の姿が見えていた。


「それじゃあ撮るよー!」


 それから何度かシャッターを切り、記念撮影は無事に終了した。


「ありがとな、ジェイソン」

「どういたしまして」

「あっちに帰るんなら送るけど?」

「んー、いや。しばらくこっちで過ごすよ。帰るときは誰かに送ってもらうさ」


 ジェイソンはそう言うと、あくびをしながら馬車へと歩いていった。

 多忙な映画監督はどうやら寝不足らしく、仮眠でもとるのだろう。


 しばらく雑談したところで、陽一がヴァーミリオンバードのスザクとサウスを連れてきた。


「ではみんな、気をつけてな」


 ロザンナが、出発メンバーに声をかける。


 今回、全員が旅立つわけではない。


 まず王国宰相たるロザンナが国を空けるわけにはいかないので、当然居残る。

 彼女が拡張された世界に向かうのは、ずっと先の話になるだろう。


「シャーリィ、あとのことはお願いね」

「うん、わかってるよ、お姉ちゃん」


 シャーロットは魔術士ギルドを中心に、各ギルドや領主のサポートをするため、メイルグラードに残る。


「お土産、楽しみにしてるからね」


 錬金鍛冶師であるサマンサも冒険には不向きなので、居残ることになった。


「まぁ、留守のことはうちらにまかしとき」


 シーハンも、町に残る。サマンサを手伝うのはもちろん、冒険者としても活動する予定だ。


 そんなわけで出発メンバーは、花梨、実里、アラーナ、アミィの魔王討伐メンバーに陽一を加えた5名となった。


「まぁ、ときどきは帰ってくるし、なにかあったら遠慮なく呼んでくれていいから」


 居残りメンバーに、陽一が気楽な口調で告げる。


 ホームポイントを更新しながら進めば、【帰還Ω】でいつでも行き来できるのだ。

 その際に、メンバーの入れ替えなども柔軟に行なっていく予定である。


「じゃあ、いってくるよ」


 スザクに陽一が、サウスにほかの4人が乗る。


「キュルァッ」

「ギュルゥーッ」


 2羽のヴァーミリオンバードはそれぞれご機嫌な様子でひと鳴きすると、天高く舞い上がった。


 そしてあっという間に、空の彼方へと消え去った。


「……いってもうたな」

「だね」

「いったいどんな冒険が待ち受けているのでしょうね」

「ふふふ、いまから土産話が楽しみだよ」


 陽一らが飛んでいった方角を見ながら、シャーロットとロザンナが呟く。


「しーねーちゃっ、さむねーちゃっ、あそぼっ!」

「こらこら、エリー」


 ロザンナに抱えられていたエリザベスが、シーハンとサマンサに手をのばしてバタバタと動き始めた。


「ふっふーん、なにしてあそぼうか?」

「おっしゃエリー、肩車したるわ!」

「わーい!」


 シーハンはロザンナからエリザベスを受け取り、肩に乗せてやる。


 そうして彼女たちは、楽しげに雑談をしながら馬車に向かって歩き始めるのだった。


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