アマンダ・スザーノ3

 道の駅を出るころには、少し日が傾き始めていた。


 それからしばらく田舎道を流しているうちに、すっかり暗くなってしまう。


「夜の景色っつーのも、風情ふぜいがあっていいもんっすねー」


 普通なら暗くてよく見えないのだろうが、魔人であるアミィは暗闇でもちゃんと周りが見えているようだ。


「どうする? このままこのへんを流してもいいけど、高いところにいって夜景を見るってのはどうだ?」

「夜景っすか! いいっすねー!」


 アミィが興味を示したので、陽一は近くに景色のいい高台はないかと【鑑定Ω】で調べた。


 田舎道を走っていた車は、どんどん人里を離れて暗いほうへと進んでいく。


「ねぇアニキ、あれはなんっすか?」


 民家がほとんどなくなった道の、かなり先のほうに、煌々こうこうと輝く建物を見つけたアミィが、陽一に尋ねる。


「ああ、あれなぁ」


 アミィの示す建物を見た陽一は、苦笑を漏らす。


「なんかお城みたいな建物っすけど……」

「気になるのか?」

「そりゃあ、なんもないところにあんなのが急に出てきたら気になるっすよ」

「夜景とどっちが気になる?」

「うーん……」


 しばらく腕を組んでうつむき、逡巡していたアミィだったが、考えがまとまったのか顔を上げた。


「あの建物っす」

「そっか。じゃあいこう」

「えっ、いいんっすか?」

「いきたいんだろ?」

「まぁ、そうっすけど……でも、急にいって入れるとこなんっすか?」

「ああ、急にいって入るところなんだよ」


 陽一の言葉に軽く首を傾げるアミィだったが、それ以上の質問はせず、近づいてくる建物に目を向けた。


 イルミネーションで飾りつけたようにまぶしく輝くその建物は、西洋風の城を模していた。

 日本の田舎町にはとうてい似合わない様式ではあるが、妙になじんで見えるのが不思議だ。


「あー、近くで見ると思ったより雑っすねー」

「まぁ、そうかもな」


 そもそもがこけおどしのための外観であり、細部まで作り込まれたものではない。

 普通なら照明によってごまかされるのだろうが、夜目のきくアミィの目はあざむけなかった。


 異世界でさまざまな城を間近で目にしたことのある彼女が見れば、なおさら安っぽく感じられるだろう。


「それじゃあ、入るぞ」


 ハンドルを切り、そのまま敷地内へ入る。

 道路側からはうまく隠されていたが、裏から見ると連棟式の建物であることがわかった。

 並んだ棟の1階が、すべて駐車場になっている。


「もしかしてここって、モーテルっすか?」

「まぁ、大きなくくりで言えばな」


 空いている場所を見つけて陽一はそこに車を停めた。


「ほら、着いたぞ」

「うっす」


 停めた自動車から降り、ふたりはすぐ近くにある入り口のドアへ向かう。


「じゃあ、入ろうか」


 陽一はそう言うと、躊躇なくドアを開けた。


「えっ? 勝手に入っていいんっすか?」

「開いてるからな。料金はあと払いだよ」

「な、なるほど」

「さ、どうぞ」

「うっす……」


 陽一に促されたアミィは、戸惑いながらも中に入る。

 続けて入った陽一はドアを閉め、鍵をかけた。


 入ってすぐ階段があり、のぼった先のドアを開くと客室があった。


「おおー、きれいな部屋っすね」


 室内はきれいに掃除されていて、照明も明るい。


 客室は広いワンルームタイプで、クイーンサイズのベッドが置かれた先に、4人ほどが並んで座れそうなソファのあるリビングスペースがあった。

 ソファに向かい合う壁には、50インチほどのテレビがかけられている。


 リビングスペースの向こうには、ガラス張りのバスルームに岩盤浴やサウナなどがあった。


「えっと、広いっすね……?」


 ふたりで利用するには充分な広さで、陽一の住む『グランコート2503』の壁を取り払ったのと同じくらいはあるだろうか。


 だがエドのホテルでいつも利用しているスイートに比べると、どうしても見劣りしてしまうのは仕方がないだろう。


「まぁ、田舎だとこんなもんかな。都会にあるヤツだと、もっと狭いぞ」

「そうなんっすね……っていうか、ここって結局なんなんっすか? 普通にモーテル?」

「いや、ラブホテルだ」


 そう、ふたりが入ったのは、モーテル型のラブホテルだったのだ。


「ラブホテル……?」


 だがラブホテルと言われても、アミィはあまりピンときていないようだった。

 そもそもラブホテルという言葉が和製英語なので、うまく理解できないのかもしれない。


「そのラブホテルっつーのは、普通のモーテルとなにが違うんっすか?」

「ラブホテルってのはセックスをするところだな」

「へ!?」


 思わぬ答えだったのか、アミィが驚く。


「つまり、連れ込み宿っつーことっすか?」

「まぁ、そうなるな」

「じゃあ日本には、それ専用の建物があるんっすか?」

「あるよ、たくさん」

「たくさん!? もしかして、どこもこんなキラキラしてるとか……」

「まぁ、派手なところは多いかな」

「ほぇー……やっぱ日本人っつーのはヘンタイっすねぇ」

「ははは、かもな」


 呆れているのか感心しているのかわからないアミィの反応に、陽一も微妙な表情を浮かべた。


「えっと、じゃあ……」


 ポカンとしていたアミィが、不意に頬を染め、上目遣いになる。


「ここに入ろうって、誘うってことは……?」

「セックスしよう、ってことだな」

「あうぅ……アタイ、なんてことを……」


 陽一の返答に耳まで真っ赤にしたアミィが、顔を覆ってうつむく。


「いや、アミィは知らなかったんだからしょうがないだろ」

「そ、それはそうっすけど……」

「っていうか、いまさら恥ずかしがるようなことかな?」

「ふ、雰囲気っつーもんがあるんっすよ……!」


 どちらかといえば陽一とのセックスに対しては奔放ほんぽうな印象のあるアミィだが、妙なところでな部分を見せることがあった。


「そういう場所なら、事前に教えといてほしかったっす」

「ははは、すまんすまん」


 そんなところもかわいいと思いつつ、陽一は彼女の頭を撫でてやる。


「むぅ……」


 なんだかごまかされたような気がして口を尖らせながらも、アミィは嬉しそうに目を細めた。


 少し落ち着いたところで、アミィは室内を見回す。


「なんかラブホテルっつっても、普通のモーテルと変わんないっすね」

「昔は回転するベッドとかあったみたいだけどな」

「回転するベッド……? なんの意味があるんっすか?」

「いや、俺もよくわからん」


 そんなことを言いながら室内を歩き、設備などを見て回る。


 まず目についたのは、大きな鏡だった。


「つーか、なんでベッドの前にこんな大きな鏡があるんっすか?」


 ベッドの足下側が狭い通路になっていて、その先の壁に大きな鏡が設置されていた。


「ま、インテリアみたいなもんだろ」

「ふーん」


 陽一の言い方はどこかとぼけるようだったが、それ以上興味を引かれなかったのか、アミィはベッド前を通ってリビングスペースに向かう。


 ソファとテレビ以外にある家具は、冷蔵庫くらいだった。


「シャワーでも浴びるか?」


 リビングの奥にあるガラス張りのバスルームを見ながら、陽一が尋ねる。


「そっすね。汗くらいは流したいっす」


 アミィはそう言ってさっさと服を脱ぎ、褐色肌の豊満な裸体を惜しげもなく晒した。


「いや、さっきまでの恥じらいはどこにいったんだよ……」

「さすがにもう気持ちの切り替えはできてるっすよ。それじゃお先っす」


 彼女はあっけらかんと言い、さっさとバスルームに入っていった。


○●○●


 陽一の入室する気配を感じたアミィは、シャワーを浴びながらそちらに目を向け、嬉しそうに口の端を吊り上げた。


「アニキぃ……もうおっきくしてんっすかぁ?」


 彼女の視線の先には、すでに硬直したイチモツがあった。


「ここに入ったときから、ずっとこうだよ」


 恥じる様子もなく陽一は答える。長いあいだ勃起していたせいか、先端からは透明な粘液がとろとろとあふれ出していた。


「んふっ、しょうがないっすねー」


 アミィは嬉しそうに言い、シャワーを止める。


「シャワー浴びるより先に、アタイがきれいにしたげるっすよ」


○●○●


 前哨戦を終えたところで、アミィは嬉しそうに笑いながら立ち上がった。


「アニキぃ」


 甘えた声を出しながら、アミィは陽一に抱きつく。


 シャワーを浴びてしっとりと濡れた肌は、前哨戦の最中に冷えてしまったのかひんやりとしていた。


「アタイ、もう欲しいっす……」


 陽一にぎゅっと身体を押しつけながら、アミィは脚を絡めてきた。


「だーめ」


 だが陽一は意地悪な口調でそう言うと、手を伸ばしてシャワーを出した。


「わぷっ……!?」


 シャワーの直撃を顔に受けたアミィは思わず身体を離し、顔を覆う。


「もぉー、なんでじらすんっすかぁ」

「まぁ落ち着けよ」


 全身の汗をさっと洗い流した陽一は、すぐにシャワーを止めた。


「せっかくだから、ベッドでしようぜ」

「むぅ……」


 陽一の提案に口を尖らせたアミィは、グイッと顔を近づける。


「なーんか企んでる顔っすねぇ?」


 そしてアミィは、陽一の顔をのぞき込みながらそう言った。


「さーて、なんのことかなぁ?」


 なにを考えているかはともかく、企んでいること自体はバレてもいいという具合に、陽一はとぼけた。


「まっ、アニキとえっちできるんなら、アタイはなんでもいいっすけどね」


 アミィはそう言うと、陽一に向けて両手を広げた。抱っこをしてほしいという合図である。


「しょうがないなぁ」


 陽一は軽くあきれつつも嬉しそうに言いながら、アミィをお姫さま抱っこし、バスルームを出た。

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