サマンサ・スミス4
「はぁ……ヒドい目にあった」
シャワーを浴び、リビングの椅子に座ったサマンサは、陽一に
「そうか? 楽しそうだったけどな」
「う、うるさい……!」
自覚があるのか、彼女は陽一の言葉にそう返すと、頬を赤くして顔を逸らした。
「あはは、悪い悪い。俺もちょっと調子に乗り過ぎちゃったよ」
「ちょっとどころじゃないよ、もう……」
そう言ってコーヒーをさらにひと口飲んだサマンサは、小さくため息をつく。
「ほんと、なんでこんな人を好きになっちゃったんだか……ふふ……」
そしてしみじみとそう言ったあと、小さな苦笑を漏らす。
「でもまぁ、おかげでおもしろいもんたくさん見れただろ?」
「そこは、否定しないけどね」
開き直ったように言う陽一に、サマンサは呆れたように肩をすくめる。
「ヨーイチくんに出会ってなければ、ボクはずっとメイルグラードで錬金鍛冶師を続けてたんだろうなぁ」
「それっていまも変わらなくない?」
「錬金鍛冶師を続けてるってとこだけはね」
サマンサが、残っていたコーヒーを飲み干す。
彼女がコトリとカップをテーブルに置くと、陽一はおかわりを注いでやった。
「ありがと」
短く礼を言い、黒い
「ヨーイチくんと出会う前の生活に不満があったわけじゃない。キミに出会わず、それまでの生活が続いていたとしても、ボクの人生はそれなりに楽しいものだっただろうね。でも、ボクたちは出会ってしまった」
そこでサマンサは顔を上げ、隣に座る陽一を見た。
「ボクはヨーイチくんに出会い、キミを通じていろんなことを知った。異世界なんていうおとぎ話でしかしらないところからきたキミは、ボクの世界を拡げてくれた。今日みたいに、知らない世界の聞いたこともないような現象を見せてくれた。本当にたくさんのことを、キミはボクに教えてくれたんだ」
「セックスとかな」
「そうそう。ヨーイチくんがセックスの気持ちよさを教えてくれたおかげでボクはお×んちんの魅力に取り憑かれちゃってこの気持ちよさをもっといろんな人に知ってもらうためにヨーイチくん2号を――ってちょっとーっ!?」
しみじみと語っていたサマンサははっと我に返りぷんすかと頭から湯気を出しそうな様子で抗議する。
「人が真面目に語ってるときにキミはー……!」
「あはは。ごめんごめん」
「もぅっ……!」
口をとがらせ顔を背けたサマンサだったが、ふっと諦めたように笑みを漏らし、陽一に向き直った。
「ふふ……でも、そうだね。どんなに広い世界や知らない知識が増えたことよりも、人を愛するってことを知れたのが、ヨーイチくんと出会っていちばんよかったことかもしれないや」
「お、おう……」
突然の告白に、陽一がたじろぐ。
そんな彼の姿を見て、真摯な眼差しを向けていた彼女はふっと表情をゆるめた。
「ふふっ……あははっ」
よほど陽一の様子がおかしかったのか、サマンサはからからと笑い始める。
「おい、そんなに笑わなくていいだろ」
「あはは……あー、そうだね、ごめんごめん」
ひとしきり笑ったところで、サマンサは目の端に浮かんだ涙を指でぬぐい、今度は軽く呆れたような表情を浮かべた。
「ほんと、最初はただの興味本位だったんだけどねぇ……」
彼女はべつに恋愛を拒否していたわけではなく、錬金鍛冶以外のことに興味がなかっただけだった。
そこへ自分の知らない多くの知識を持った陽一が現われ、一緒に作業しているうちに興味が湧き、なんとなく身体を重ねた。
長期間の共同作業で心を許していたことに違いはないので、身体だけのドライな関係とは違ったが、そこに恋愛感情があったのかどうかは自分でもわからなかった。
それから何度も会い、新しいことを教わり、ともに作業をし、身体を重ねているうちに、気がつけば陽一のことがかけがえのない存在になっていた。
こういった自分の心の動きはいまだに解明できないままだが、これは謎のままでもいいように思っている。
「ヨーイチくんがときどきでいいからこうやって一緒にいてくれるだけで、ボクは幸せだよ」
穏やかに微笑みながら、サマンサは陽一に顔を近づけていった。
「ん……」
唇が、重なる。
軽く舌を絡め合ったあと、どちらからともなく顔を離した。
「ふふ……
「コーヒー、飲んだからな」
「それもそうだね」
そうやってふたりはクスクスと笑い合うのだった。
――――――――――
次回シーハン編は2日後の1/7より開始します
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます