シャーロット・ハーシェル3

 飛行機とバスを乗り継いで、シャーロットの故郷へ向かう。

 日が暮れる少し前に、彼女の住んでいた町へとたどり着いた。


「こちらですわ」


 シャーロットの案内で、共同墓地に向かう。

 彼女は迷いなく歩き、父と姉の眠る墓に到着した。


 墓は手入れが行き届いており、真新しい花が添えられていた。


「ふふ、エドったらあいかわらず律儀ですわね」


 おそらくふたりが墓参りにいくと知って、こちらの業者に清掃などを依頼したのだろう。


 陽一は墓の前にしゃがむと、手を合わせて瞑目めいもくした。


「ふふ……」


 そんな彼の姿を見たシャーロットも、胸の前で手を組み、目を閉じた。



 墓参りを終えてシャーロットの生家に着くころには、すっかり日も暮れていた。


「どうぞ」

「おじゃまします」


 前にきたときから数年経っているが、家の中はあいかわらず手入れが行き届いていた。


 リビングを抜けて階段を上り、2階にあるシャーロットの部屋に入る。


「ありゃ、ここは前のまんまか」

「まったく、芸が細かいですわね……」


 数年前にこの部屋を訪れ、少しだけ散らかしていたのだが、それがそのまま維持されていた。

 それでもホコリなどは一切見当たらないので、わざわざこの状態を保っていたと言うことになる。

 どうせならちゃんと片づけてくれるか、あるいはなにもせず放置してくれればいいのに、とシャーロットはため息をついた。


「お、これ懐かしいな」


 室内を見回していた陽一は、棚に置かれたゲームカートリッジを引っぱり出した。

 それは16ビットゲーム機用の対戦格闘ゲームだった。


「これ、コントローラーがボロボロになるまでやりこんだんだよなぁ」


 感慨深げにそう言ったあと、陽一は顔を上げてシャーロットを見る。


「久々にやりたいんだけど、本体ある?」

「ええ、モニター下のキャビネットに入っているはずですわ。おそらく配線もつながったままじゃないかしら」

「どれどれ……おっ、あった!」


 テレビモニター台になっているキャビネットから、陽一はゲーム機本体を取り出す。

 シャーロットの言うとおり、配線はつながっているようだった。


「モニターが点くかしら……ああ、点きましたわね」


 シャーロットがリモコンを操作すると、モニターの電源が入った。

 ということは、リモコンの電池も定期的に入れ替えられていたということになる。


 続けて、陽一はカートリッジをゲーム機本体に差し込み、電源を入れた。


「おお、懐かしい!」


 40インチはあろうかという大きなテレビモニターに、鮮やかなゲーム画面が映し出された。


「っていうか、めちゃくちゃ画面きれいだな。これって古いモニターなんだろ?」


 思っていた以上の高画質に、陽一が驚く。

 モニターの解像度が高すぎて、ゲーム画面の粗さが目立つほどだ。


「たしかこちら、当時最新のプラズマディスプレイでしたわね」

「プラズマディスプレイ! 懐かしい……!」


 ブラウン管が衰退し始めたころ、次世代ディスプレイとして現われたのが、プラズマディスプレイだった。

 結局低価格化と省電力化が進まず、そのうちに液晶ディスプレイが主流になってひっそりとその役目を終えたので、一度も目にしたことのない人もいるだろう。


「シャーロット、できる?」

「ええ、もちろん」

「なら、対戦しようぜ」

「ふふふ、望むところですわ」


 陽一とシャーロットはコントローラーを持ち、ベッドに並んで座る。


「せっかくですから、なにか賭けませんこと?」

「そうだな……じゃあ負けたほうが1枚ずつ脱ぐってのはどう?」

「いいですわね。そういうバカっぽいの、嫌いじゃありませんわ」


 シャーロットは呆れつつも楽しそうに笑いながら、陽一の提案を受け入れた。



 双方の同意のもと、格闘ゲーム対決が始まった。


 陽一は白い道着の主人公を、シャーロットはロシアの巨漢レスラーを選択する。


「うわっ、やられた!」

「甘いですわね」

「あの大技をきめるとは、やるなシャーロット」


 初戦で負けた陽一は、作業服を抜く。


「くそっ、勝てねぇ……!」

「いまのは惜しかったですわね」


 続けて作業ズボンを脱ぎ、陽一はTシャツとトランクス姿になる。


「よっしゃ!」

「あら、負けてしまいましたわね」


 三戦目にして陽一が初勝利を収め、シャーロットはカーディガンを脱いだ。


「よしよし、勘を取り戻してきたぞ」

「油断してしまいましたわ」


 続けて陽一が勝利。


「さて、どっちを脱ぐ?」


 ブラウスにスカートという格好のシャーロットは、どちらかを脱げば下着を晒すことになるはずだった。


 だが、彼女は靴を脱いだ。


「残念でしたわね」

「あっ、汚ぇぞ!」


 そこから陽一が2連敗するが、彼は靴と靴下を脱いで乗りきった。


 そして次に陽一が勝つ。


「靴下を履いておくんだったな」

「あの靴にソックスはダサいですわよ」


 そう言いながら、彼女はブラウスのボタンを外す。

 上を脱ぐのか、と陽一が思ったところで、シャーロットはクスリと微笑み、背中に手を回した。


「なっ!?」


 ホックを外した彼女は、ブラウスの隙間からするりとブラジャーを外した。


「その手があったか……」


 ブラウスの隙間からちらちらと覗く胸に集中を乱され、陽一が敗北する。


「見えそうで見えないとか、ちょっと卑怯だろ」


 Tシャツを脱ぎながら、陽一が不満を言う。

 ブラウスのボタンが外れているせいで、姿勢によっては乳首が見えそうになるのだが、絶妙な塩梅あんばいで見えないのだ。


「わたくしのもっといやらしい姿は見飽きてるでしょう? ハイスクールボーイじゃあるまいし……」

「うるさいなぁ。これはこれでエロいし、なによりシャーロットを見飽きるなんてあるわけないだろ」

「そ、そういうことを真顔で言わないでくださる?」


 陽一の言葉に乱されたシャーロットが、あえなく敗北する。


「もう、しょうがありませんわね」


 彼女は諦めたようにそういうと、軽く腰を上げ、スカートに手を入れてショーツを脱いだ。


「くっ……!」


 隣に座る彼女が下着を身に着けていないと言う事実に、陽一の集中が乱される。


 ただ、シャーロットのほうも妙に落ち着きがなかった。

 これまでさまざまな手管で男たちを翻弄していた彼女だったが、学生時代に過ごした部屋の空気と、レトロゲームの雰囲気によって、なんだか気恥ずかしい気分になっていたのだ。


「よっし!」


 結果、陽一が勝利。


「むぅ……」


 シャーロットはしばらく考え込んだあと立ち上がり、スカートを脱いだ。


「おお……!」

「ちょっと、変な声をあげないでくださる?」


 自分でも驚くほどの羞恥心を覚えながら、シャーロットは脚をギュッと閉じ、シャツの裾を引っぱった。


「次がラストだな」

「ええ、望むところですわ」


 そう言いながら、シャーロットはベッドに腰かける。


 見えそうで見えない、そんな彼女の姿に陽一がゴクリと唾を飲み込む。


 ――ケーオー


「えっ!?」


 プラズマディスプレイの内蔵スピーカーから発せられた声に、陽一が思わず声を上げる。


「ラストはわたくしの勝ちですわね」


 陽一がシャーロットの姿に目を奪われている隙に大技が決まり、勝負はついてしまったのだ。


「ひ、卑怯だぞ!」

「勝負はときに非情なものですわ」


 シャーロットは陽一の抗議をさらりと受け流す。


「さぁ、最後の一枚をお脱ぎなさいな」

「くっ……!」


 陽一はくやしそうにしながらも立ち上がり、諦めてトランクスを脱いだ。

 その後、なんやかんやあってベッドの上で延長戦が行われた。


○●○●


 行為を終えたところで、不意にシャーロットが微笑み、目の端から涙をこぼした。


「シャーロット?」

「ふふ……なんでもありませんわ」


 彼女は微笑んだまま小さく首を振ったが、あふれ出る涙が止まることはなかった。


「なんでもないなんてこと、ないだろう?」


 陽一は心配そうに言いながら軽くかがみ、彼女の頬を両手で優しく包み込む。

 そして、あふれ出る涙を親指でぬぐった。


「本当に、なんでもありませんのよ。ただちょっと、思い出しただけで……」


 シャーロットはそこで言葉を詰まらせ、ただ静かに泣き続けた。


 陽一はいったん彼女を解放し、ふたりで並ぶように寝転がった。


「それで、なにを思い出したの?」


 しばらく経ってシャーロットが落ち着いたのを感じ取った陽一は、優しい口調で問いかけた。


「前にここへ来たとき、少しだけ話したこと、覚えてまして?」

「前に……? んー、いろいろ話したからなぁ。どれだろう?」

「ハイスクールのころの、夢」

「ああ、たしかボーイフレンドを部屋に招待して……みたいな?」

「うふふ、そうですわ」


 そう言ったところでシャーロットは寝返りを打ち、陽一のほうへと身体を向けた。


「今日、ヨーイチとレトロゲームをやって、1枚ずつ服を脱ぐなんていうおバカな勝負をやったでしょう? それからセックスをして……」

「なんだか夢が叶ったみたい?」

「それで感極まって泣いちゃうなんて、バカみたいでしょう?」


 彼女は自嘲気味にそう言いながら眉を下げ、少し充血した目を細めながら、口元に笑みを浮かべた。


「どうかな」


 気のきいた答えを出せそうにないと思ったのか、陽一はごまかすようにそう言い、シャーロットの頭を胸に抱き寄せた。


「それで、シャーリィちゃんはこのあとどういうプランを考えてたのかな?」


 陽一がそう尋ねると、シャーロットは彼の背中に腕を回し、顔を上げた。


「あら、それでしたら……」


 そして彼女は首を伸ばして顔を近づけ、陽一の唇を塞ぐ。

 そうやってしばらく舌を絡め合ったところで、どちらからともなく顔を離す。


「んはぁ……ふふ。こうして、ひたすらいちゃいちゃするくらいしか、考えられなかったでしょうね」

「いいんじゃない、そういうのも?」


 いつも以上に甘えてくるシャーロットがかわいらしく、陽一は彼女ぎゅっと抱きしめた。


「ああ、でも」


 そうやって抱き合っていると、ふとシャーロットが何かを思いついたように声をあげ、陽一の腰に脚を絡めてきた。


「若いふたりですもの。たった一度のセックスでは到底満足できませんわよね?」

「若い女の子に、こんなテクニックがあると思えないけど?」

「うふふ、それは言いっこなしですわ」

「それもそうか」

「さぁ、飽きるまで楽しみましょう?」

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