第6話 イージス艦vs巨大モンスター
幅10キロメートルはあろうかという広い江上を、イージス艦が悠然と進む。
空中、水上、水中から多数の魔物が襲いかかってきたが、イージス艦の防御システムと冒険者たちの奮闘により、いまのところ進行が妨げられるようなことはない。
青竜江をある程度進んだところで、陽一から『念話』がきた。
魔王に目をつけられたので、地球から援護をする、という話だった。
(えっ、もしかして弾薬の補充も難しいの?)
(いや、それくらいなら大丈夫かな)
(よかった。それじゃあせっかく連絡してくれたついでに、20ミリ弾と5インチ砲弾を補充しといてよ)
(了解)
サマンサの要請を受けた陽一は、イージス艦内の船室に【帰還】した。船室をホームポイントに設定しておけば、イージス艦の移動後も同じ船室内に転移できることは確認済みだ。
ホームポイントの条件は、地上または水上の地点あるいは施設、となっている。
移動施設の場合はある程度の大きさが必要なようで、キャンピングトレーラーやボートなどは設定できなかった。
船室を出た陽一は格納庫へ行き、米兵に弾薬類を渡してすぐに地球へと【帰還】した。
(悪いな。できればひと声かけたかったけど)
(しょうがないよ、事情が事情だしね)
(あー、そうだ。砂漠のほうがちょっと苦戦しそうだから、援護射撃頼めるか? 座標は……)
地球に戻ったあと、陽一は【鑑定Ω】で戦況を確認し、適宜指示を出していく。
多くはエドに任せているのだが、直接やりとりしたついでとばかりに、サマンサへと援護射撃を要請した。
「えっと、その座標だと……こいつとこいつ、あとは……」
陽一から聞いた座標とレーダーの反応とを照らし合わせながら、標的を選んでいく。
「それじゃ、こいつらに攻撃してくれるかな?」
「了解。ではミサイル発射といきますかなぁ」
アイザックが指示を出すと、甲板上にあるミサイルポッドのフタが開いた。
――ボシュゥッ!!
勢いよく発射された長距離ミサイルは、白い煙を残して空の彼方へと消え去った。
同じように数発のミサイルが続けて発射される。
そして数分後、いくつもの魔力反応が消え、あるいは弱まった。
「よしっ!」
それを見て、サマンサや幾人かの米兵が、ガッツポーズを取った。
ミサイル群は百数十キロメートル先にいた魔物を撃墜し、あるいは大ダメージを与えることに成功したようだ。
イージス艦に搭載されたイージスレーダーや長距離ミサイルは、魔境の大半をカバーしている。
長距離の精密爆撃を可能とする巡航ミサイル、弾道ミサイルを迎撃するためのスタンダードミサイルなどを搭載したイージス艦は、青竜江を遡上しながらもあらゆる場所へと援護射撃ができるのだ。
ほどなくエドからの指示が増え、それを元にサマンサとアイザック艦長は各地の戦場を、ミサイルで援護した。
「さて、そろそろあれを沈める頃合いですかなぁ」
「そうだね」
サマンサとアイザックの見る先には、巨大な魔力反応を示す光点がいくつも表示されていた。
その反応が示す場所は、彼らが遡上する青竜江の上流であり、現在位置から百数十キロ先である。
「こっちが川を上るなら、そりゃ向こうは川を下るよね」
大量の魔物を生み出し、広く展開しながら人類圏へと進軍する魔王軍の中には、川を下って進む部隊もあった。
「しっかしまぁ、グレーター・アイランドタートルとは、またたいそうな魔物を生み出したもんだよ」
グレーター・アイランドタートルとは、先の
ランドタートルが地上を生息地とするのに対し、アイランドタートルは水上で活動する。
ドーム球場並みの大きさを誇る亀の魔物が10匹連なって、川を下っていた。
その背の甲羅には、数万匹の魔物がひしめき合っている。
飛行系の魔物が第一陣だとすると、アイランドタートルを含むこの集団が第二陣といったところか。川を利用することで、地上を進む魔物よりも早く人類圏にたどり着けるのだ。
「もちろん、いかせないけどね」
レーダーを見ながら、サマンサが不敵に笑う。
「それじゃ艦長、よろしくお願いね」
「了解。ハープーン用意!」
アイザック艦長のかけ声で、米兵に緊張が走る。
「発射!」
ミサイルポッドから発射された対艦ミサイルは、百数十キロ先を泳ぐグレーター・アイランドタートルに向かって飛んでいく。
時速1000キロ超で飛翔するミサイルは、数分で目標を補足。
ミサイルに搭載されたレーダーが正確に標的を捉え、突撃する。
(ヨーイチくん、どう?)
イージスレーダーは重なり合った魔力を正確に捉えることができない。
そのため、グレーター・アイランドタートルの背に乗っていた魔物の群れがどうなったのかを把握するのは困難だ。
(問題ない。魔物の群れはほぼ全滅だよ)
「攻撃成功だよ!」
「よっしゃぁ!」
「見たかバケモンどもめ!」
サマンサの言葉に、米兵たちから歓声があがる。
ハープーンによってグレーター・アイランドタートル自体を沈めることはできなかったが、魔物の群れは討伐できた。
「では続けて撃っていきましょうかなぁ。次弾用意!」
その後8発のハープーンを打ちきったあと、さらに陽一がミサイルを補充し、10匹のグレーター・アイランドタートルに乗った群れを全滅できた。
「じゃあお次は亀さんを沈めないとね」
「了解。とはいえ、それはもう少し先ですかなぁ」
強固な甲羅を持つグレーター・アイランドタートルに対して、ハープーンはそれなりにダメージを与えたものの倒すことはできなかった。
彼らを倒すには、別の攻撃手段が必要となる。
アミィにテイムさせるという手もなくはないが、なんといってもグレーター・アイランドタートルは大きい。
イージス艦が川をのぼるうえで、はっきりいって邪魔なのだ。
なので、グレーター・アイランドタートルは倒したあと、陽一が回収する予定である。
ハープーンを撃って1時間ほどが経った。
「そろそろいいんじゃないかな」
「ですなぁ」
その
そして攻撃をされて怒ったのか、移動速度を上げたグレーター・アイランドタートルの群れの先頭が、1キロほど先に迫っていた。
「アスロック発射!」
ミサイルポッドから、対潜ミサイルが発射された。
迫りくる魔物の手前で、ミサイルは飛翔用のロケットと魚雷とに分かれ、パラシュートが開く。
落下する魚雷は着水と同時にパラシュートを外し、水中を猛然と進んでいく。
――ドバァーンッ!
魚雷は見事標的に命中し、轟音とともに水柱が上がる。
「1発じゃ倒せんぞー! シースパローも撃て!」
厳しい口調のまま艦長が指示を出す。
近距離対空用のシースパローミサイルだが、対艦兵器としても使用可能だ。
そうやって数発のアスロックとシースパローミサイルを撃ち込むことで、ようやく1匹を倒すことができた。
(ヨーイチくん、お願い)
(あいよ)
サマンサの要請を受けた陽一は船室に【帰還】し、甲板へと駆け上がる。
甲板上では、アラーナらトコロテンのメンバーや冒険者たちが、迫りくる魔物と激戦を繰り広げていた。
陽一は突撃銃で応戦しながら、先頭を目指す。
「あれだな」
視線の先には絶命し、沈みゆくグレーター・アイランドタートルが見えた。
陽一はそれを素早く【無限収納Ω】に収めると、すぐに地球へと【帰還】した。
「ほぉ、一瞬で消えましたなぁ」
望遠鏡でグレーター・アイランドタートルの死骸を観察していたアイザック艦長が感嘆の声を上げる。
「じゃ、あとはこの繰り返しで」
「了解」
以降、サマンサとアイザックがミサイルを撃ちまくってグレーター・アイランドタートルを倒したあと【帰還Ω】のキャンセルで甲板の先頭に転移した陽一が死骸を回収し、ときに格納庫へ行ってミサイルを補充する。
という作業を繰り返した。
異変に気づいて逃げようとする個体もあったが、巨体が災いしてほとんど移動できず、ほどなくすべてのグレーター・アイランドタートルが討伐、回収された。
(あ、そうだサマンサ、そろそろ5~6発かましてやってくれるか?)
グレーター・アイランドタートルを討伐し終えてしばらくしたところで、陽一から念話が飛んできた。
(ふふ、わかったよ)
それを受けてサマンサは苦笑を漏らす。
「それじゃアイザックさん、例のヤツお願い」
「了解。それにしても、なかなか
アイザックは呆れたように言いながら、巡航ミサイルの準備をさせるのだった。
○●○●
魔王城跡地。
ある程度回復したパブロは、魔王城の再建を急いでいた。
「ふむ、前よりもかなり小ぶりだが、それでも我が居城にふさわしいものとなりそうだな」
ドーム球場ほどの地面が整地され、その上には古いヨーロッパ風の城ができあがりつつああった。
「無論、歓迎の準備も整えておかねばな」
そう呟きながら、パブロは口の端を吊り上げた。
「ククク……愚かな人類どもよ、吾輩を怒らせたことを後悔するがいい」
罠などはまだ設置していないが、外観や内装がある程度整ったら、ふたたび冒険者たちを迎え撃つ準備をするつもりだ。
「……ん、なんだ?」
不意に、この世界にはそぐわない、しかしどこか耳なじみのある飛翔音が耳に届く。
不審に思いながらも、パブロは音のするほうへ目を向けた。
「なっ……あれは!?」
魔王の見る先には、まばらに滞空する魔物たちの合間を縫って飛来する巡航ミサイルがあった。
「待てっ、やめろぉっ!」
時速880キロメートルで飛ぶ数発のミサイルは、魔王の悲痛な叫びを無視して彼の真上を通り過ぎ、再建されつつあった魔王城を破壊した。
「あ……あぁ……」
もう少し回復していれば、あるいは魔王城再建に集中しすぎていなければ、防げたかも知れない。
そんな後悔を胸に抱きながら、パブロは力なく膝を突いた。
そしてこのあと、陽一はパブロが油断している隙を突き、何度もミサイルを撃ち込んでは魔王城の再建を妨害するのだった。
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