第5話 運河を越えて大河へ
「魔術士、弓士は近づく魔物を片っ端から撃ち落とせ! 大物は我らに任せてくれて構わん!」
アラーナが、甲板上の冒険者たちに指示を出す。時間がたつごとに増える飛行系の魔物を、冒険者たちは必死になって撃ち落としていった。
「ワイバーンだ!」
「さすがにありゃ俺たちじゃ無理だぜ」
翼を拡げて迫りくる巨大な亜竜の姿に、冒険者たちが怯む。
「まかせといて!」
花梨が放った矢が、ワイバーンを
「グギョァッ……!」
細い矢が触れるやいなや、ワイバーンはその巨体の3割ほどをえぐりとられ、断末魔の雄叫びを残して墜落し、運河に沈む。
「おお、すげぇ!」
「さすがフラン様のお弟子さんだぜ」
冒険者たちから喝采の声があがる。
そうやって花梨は、冒険者たちの手に負えない強力な個体を中心に撃ち落としていった。
「ミサト、水中の魔物はまかせたぞ」
「わかった」
運河を遡上している以上、水中からも魔物は襲ってくる。
とはいえ作って間もない人造の川なので、魚雷を使うほどの大物はいなかった。
そこで水中の魔物を担当するのは実里になった。
かなり高度な魔法や魔術を扱える彼女は、魔力感知による索敵をも得意としている。
実里は水中から迫る魔物の位置を確認しては、複数の魔術を展開し、倒していった。
――ドルルルルルル!
耳をつんざくような轟音があたりに響いた。
冒険者の討ち漏らした魔物を、ガトリング砲が撃ち落としていく。
「ふむ、
シーウス、あるいはファランクスと呼ばれるそれは、20ミリM61機関銃を6本束ねたガトリング砲に索敵、追尾レーダー、そして制御用火器管制システムとを組み合わせた近接防衛兵器である。
シーウスは秒間75発の20ミリ弾を発射し、レーダーで捉えた標的を撃墜するまで打ち続ける。
そしてひとつの標的を撃ち落とすと、自動的に次の標的を探して攻撃するのだ。
また、シーウスは空中だけでなく、水上の標的も攻撃できる。
赤外線による光学探知に加え、サマンサが魔力探知機能も追加したことで、冒険者たちが討ち漏らした魔物を、かなりの精度で倒していった。
――ドシュンッ!
連続する銃声に混じって、単発の砲声が響く。
「ギョボァ……!」
5インチ砲が火を噴き、水上から迫る中型のサーペントを沈めた。
シーウスのようにレーダーと連動してはいないが、動きの遅い大物の魔物を相手にするにはもってこいの兵器である。
「サハギンどもが乗り込んできやがったぞ!」
「ハーピーが突っ込んでくる! 構えろー!」
花梨や実里、冒険者たち、そしてイージス艦の兵器類がいかに優秀であっても、増え続ける魔物を1匹残らず倒しきることは難しい。
「カリン、ミサトはそのまま遠距離攻撃と範囲攻撃を続けてくれ!」
「魔術士はんと弓士はんらも、気にせんとうちまくってやー!」
甲板に近づいた魔物は、アラーナとシーハン、そして近接戦闘を得意とする冒険者たちが倒していく。
二丁のハルバードを振り回す姫騎士や、大刀で敵を薙ぎ払う女怪盗らの活躍もあり、魔術士や弓士たちは引き続き遠距離攻撃に集中できた。
それでも、魔物たちはどんどん増え、攻撃の手は休まらない。
「まずい! あいつら特攻かましてきやがった!」
数匹のハーピーが対空攻撃網をかいくぐり、命懸けの特攻にでた。
「キィァアーーッ!!」
悲鳴のような叫びとともに、ハーピーたちは命を捨てて艦橋へと迫る。
「ギュルァッ!!」
しかしその進路を阻むように、ワイバーンが現われた。
突然の乱入者に戸惑うハーピーどもは、ワイバーンの牙やかぎ爪の餌食となり、あえなく撃ち落とされる。
それを皮切りに、あちこちで魔物の同士討ちが始まった。
「アタイの魅力にメロメロって感じっすねー」
アミィの仕業である。彼女は魅了を駆使し、多くの魔物を操っては同士討ちを誘った。
「冒険者諸君、先は長い。適宜交替で休憩に入ってくれ」
トコロテンのメンバーとイージス艦の防御システムはかなり優秀だが、それだけですべて対処できるわけではない。
冒険者たちの奮戦があってこそイージス艦の運用は可能だが、彼らは【健康体θ】を持つ彼女たちや、疲れを知らない兵器とは異なり、戦ったぶんだけ体力や魔力を消耗する。
「あー、もう腕があがらねー。悪ぃがちと休ませてもらうぜ」
「船室で寝たおかげですっかり魔力も回復したわ! さぁ、どんどんいくわよー!」
このように、冒険者たちはアラーナの指示に従って交替で休息しつつ、艦の防衛に励んだ。
洋上で長期間活動するイージス艦には、それなりの居住施設が設けられている。
ベッドや最低限の洗面所などがある船室に、複数のシャワールーム、それに小さいながら浴場もあった。また、それほど大きくはないが食堂もあり、さらにはバーも完備されている。
「このベッド、俺が普段使っている宿屋より豪華なんだが?」
「上でさんざん戦ったあと、下に降りると美味い飯が食えるとか、最高だぜ」
「いいのかな、魔王軍と戦ってる最中にお酒なんか飲んでも」
客船などに比べればかなり質素な居住施設だが、冒険者たちにはおおむね好評だった。
長期の依頼ともなれば数日は地べたに寝転がって水浴びもできず、食事は塩辛い干し肉に硬いパンだけ、というのが当たり前な彼らにとって、イージス艦の環境は天国のように思えるようだ。
そうして彼らを乗せたイージス艦は、無事小竜運河を越えて
○●○●
青竜江と小竜運河とが交わる場所では、セレスタンとフランソワを中心とする冒険者たちが戦っていた。
彼らが水門を死守してくれたおかげで、イージス艦は問題なく青竜江に入ることができた。
「援護は無用だ! 気にせず進め!!」
セレスタンの言葉を受け、イージス艦は青竜江の遡上を始めた。
セレスタンはいまなおトコロテンのメンバーを全員あわせたよりも強い。
それこそ、彼ひとりでイージス艦を轟沈できるほどに。
「そのデカいのは任せろ。お前たちはできるだけザコを減らしてくれ」
対多数の戦闘をあまり得意としないセレスタンは主に地上から来る大物を倒し、小物は冒険者たちが担当した。
空中や水中の魔物は、フランソワが片っ端から射貫いている。
「あら、水の中にもまだ大きいのがいますね」
気の抜けた声を出しながら、フランソワが水中に向けて矢を放つ。
ほどなく、水面から巨大な水しぶきが上がった。
魔術を込めたフランソワの矢が水中の巨大な魔物に命中し、爆発を起こしたようだ。
「なんだありゃ……魚雷かよ」
艦橋から後方の戦闘を望遠鏡で観察していた米兵のひとりが思わずそう言ってしまうほどに、彼女の弓の威力は強い。
「まったく、フランさまにはまだまだ追いつけそうにないわね」
花梨は師の戦う姿を見て、呆れたようにそう呟いた。
「とりあえず適当に戦力置いていくっすねー」
援護は無用と言われたもののなにもせずに通り過ぎるのもどうかと思ったのか、アミィはセレスタンらに迫る魔物の半数ほどをテイムし、同士討ちを誘発するのだった。
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