第十一章

第1話 コルボーン伯爵討伐計画

「なんだか面倒なものがたくさん仕掛けられてるなぁ」

「領都ファロンは王国建国前、帝国に属していた時代から交通のかなめだったからな。自然と防衛には力が入るのさ」


 面倒くさそうな陽一よういちつぶやきに、アラーナが応じた。


 事実上、討伐命令を引き受けることになった陽一は、まずパトリックが逃げ込んだコルボーン伯爵領、領都周辺の地図をロザンナに提供してもらい、【鑑定+】を使って洗い出した防衛機構を書き込んでいた。


 冒険者パーティー、トコロテンのメンバーである陽一、アラーナ、花梨かりん実里みさと、シーハンの5人は現在、サリス家の王都別邸に用意された部屋で作戦会議をしている。

「まずはこの地雷みたいなヤツをなんとかせなあかんなぁ」


 シーハンが言うように、領都周辺には地雷のような迎撃用の魔法陣が無数に埋設されていた。


「これって、普段は無効化されてるのよね?」

「ああ。でも、パトリックが領都に帰るなり非常事態宣言を出したからなぁ」

「つまり、いまはこの地雷みたいなのが全部有効になってるんですね……」


 領主の名で出された非常事態宣言によって領都ファロンは人の出入りが禁じられ、周辺に埋設された地雷型魔法陣が有効化された。


 非常事態宣言は早急に周辺地域へ伝えられたが、移動中だった一部の旅人や行商人たちが知らずに地雷原へと踏み込み、多少の犠牲が出ているという。


「私も噂には聞いていたが、まさか本当に発動するとはな……」


 一時的にだが、領都への交通を完全に遮断してしまうような設備である。


 普段は無効化しているとはいえ、こうも迅速に発動できるとなると、今後それを怖れてファロンを訪れる人はかなり減るだろう。


 交易で成り立っているファロンにとってそれはかなりの痛手になるのだが、パトリックにはあと先を考える余裕もなくなっているようだった。


「普通は籠城て、援軍あんの前提でやるもんやけどな」

「どうも帝国に泣きつくつもりだったみたいだぞ」


 いくらなんでもやり口がさんすぎるのではないかと【鑑定+】でパトリックの考えを読み取ったところ、そのような計画があったようだ。

 彼は以前から帝国に通じており、有事の際には一部帝国貴族からなんらかの手助けをしてもらえるくらいの関係は築き上げていたらしい。


「まったく……わが本家ながら嘆かわしいことだ」


 しかしその希望は、アマンダの正体を宰相に知られたことでついえた。

 パトリックが領都に到着する直前にロザンナは魔人の存在を帝国にリークし、くれぐれも間違いを犯さないようにと釘を刺していたのだった。


「その結果、パトリックは帝国に見捨てられたってわけだ」

「で、その憐れな伯爵さまはアマンダが魔人だってこと、知ってるの?」


 花梨の問いかけに、陽一は小さくかぶりを振る。


「いいや、知らないどころか疑ってすらいない」


 そもそもパトリックはアマンダの魅了によって操られているようなものなので、彼女の存在が自分にとって不利益になるという考えにすら至らないようだ。


「帝国のほうからは、アマンダを差し出せば助けてやれなくもない、という打診は受けているんだけどなぁ」


 アマンダを魔人呼ばわりするのは王国宰相ロザンナの奸計かんけいだと信じて疑わず、彼は王国への怒りを募らせているようだった。


「せやけど伯爵はんは、どないしてこの事態を収めるつもりなんや?」

「何回か討伐隊をしりぞければ、王国側の態度が軟化すると思ってるみたいだな。そこで、なんとか折り合いをつけて手打ちにするとかなんとか、そんなことを考えてるみたいだ」

「なんとも甘い考えだな……」

「でも、領民を人質に取られたらちょっと厄介だろ?」

「ふむう……たしかに……」


 アラーナが険しい表情で唸る。


 領都ファロンに仕掛けられた防衛機構は、もちろん地雷だけではない。

 防壁や外堀といった定番なものも面倒だが、なにより厄介なのは町全体を一夜にして沈められる自爆装置の存在である。


「万が一作動したら、ひと晩で町全体が沈むんだよなぁ」


 領都ファロンの中心と四隅には、地盤を破壊し、地下水脈に町を沈めるための大規模な魔術施設があった。


「町と心中されるようなことは、なんとか避けたいわよねぇ」


 地図を眺めながら、花梨が呟く。


 ファロンという交易都市がなくなることでの損失はもちろんだが、そこに住む人々はコルボーン伯爵領の領民であるとともに、センソリヴェル王国臣民でもあるのだ。


「臣民の命を盾になにかしらの手打ちを求められれば、それを無条件にしりぞけるのは難しい、か」


 険しい表情で地図を見据えるアラーナの肩に、陽一は軽く手を置いた。


「ま、俺たちがその気になれば、なんとでもなるさ。そう思ったからこそ、親父さんも全部任せるって、言ってくれたんだろ?」

「うむ、そうだな」


 陽一の言葉に、アラーナが微笑む。


 それからしばらくのあいだ、作戦会議は続くのだった。

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