第19話 伝説の武器、そして新たな事件
シーハンを仲間に入れて、しばらく経った。
手に入れた刀剣類はすべてサマンサに渡され、すでに彼女は試作に入っているという。
シーハンは冒険者登録を行ない、正式にトコロテンのメンバーとなった。
いまは魔術に興味があるということで、実里が面倒を見ていた。
花梨はあいかわらず各所で忙しく働いていた。
もう少しゆっくりすればいいのに、と思ったが、どうやら彼女は働いているのが好きらしい。
本人が好きでやっているのなら、とやかく言う必要はないだろう。
そしてアラーナはいま、陽一とふたりで領主の館にいた。
業務はある程度落ち着き、ほとんどヴィスタひとりで回せるようになっている。
この日の業務をしっかりと終えたふたりは、アラーナの寝室にいた。
「どう、かな?」
「うん、やっぱきれいだ」
アラーナは、スカーレットスピカホテルのパーティーで着ていた、薄紅色のチャイナドレスを身につけていた。
極端に丈が短いせいで下乳からヘソまでが惜しげもなく晒され、そのうえ下端中央に入ったスリットによって谷間が下から見えるというデザインの、アレだ。
そのくせ漢服をベースにしているので、どこか上品さもあった。
「アラーナのためにあるようなドレスだよな」
「ふふ、照れるではないか」
あちらで着ていたときと違っていまはニップレスを外しており、硬くなった乳首が生地を押し上げているのがわかった。
「アラーナ、いいかな?」
「ああ、ヨーイチ殿が望むなら」
陽一に促され、アラーナはベッドの上で仰向けになった。
○●○●
翌日、サマンサから試作品ができあがったとの連絡が入った。
それを実際に振ってみて、細かい要望を聞いたのち、本番の制作に入る予定だ。
「どう? 重さや大きさなんかはまったく同じになると思う。重心も
「はぁ……はぁ……ええ、いい感じッス」
息を切らせながら、アレクはサマンサの問いに答えた。
「動きが見違えるようだったな。武器が変わったせいだけではあるまい」
先ほどまで、アレクはアラーナと打ち合っていた。
アレクは刀の試作品を使い、アラーナは警棒でその相手をしていた。
試作品ということで強度があまりなく、二丁斧槍だと折ってしまう恐れがあったからだ。
「いやぁ、これも全部陽一さんのおかげッスよ」
「そうね。本物の動きを知って随分洗練されたわ。隣で戦っても実感できるほどに」
アレクにタオルを渡しながら、エマが言う。
もともと帝国騎士の剣術に、日本の剣術を組み合わせたのがアレクの戦闘スタイルだった。
しかし日本の剣術といっても、時代劇やマンガ、アニメをもとにしたもので、あまり実戦的ではなかったのだ。
「ドウガっていうの? 本当に便利よね」
そこで陽一は、インターネット上にアップロードされた、剣術や居合いの動画をいくつかピックアップしてアレクに見せていた。
転生後から努力を続け、冒険者として数々の修羅場を経験したアレクは、それらの動画からだけでも多くを学ぶことができた。
「実際に道場に通えたのもよかったッスね」
数々の剣術動画の中でも、実戦を想定した型を多く現代に伝える古流武術を気に入ったアレクは、その門を叩いた。
ありがたいことにその道場は広く門戸を開いており、門弟には外国人の姿も多かった。
おかげでアレクも自然に溶け込むことができ、いまでも時間があれば通っているのだった。
「それにしても、立派な訓練場ッスね」
現在陽一たちは、領主の館にある訓練場に集まっていた。
ここは軍の施設ではなく、領主個人の訓練場だった。
それでも、体育館ほどの広さはあった。
「アラーナ! 次はうちの番やで!!」
「ああ、わかっている」
続けてシーハンとアラーナが対峙した。アラーナは相変わらず警棒のままで、シーハンの手には長柄の
これもサマンサの試作品である。
「ほないくでぇ!」
「ああ、こい」
大きな刃の青龍偃月刀を軽々と振り回しながら、シーハンはアラーナに何度も打ちかかった。
大陸の武術を元にした舞うような動きは、なかなかに見応えがあった。
アラーナはそんなシーハンからの攻撃を、1歩も動かず軽々といなしていく。
「ふふーん、アラーナぁ……ゆうべはヤンイーとお楽しみやったんやねぇ」
「さて……どうかな?」
シーハンの揺さぶりに、アラーナはわずかに表情を動かした。
「あのドレス着たまま、パイズリして……」
「な、なにを言っているのだ?」
「胸んとこべっとべとにしたりしてなぁ……。あ、衿から漏れたせーえきが首にかかって、指ですくってペロッと――」
「み、見てたのかシーハン!?」
「――スキありぃっ!!」
「くっ、甘い!!」
アラーナがうろたえた瞬間に放たれた斬撃だったが、すんでのところではじき返される。
「あはは! しっかしほんまにやったみたいやなぁ」
「まさか、カマをかけたのか!?」
「ま、ヤンイーのやりそうなこっちゃ」
「くっ……! 覚悟しろシーハン!!」
「おーこわいこわい」
反撃に転じたアラーナの攻撃を、シーハンはひらりひらりとかわしていく。
「アレクとエマさんがいるってこと、忘れてるのかしら、あの娘」
「ちょっと、おしおきが必要だね」
そんなふたりの姿を呆れたように眺める花梨と実里。
その傍らでやれやれと頭を振る陽一に、アレクが近づいて耳元で囁く。
「あの、陽一さん」
「ん?」
「そのドレス、今度貸してもらえないッスか?」
「は?」
「いや、その、着たままパイズリできるドレスとかめっちゃ気になるじゃないッスか! エマならアラーナさんとスタイルも近いから――いでででででっ!!」
「ちょっとアレク、なにバカなこと言ってんのかしら?」
「ご、ごめん! 勘弁してくれぇ」
途中で声が少し大きくなったせいでエマに気づかれたアレクは、耳をつかまれて引きずられていった。
そうこうしているうちに、アラーナとシーハンが模擬戦を終えて戻ってくる。
「どうだった?」
「ほんま、ええ感じやで! まさかこの
サマンサの問いに答えながら、シーハンは青龍偃月刀をくるりと一回転させた。
「ミスリルと竜骨で軽量化したのがよかったみたいだね。本物には『重量制御』の魔術を付与するから、慣れればインパクトの瞬間だけ重くしたりもできるよ」
「さっすがサマンサ! ええ仕事するやん」
「ふっふーん! 当たり前だろ!」
褒められたサマンサは、いつものように胸を反らした。
もちろんこれだけ大きな武器を扱うには、そういった軽量化だけでなく【健康体β】によって強化された筋力も必要だった。
スパイとしてあまり体格を変えられなかったシーハンにとって、体型を維持したまま筋力を得られるというのは、非常にありがたいことだった。
「それの元になったのって黄老が餞別にってくれたやつだよな?」
「せやで! かの
「大刀関勝って、
「細かいこと気にしたらあかんでヤンイー。誰がなんと言おうとあれは関勝の大刀やねん」
なんとなく気になった陽一が【鑑定+】で調べたところによると、関勝については水滸伝の舞台になったのと同じ時代に、モデルとなったであろう同名の人物がいることはわかった。
ただ、黄老からもらった青龍偃月刀に関してはそれより2世紀以上あとに作られたものだということも判明した。
なんでも時の皇帝が当時の名工に作らせたらしい。
その後いろいろと持ち主を転々としていくうち、その価値を高めるためのエピソードが追加され、最終的に関勝が使っていたことになったようだった。
まぁ名刀であることに変わりはないので、問題ないのだろう。
「お嬢さま! 大変です!!」
試作品の試し振りを終え、一同が談笑していた訓練場に、執事のヴィスタが慌てた様子で駆け込んできた。
「どうしたのだ? ヴィスタが慌てるなんて珍しい」
アラーナの言うとおりだった。冷静沈着を絵に描いたような初老の執事が慌てる姿を、陽一も初めて目にした。
「だ、旦那様が――」
そこでヴィスタは一度口を閉ざし、アレクとエマに視線を向けた。トコロテンのメンバーはともかく、アレクらには聞かせられないような内容なのかもしれない。
「かまわん。このまま話せ」
「……かしこまりました。念のため、ここでのことは他言無用に願います」
アラーナの言葉を受けてしばらく考えを巡らせたあと、ヴィスタはアレクとエマにそう言って頭を下げた。
それを受けたふたりは無言で頷く。
「それで、なにがあった? 父上にかかわることのようだが……」
「はい。旦那様……メイルグラード領主ウィリアム・サリス辺境伯が、王都にて拘束されました」
「なに?」
アラーナが眉をひそめ、場に緊張が走る。
「反逆の疑いありと――」
「バカなっ!!」
意味がわからないといわんばかりにアラーナが声を荒らげ、皆が瞠目して息を呑むなか、陽一は【鑑定+】で状況を調べ始めるのだった。
――――――――
これにて九章は終了です。
お読みいただきありがとございます。
それと、いつも応援、およびコメントをありがとうございます。
大変励みになっております。
返信できずに申し訳ありませんが、いまは執筆と更新に力をさきたいと思います。
十章は6/1より始める予定ですので、引き続きよろしくお願いします。
【告知】
『聖弾の射手』という新作を始めております。
本作同様異世界と日本を行ったり来たりするお話です。
あらすじだけでもお読みいただけると嬉しいです。
https://kakuyomu.jp/works/16816452220265284550
それでは今後ともよろしくお願いします。
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