第7話 ミーナたちへの提案

 シャワーを浴びてさっぱりしたあと、異世界に戻った陽一は活気にあふれる朝の町を歩き、冒険者ギルドに到着した。


 日が昇って随分経つが、冒険者たちにとってはまだ早い時間のためか併設された酒場に人の姿はあまりない。

 朝食をとっている者が数名のほかに、テーブルに突っ伏している冒険者も散見され、そういった連中は夜通し飲んで朝を迎えているのだろう。


 そんな酒場の脇を通って、いつものように受付へ行く。


「いらっしゃいませ(彼、最近ひとりで来ることが多いわね……。まぁアラーナちゃんは忙しそうだし、ミサトちゃんも魔術士ギルドによくいってるから、しょうがないのかしら? そういえばカリンちゃんは普段からあまり姿を見ないわね。そうそう最近出回ってる『ヨーイチ君2号』って、彼のがモデルになってるって噂、本当なの? だとしたらそのお×××、おねーさんにも味わわせて――)本日はどういったご用件で?」

「あの、待ち合わせなんですけど」

「ああ、それでしたら会議室でお待ちいただいてますから(……なんで彼があのコたちと待ち合わせてるわけ? しかも人に聞かれたくない話があるからって、会議室まで予約しちゃって。もしかして、アラーナちゃんたちだけじゃなく、あのコたちまであの凶悪なお×××の毒牙に……? まさか、会議室でしっぽりお楽しみなんてことが……!? ぐぬぬ……だったらおねーさんも交ぜなさ――)2階の3番会議室へどうぞ」

「ありがとうございます」


 いまや顔なじみとなった受付嬢の落ち着いた対応に感心しながら、陽一は冒険者ギルド2階の会議室へ向かった。


「朝っぱらからこんなとこに呼び出して、いったいなんの用なのさ?」


 指定された会議室のドアを開けると、軽装の猫獣人が陽一を出迎えた。


 赤い閃光の女盗賊ミーナである。


 何度もいうが、ここでいう盗賊とは犯罪者を示す言葉ではなく、冒険者のクラスとして認められたものだ。


「悪いな、朝から」

「まったくですわ。用があるならそちらから訪ねなさいな」


 奥のテーブルに座る、ハーフエルフの弓士グレタが文句を言う。

 その隣では、犬獣人の重戦士ジェシカが、うつらうつらと船をこいでいた。


「で、なんの用だい? もしかして、趣向を変えてギルドでってのかい?」

「君らのところにいくとそういうことになるから、わざわざ呼び出したってのに……」


 そう言って陽一は額に手を当て、頭を振る。


 あまり人に聞かれたくない話をする、ということで会議室を予約した陽一だったが、内密の話をするだけなら彼女らの宿を訪ねてもよかった。

しかしそうなると話だけで終わらないことがわかりきっていたので、今回わざわざ呼び出したのだ。


「ちったぁあの清楚な受付さんを見習えよ」

「あはは、冗談だよ。ま、座んな」


 陽一が座ると、グレタは用意されていたティーポットを手にした。

保温の魔術がかけられたティーポットから熱い紅茶がカップに注がれ、それが陽一の前に置かれる。

そのときに鳴った小さな音か、あるいは湯気に混じる香りを感じ取ったのか、半分眠っていたジェシカが慌てたように顔を上げた。


「ふぁ……あの、おはようございます」

「おはよう。ごめんな、朝早くから」

「いえ、だいじょうぶですけど……」


 そこでジェシカはキョロキョロと室内を見回した。


「悪いな、俺ひとりだ」

「そうですか」


 アラーナの姿が見えなかったことに落胆したのか、ジェシカはそう言って肩を落とした。


「で、あらためて聞くけど、ウチらになんの用なの?」

「北の辺境から緊急の応援要請が届いているのは知ってるか?」

「みたいだね。それがなにか?」

「俺は要請に応じようと思ってるんだけど……」


 そこでいったん言葉を切り、3人の目をひととおり見たあと、陽一は再び口を開いた。


「一緒に行かないか?」

「はぁ?」


 声を出したのはミーナひとりだが、ほかのふたりも、陽一の言葉にいぶかしげな表情を浮かべていた。


「いや、あんたが行くのは勝手だけど、なんでウチらを誘うのさ? 自分とこのメンバーと一緒にいけばいいじゃん」

「いや、今回トコロテンのメンバーとはあとから合流することになっていてね。俺だけ先行するんだよ」

「だとしても、わたくしたちが同行する必要が、なぜありますの?」

「アラーナさんが一緒なら、喜んで行くんですけど……」

「もしかして、ひとりで行くのがさみしいから、ウチらを誘ってる?」

「ま、それもなくはないけど、じつはな……」


 そこで陽一は、北の辺境に出たのが魔人であることや、自身の目的、旅程について話した。


「そんなわけで、"彼"をスカウトしたいんだよ」

「魔人に、勇者……ねぇ」

「着くころにはギルド経由で話は通ってるはずだ。まぁ彼が引き受けてくれるかどうかはなんとも言えないけど」

「うーん……」


 陽一の話を聞き終えたミーナは、顎に手を当て、うつむき加減になにかを考え始めた。

ジェシカとグレタも、少し暗い表情で物思いにふけっているように見える。


 ほどなく顔を上げたミーナがほかのふたりを見ると、その視線を受けたジェシカとグレタは、多少困惑気味ではあるがしっかりと頷いた。


「わかったよ。一緒に行こう」

「悪いな」

「謝んないでよ。ひとりで行ってもいいのに、ウチらのためにわざわざ誘ってくれたんでしょ?」

「ほんと、お人好しですこと」

「さすが、アラーナさんを射止めた人です」

「いや、まぁ、君らがいてくれたほうがありがたいのは確かだし、な。じゃあ移動手段はこっちで用意するから、準備しておいてくれ」


 お節介が過ぎるかと思ったが、どうやら好意的に受け止められたことに安堵し、変に褒められたことに照れながら、陽一は3人にそう告げた。


「いつごろ出るんだい?」

「できるだけ早いほうがいいんだけどな」

「荷物をまとめたりするのに、半日はかかりますわね」

「じゃあ、出発は明日……?」


 グレタとジェシカがそう言ったあと、ミーナは不意に顔を上げ、陽一を見た。


「あんた、たしかとんでもない容量の【収納】スキルを持ってるって話だけど?」

「まぁ、な。ひと月やふた月の旅に必要な荷物くらいなら、余裕で入るし、食料や消耗品はこっちで用意するぞ」


 無制限にものを収納できる【無限収納+】だが、その能力の一部は、魔物集団暴走スタンピードのあと始末でほぼ明らかになっている。


「だったら荷造りの手間はないわけだし、すぐにでも準備はできるんじゃない?」

「むぅ、でも、下着なんかもヨーイチさんに預かってもらいますの?」

「ははっ。あれだけやりまくっておいて、いまさらなーにカマトトぶってんだか」

「ちょ、ミーナ!?」


 先日、東堂夫妻を相手にいろいろやってもらう際、報酬として行なわれたことを思い出したのか、グレタは真っ赤になってミーナをとがめた。

 その横で、ジェシカも頬を染めてうつむいている。


「で、どうするんだ? 必要なら手伝うけど」


 陽一も当時のことを思い出したのか、軽くうろたえながらも、努めて平静を保とうとする。


「そうだね、じゃあウチらの宿に来てもらおうか」

「ですわね」

「お、お願いします」


 話がまとまったところで、陽一と赤い閃光の4人は

立ち上がった。

「せっかく来るんだからさぁ、一発やっとく?」

「やらん!」


 先ほどの会話で3人の痴態を思い出し、股間を膨らませながらも、陽一はミーナの提案を却下する。


「バカなことを言ってないで、いくぞ――って、あれ、ミーナは?」


 ふと、陽一の視界からミーナが消える。


「そんなこと言いながらぁ……こっちはおっきくなってんじゃない」

「おぅふ……」


 いつの間にか陽一の背後に回ったミーナが、彼の耳元で囁きながら手早くベルトを緩めてウェストから手を入れ、その内側をさわさわと撫でていた。


「なんならここで1回出しとく?」

「ぐぅ……やめぃ!」


 手先が器用な女盗賊の、極上の手技てわざに、陽一はなんとか抵抗レジストするのだった。


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