第6話 実里、花梨とお楽しみ
アレクらを見送ったあと陽一は冒険者ギルドに戻り、セレスタンの業務を手伝った。
アラーナの書類仕事を手伝ったときの処理能力の高さがセレスタンの耳に入り、少し前から手伝わされるようになったのだ。
「しかし、あのアレクサンドルが勇者で転生者とはな」
書類を整理しながら、セレスタンは思い出したようにぽろりと呟いた。
アレクこと洋一の妻、靖枝の出産を手伝ったあと、説明を請われた陽一は、事情のほとんどすべてをセレスタンに話していた。
自分たちの仲間以外に、信頼のおける権力者に事情を知っていてもらうのは、決してマイナスにはならないだろうと考えたからだ。
とくセレスタンはギルドマスターの地位にあるため国のしがらみにとらわれず、そのギルドマスターの地位ですら、アラーナの祖父という立場に比べればさほど重要なものではないという考えの持ち主だ。
孫の不利益になることはしないという確信が、陽一にはあった。
「まぁ、転生者が勇者になるってのは、よくあることですから」
「なんだ、ニホンではそういう例が多いのか?」
「あ、いえ、フィクション……おとぎ話の設定でよくあるって意味です」
あくまでライトノベルなどによく使われる設定、いわゆるテンプレというやつだが、実際に知っているのは、アレク1名のみである。よくあること、というのもおかしな話だ。
「よし、それが終わったら帰っていいぞ」
「わかりました」
ほどなく、その日の業務を終えた陽一は、この町の定宿『辺境のふるさと』に戻った。
「ふぅー……」
広く、寝心地のいいベッドに身体を投げ出し、陽一は大きく息を吐いた。
いままでは『グランコート2503』に帰ってから、入浴と睡眠をとっていたが、ここのところはこの『辺境のふるさと』で寝泊まりするようになっていた。
というのも、トコロテンのメンバーはこれまでほとんど一緒に行動していたので、陽一が帰るときはみんなが帰るときだったのだが、ここ最近は別行動が多くなっているからだ。
異世界から日本へ転移できるのは、陽一本人と、彼と一緒にいる者だけである。
つまり、陽一がひとりで【帰還】してしまうと、ほかのメンバーはこちらに取り残されてしまうので、この部屋の寝心地をよくするため日本製の高価なベッドを運び込んでいたのだった。
ちなみに入浴だが、陽一は町の公衆浴場で済ませることが多く、女性陣はみな魔術で〈浄化〉しているようだ。
「花梨は向こうにいるんだったか。実里は今日も、遅くなるのかな……」
実里もまた、陽一と同じように、オルタンスのもとで書類作業を手伝っていた。
陽一と違って【言語理解】スキルを持たない実里だが、数字くらいは読めるようになっている。
元の世界と同じ十進法なので、おぼえる数字は0から9の10種類のみ。
四則演算ができるだけでかなり助かるらしく、実里は電卓を持ち込み、主に数字の処理を手伝っていた。
彼女は基本的に毎晩この宿に戻っていたが、遅くなったときは魔術士ギルドに泊まることもあった。
ちなみに領主代行として働いているアラーナは、基本的に館の自室で寝泊まりし、ときどきこの部屋へ泊まりにきていた。
「そろそろ家とか、借りたほうがいいのかねぇ」
赤い閃光の3人が暮らしていた部屋を思い出す。
単なる転移拠点としてならともかく、この町で寝泊まりするなら、ベッド以外にトイレと洗面台くらいしかないこの部屋は、なにかと不便だ。
家というなら、領主の館やサマンサの工房にもいちおう寝泊まりはできるが、人の家というのはなにかと気疲れするものだ。
「魔人の件が片づいてからだな」
魔人、と声に出した陽一は、あらためて北部辺境の状況を【鑑定+】で確認した。
「あのふたりが到着すれば、とりあえずなんとかなるか……」
アレクとフランはいまごろグリフォン便の狭いかごで、身を寄せ合って寝ているのだろうか。
それとも、地上に降りて夜営でもしているのか……。
このふたりが到着し、さらに少し遅れてトコロテンが支援に入れば、とりあえず今回の脅威は取り去れるだろう。
ただ、被害は甚大なものになりそうだった。
「あとひと組、勇者パーティーがいればなぁ……」
そんなことを考えながら、陽一は眠りについた。
○●○●
夜中にふと、目が覚めた。
すぐ近くにだれかの体温を感じた。
そちらへ視線を動かすと、自分に背を向けて軽く背中を丸め、横になっている実里がいた。
気持ちよさそうに寝息を立てている。
陽一は寝返りを打って実里のほうに身体を向けた。
そして彼女の身体に腕を回し、うしろから優しく抱きしめた。
「ん……すぅ……すぅ……」
実里はかすかに声を漏らしたが、すぐに等間隔の呼吸を取り戻した。
「おつかれ」
耳元で囁いたが、反応はなかった。
本当に深く眠っているようだ。
腕の中で、呼吸に合わせてわずかに動く華奢な身体が、とても愛おしく思えた。
「んぁ……」
身じろぎした際、不意に手が胸に触れ、その拍子に実里が短く喘いだ。
「ごめん、起こした……?」
「……すぅ……すぅ……」
喘ぎとともに一瞬呼吸を止めた実里だったが、すぐに寝息を立て始めた。
(どれくらい触ったら、起きるかな?)
陽一の中に、小さないたずら心が芽生えた。
結構なところまで眠ったままだった実里だったが、結局途中で目を覚ましてからはふたりでいろいろと楽しんだ。
「ふぅ……もう少し、寝ようか」
行為が一段落ついたところで、陽一は実里と向かい合うように身体を横たえ、彼女に腕を回した。
「まだ、夜中なんですね」
「ああ。ごめんな、起こしちゃって」
陽一に抱き寄せられた実里は、そのまま彼にしがみついた。
腕を回し、脚を絡める。
「気持ちよかったから、いいです」
「でも、なかなか起きなかったし、疲れてたんじゃない?」
「うぅ……」
寝ぼけたまま反応していたことを思い出したのか、実里は少しうつむき、陽一の胸に顔をうずめた。
「もう、元気になりましたから、大丈夫です……おやすみなさい」
「そっか……じゃあ、おやすみ」
胸に抱いた実里の頭を撫でてやると、彼女はほどなく寝息を立て始めた。
やがて、陽一も心地よい疲労感とともに、意識を手放すのだった。
○●○●
「では、いってきますね」
「おう、がんばってな」
翌朝、魔術士ギルドへ向かう実里を、宿の前で見送った。
陽一を残して歩き出した実里だが、そのあと何度も振り返り、そのたびに笑顔を向けて手を振ってきた。
陽一は、彼女の姿が見えなくなるまでそれに応えてやった。
最初のころは陽一やほかのメンバーに依存気味だった実里だが、
これまでは常に陽一の近くにいた実里も、ここのところはひとりで魔術士ギルドに通うようになっている。
「いい傾向、だよな」
そんな実里の様子に陽一は安堵しつつも、どこかさみしさを覚えるのだった。
「まだ時間は少しあるし、家に帰ってシャワーでもあびるか」
さきほど実里が身支度をするついでに〈浄化〉をかけてくれたが、ちゃんと汗を流したいと思ったので、『グランコート2503』に【帰還】した。
○●○●
リビングのドアを開けると、キッチンに花梨の姿があった。
「お、花梨、来てたのか」
陽一は呼びかけながらリビングに入り、ドアを閉めたが、反応がなかった。
「おーい、花梨?」
「ふんふんふーん♪」
ブラウスにタイトスカートの上にエプロンを身に着け、鼻歌交じりに作業をする花梨をよく見ると、耳にワイヤレスイヤフォンをはめていた。
スマートフォンとブルートゥースで接続し、音楽を聴いているのだろう。
見れば食事をすでに終え、洗い物をしているようだった。
「おっす、花梨」
「きゃっ? よ、陽一?」
花梨の背後に忍び寄った陽一は、イヤフォンを取って耳元で囁く。
驚いた花梨は、短い悲鳴を上げて振り向いた。
「ちょっと、帰ってきたんなら声くらいかけなさいよ」
「かけたけど誰かさんは気づかなかったんだよ」
陽一はそう言って、いま外したイヤフォンを花梨の前に掲げた。
「あ、そっか。ごめんごめん」
陽一からイヤフォンの片割れを受け取ると、耳に残ったもう片方を外し、とりあえずエプロンのポケットに入れた。
そのときにイヤフォンをオフにしたのか、漏れ出ていた音楽が止まる。
「で、どうしたの、こんな朝早くに?」
「ん、ちょっとシャワーを浴びようかなと」
言いながら視線を落とすと、ビジネススタイルの上にエプロンという、アンバランスでありながらどこか家庭的な花梨の姿に、妙な色気を感じた。
「……なにジロジロ見てんのよ?」
「いや、エプロン似合うなぁと思って」
「褒めてもなにも出ないわよ」
そう言って少し恥ずかしげに視線を逸らす花梨を見て、陽一の頭に
「ほら、シャワーを浴びるんだったらさっさと――って、ちょっと、陽一!?」
花梨の言葉を聞き流しながら、陽一は彼女の衣服をどんどん【無限収納+】に収めていく。
「あ、あんたなにやってんのよ!」
「なにって、裸エプロン?」
彼の言うとおり、エプロンを除く衣服は下着も含めて収納され、花梨はいわゆる裸エプロン姿にされてしまった。
「ちょ、なに考えてんのよ、ばかぁ!」
陽一を怒鳴りつけながら、花梨は胸を両腕で覆い、その場にしゃがみ込んだ。
「いや、隠すようなもんじゃないだろ? ってか、大事なところは隠れてるし」
言いながら、陽一は花梨の手を取って立たせた。
花梨のほうでも本気で抵抗する気はないのか、ほどなくそれに応じた。
「う、うっさい! 全裸より恥ずかしいわよ、こんなの……」
胸や股間など、大事な部分はしっかり覆われ、肩や首周りの素肌が露出しているだけにも関わらず、その姿は妙に劣情を誘った。
「たしかに、全裸よりエロいな」
「ねぇ、もういいでしょ? 服返してよ」
「いやいや、裸エプロンはやっぱうしろから見ないと」
「うぅ……ばか……」
顔を赤らめて文句を言いながらも、花梨は素直に背を向けた。
腰に結ばれた紐とその周りのちょっとした布地以外、肌を覆うものはない。
羞恥ゆえか少し呼吸を荒くし、花梨は背を向けたまま陽一のほうを見た。
少し上半身がひねられ、むき出しになった身体や胸の側面が陽一の目に飛び込んでくる。
「ねぇ、もういいでしょ?」
「ああ、もう充分堪能したよ」
満足げに告げた陽一は、そのまま踏み込んで花梨との距離を詰める。
「だったら、もう――あんっ! やぁ……」
そして花梨の背後にぴったりつくと、エプロンの隙間から手を入れたり、むき出しの素肌に触れたりした。
「やぁ……だめよ……ここ、エッチするとこじゃ……んぁっ」
一応の抵抗を試みようと、言葉でたしなめながら身体をよじる花梨だが、ここまできて陽一が引き下がることがないのはわかりきったことだった。
○●○●
「はぁ……はぁ……もう、朝から、なにやってんのよ……」
「悪い悪い、つい、な」
花梨はへたり込んだ姿勢で床に手をつき、陽一に背を向けたまま首を回して、少し呆れたような視線を彼に向けた。
「はぁ……シャワー、浴びるんでしょ? さっさと、いきなさいよ」
「おう、そうだな。花梨は、どうする?」
「もうちょい、ここで休んでる。だから、先に入ってきて」
「そうだな。じゃ、お先に」
このまま花梨を連れていくと、おそらく二回戦が始まるだろうと思った陽一は、惜しいと思いながらも浴室に入った。
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