第3話 理想の武器
「いやぁ、手も足もでなかったな」
「さすが姫騎士ね。噂にたがわぬ……というか、噂以上の強さだったわ」
訓練場での模擬戦を終えて、そんな感想を呟いたアレクとエマは、敗北したにも関わらず、晴れやかな表情を浮かべていた。
「なかなか楽しかったよ」
平然と言い放つアラーナを見て、アレクらは顔を見合わせ、苦笑とともにため息を漏らした。
「文字どおり命がけで挑んだんだがなぁ」
「私たちじゃあ、ふたりがかりでも、姫騎士を楽しませる程度に終わってしまうのね」
それから3人は、模擬戦の感想を言い合った。
「ところでアレクは随分と面白い戦い方をするのだな。それに、そのサーベルも普通のものではないようだ」
アラーナの興味が自分の腰に提げたサーベルにあると知り、アレクは腰から鞘ごと剣を抜いた。
「よかったらどうぞ」
「うむ、すまんな」
サーベルを受け取ったアラーナは、鞘から剣身を引き抜く。訓練場の照明を受けたサーベルが、鈍く輝いた。
「ふむ、通常のものより、随分と厚いのだな。反りも深い」
「こだわりにこだわりぬいた、特注品だものね」
「まぁ、一応……」
少しばかり呆れ気味なエマの言葉に、アレクの表情が曇る。
「なにやらこのサーベルに不満があるようだな。【心装】としていないのも、そのせいかな?」
この世界の武人は、【心装】というスキルで、愛用の武器を精神世界に収納できる。
アラーナは二丁斧槍を、エマは大剣を【心装】としていた。
【心装】となった武器は、文字どおり所持者と一心同体となり、多少の傷や破損は修復できるようになる。
ただし、一度【心装】とした武器は、おいそれと変更できないので、選択は慎重にせねばならない。
「ミスリル、アダマンタイト、それにオリハルコンまで使った逸品ではないか。この特殊な
「そこまで見抜くとはさすが姫騎士ね。私もいい加減にしなさいって思うのだけど、アレクはどうにも納得がいかないみたいで……」
エマの言葉に、アレクはバツが悪そうに頭をかいた。
「んー、なんというか、しっくりこないんだよな。それも悪くないんだけど、いまひとつ違うというか」
「あなたのお眼鏡にかなう武器なんて、あるのかしら? こだわりどころがいまいち理解できないのよ」
「……もしかしたら、ないのかもなぁ」
「あるよ」
突然、割って入った陽一に、全員の注目が集まる。
視線を受けても気にすることなく、陽一は【無限収納+】から取り出したものを、アレクに差し出した。
「こ、これは……!?」
それを受け取ったアレクは、
「ポ……ポン刀やないッスかぁ!!」
それは以前、陽一が南の町の山小屋で銃火器と一緒に見つけた、日本刀のひとつだった。
「ポン刀って……。東堂さんちの洋一くんは、やっぱヤンキーだったのか?」
「あ、いやぁ……なんていうか、元気がありあまってた時期があったというか、なんというか」
「ま、なんにせよいくつか持ってるから、見てみなよ」
そう言って陽一は、【無限収納+】から10振りほどの刀剣を取り出した。
「俺に良し悪しはよくわからんから、適当に選んでくれよ。なんなら全部持っていってもいいけど」
「じゃあ、とりあえず試し振りするッス」
アレクは床に並べられた、さまざまな種類の刀を抱えて訓練場の空きスペースへ行き、ひとつひとつ丁寧に観察しては、試し振りを行なった。
「ああなると彼、長いから。私たちは上でお茶でも飲んでいましょう」
呆れながらもどこか優しい微笑みを浮かべるエマの提案に、全員が頷いた。
○●○●
「これとこれとこれとこれがいいッス」
およそ1時間後、試し振りを終えたアレクが、ギルドの酒場に顔を見せた。
彼は
「しかし、4本となると、少しかさばるんじゃないか?」
「【心装】にしちまえば、問題ないッス」
「……それを【心装】にする気なのか?」
「ッス!」
「いやいや、待て待て! それはダメだ! 絶対にダメ!!」
陽一の反応が意外だったのか、アレクは眉をひそめて首を傾げた。
「いや、全部もらっていいって……」
「あげるよ? それは本当に問題ない」
「じゃあ……」
「でも【心装】はダメ!」
「なんでっすか!?」
「いやだって、【心装】って、一度登録したら、おいそれと変更できないんだろ?」
そう言ったあとアラーナとエマを見ると、ふたりとも陽一の言葉を肯定するように、大きく頷いた。
「いやでも、すっげーしっくりきたんすよ! だから……」
「まぁ待て、まずは俺の話を聞け」
なんとかアレクをなだめた陽一は、元の世界産の武器には魔力が含まれていないこと。
そのせいで、威力がかなり落ちることを説明した。
「えぇ……せっかくポン刀が手に入ったのに」
うなだれるアレクの肩を、陽一はポンポンと叩いた。
「心配するな。この町には一流の錬金鍛冶師がいるから」
「錬金鍛冶師?」
首を傾げるアレクに対し、エマは思い当たることがあったのか、ポンと手を打った。
「南の辺境メイルグラードの錬金鍛冶師サム・スミスね! なるほど、彼なら、その……ポントウ? も再現できるかもしれないわね」
「日本刀ね。あと、彼じゃなくて……いや、まぁいいか」
「
そういうわけで、陽一はアレクとエマを連れて、サマンサの工房へ行くことになった。
「さて、私は業務があるから、館に戻るとするよ。アレク、エマ、楽しかったぞ。またな」
「あ、わたしも、オルタンスさんのお手伝いにいこうと思います」
そう言ってこの場を離れようとするアラーナと実里が、どこかよそよそしい。
なにかあるのかと首を傾げる陽一に花梨が歩み寄り耳元で囁いた。
「ほら、あそこにいくと、いろいろ感想聞かれるから」
「感想? あー……」
「あたしたちだけならべつにいいけど、アレクさんたちがいるとちょっと、ね?」
「わかった。じゃあ花梨も?」
「うん。ただ、あたしは会社に用があるから、悪いけど日本に送ってくれる?」
そういうわけでアラーナ、実里とはここで別れ、花梨を日本に送ったあと、陽一はアレクとエマを連れてサマンサの工房に向かった。
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