錬金鍛冶師サム・スミス5

「よし……撃つぞ……」

「うん……」


 それからさらに数日。

 ふたりは工房にこもってリボルバー本体の作成に打ち込んだ。


 魔力が切れたらキスをして回復する。


 幸い――あるいは残念ながらというべきか――唾液による魔力譲渡で充分作業を続けることができたので、ふたりはそれ以上の行為に及ぶことはなかった。

 何度かあやしい場面もあったが、結局サムの創作意欲が強かったこともあり、お互いギリギリのところで踏みとどまることができた。


 作業工程でなにか疑問が生まれるたびに【鑑定+】で調べて答えていき、いくつもの試作品を作った。


 こちらの世界には存在しない銃という武器を、魔道具として作成する。

 つまり、過去に存在しなかったものを新たに作るということなので、【鑑定+】で調べるにも限界があった。


 ある程度は自分たちで試行錯誤して形にし、それが正しく動作するのか? くらいの答えはもらえたが、"ここをこうすればいい"といったナビゲーションは得られなかった。


 それでも、トライアンドエラーの回数は劇的に圧縮することができ、本来であれば数ヵ月、場合によっては数年かかってもおかしくない新たな魔道具の作成を、10日とかからずに終えることができたのだ。


 【鑑定+】さまさまといったところだろう。


 そしてすでに【鑑定+】からは成功という答えを得ている。

 あとは実際に結果を見るだけだ。


 ――カチリ……。


 半透明の直方体に銃口を当て、撃鉄を起こす。

 引き金に指をかけ、陽一は最後にもう一度サムを見た。

 その視線を受け、サムは無言で力強く頷く。


「いくぞ……3……2……1……ファイアっ!!」


 ――ドパァッ!!


「うぉおっ!?」「きゃぁっ!!」


 あたりに半透明のゲルが飛び散った。

 銃声自体に軽い〈遮音〉の魔術を施しているため銃声はあまり大きくなかったが、爆発四散したゲルに驚いてしまう。


「うへぇ……。大丈夫か、サム?」

「うええ……ベトベトだよぉ……」


 顔についたゲルを手で取り除きながら不快な表情を浮かべていたサムだったが、ふと陽一をみてニコリと笑う。


「でもまぁ……大成功だねっ!」

「……だな」


 元のリボルバーでも試射していたが、直方体の表面には星型の亀裂が入り、銃弾はなかほどで止まっていた。

 対して新たに作ったリボルバーだと、銃弾はほぼ貫通。

 発射時の衝撃によってゲル表面の1割ほどが爆発四散していた。


 これに関しては陽一が銃口をピッタリとくっつけていたことが原因であり、少し離していればここまで破裂することはなかっただろう。


「これならCランクの魔物くらい一撃で倒せそうだね」


 例えばワンアイドベアーを例に取った場合、これまでこの魔物を一撃で倒すには対物ライフルが必要だった。

 角度と当たりどころさえよければ突撃銃でも倒せたのだが、新しく作った拳銃はどうやらそれよりは威力が高そうである。


 突撃銃以上、対物ライフル未満といったところか。


 無論、拳銃なので突撃銃やライフルのような射程距離があるわけではない。

 威力の増強に応じて銃弾の飛距離は伸びただろうが、イコールそれが射程距離の延長とはいかず、拳銃はあくまで准近接戦闘用の武器であることに変わりはない。


 それでも、高威力の攻撃手段を新たに入手できたことは、今後の戦術を大きく左右することだろう。


 そして今回の作業は、なにも拳銃だけに留める必要はないのだ。


「あーあ、しかしベットベトになっちまったなぁ」


 試し撃ちの際、弾丸受け止め用ゲルに銃口を密着させていたせいで、発射の衝撃を受けた半透明のゲルが爆発して飛び散り、陽一とサムはゲルまみれになってしまった。


 陽一は【無限収納+】からタオルを取り出し、顔や腕についたゲルを拭き取っていく。

 汗でピッタリと肌に張りついたTシャツにもゲルは付着していたが、これはあとで着替えればいいだろうと、適当に払い落とすにとどめた。


「ほら、拭いてやるよ」

「ん、ありがと」


 陽一は新しいタオルを取り出し、あぐらをかいているサムの近くにかがむと、彼女の顔や髪についたゲルをぬぐい落としてやった。


 ついでに玉のように浮き出した汗も拭いていく。

 首元や肩などを拭きながら、ふと視線を落とすと、汗に濡れた白いタンクトップの下にあるわずかな膨らみが透けて見えた。


 ただ作業に没頭していれば気にはならなかったかもしれないが、途中で魔力譲渡を行なうたびに、サムが女性であることを意識させられてしまう。

 なので意図的に胸や尻などは見ないようにしていたが、作業が終わったことで油断してしまった。


「ふ、服は……着替えたほうが早いかな……」


 ピッタリと張りついたタンクトップの表面には、乳首の形がくっきりと浮かび上がっている。

 そして少し視線を落とすとショーツが目に飛び込んできた。

 作業途中、彼女は暑いからと言ってスカートを脱ぎ去っていた。

 飾り気のない白いショーツもまた汗に濡れてほとんど透けている。


「あ、あとは、自分で拭くよ……」

「おう、そうだな……」


 新しいタオルを出してサムに渡してやると、彼女も陽一同様服についたゲルは軽く払い落とすにとどめ、肌についたものだけを入念にぬぐっていった。


「ん、ありがと」

「おう」

「ふぅ……疲れたぁ……」


 サムは陽一にタオルを手渡すと、そのまま床に座り込んだ。

 タオルを収納したあと、陽一もその隣に腰を下ろす。


「あのさ、最後にもう1回、いいかな?」

「もう1回?」

「うん……。ちょっと魔力切れで、気分が悪くなりそうだから」

「そっか、うん。いいよ」

「ありがと……んむ」


 横に並んで座っていたふたりは身をよじり、体勢を変えながら向かい合って身を寄せ、目を閉じて唇を重ねた。


 作業途中何度も繰り返された行為だった。


(でも、もう作業は終わったんだよな……)


 ふと陽一の脳裏にサムの肢体が浮かび上がる。

 汗に濡れたタンクトップに浮かび上がる膨らみと、ショーツに透ける……。


 目を閉じ、舌を絡め合っていた陽一の手が、半ば無意識のうちに動いてサムの胸に触れる。


「んぁ……ん……れろぉ……」


 手が触れた瞬間、サムはピクリと震えたが、特に嫌がるそぶりは見せなかった。


(いいんだよな……?)


 それからふたりの行為は、その先へ進むのだった。

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