第13話 地対竜ミサイル
「陽一さん、あれ……」
実里の示す先に翼の生えたドラゴンが見えた。
それはワイバーンよりもふたまわりほど大きく、かつ竜鱗によって全身を覆われた正真正銘の竜種、ウィングドラゴンである。
さすが竜種だけあって、中途半端に飛べるワイバーンと異なり飛行速度、距離ともにかなり優れた種だ。
ウィングドラゴンの能力をもってすれば、ここから町まで2時間足らずで到着できるだろうし、その後も破壊の限りを尽くせるだろう。
まだ距離があり、かつ巨体であるため悠然と飛行しているように見えるが、2分もあれば陽一らのいる場所にたどり着ける。
確認できた個体は5匹。
うち2匹が陽一らのもとへ、残り3匹は町を目指しているようだ。
「こっちに来るやつは任せたよ」
「あはは……」
「は、はい……!!」
遠目にもわかるウィングドラゴンの威容に、花梨も実里は緊張しているようだが、彼女らであればドラゴンの1匹や2匹は倒せるはずだ。
『備えあれば憂いなし、といいますでしょう? これでしたらおそらくドラゴンだって一発で仕留められますわ』
そんなシャーロットの言葉を思い出しながら、陽一は携帯型地対空ミサイルを【無限収納+】から取り出した。
「こいつを用意してくれたシャーロットに感謝だな……、よいせっとぉっ!」
かけ声とともにミサイルシステムを肩に担いだ陽一は、悠然と飛び去ろうとするウィングドラゴンの1匹に狙いをつけ――、
「ファイヤー!!」
――ミサイルを発射した。
1匹目は、まさか自分が狙われるとも思っていなかったようで、不意打ちのようなかたちとなり、あえなく撃墜。
ミサイルでの攻撃は魔力を帯びない攻撃のため、効果が下がる反面、察知されにくいのが幸いした。
ヘリを一撃で撃ち落とす地対空ミサルであっても、竜種がまとう竜鱗を打ち破ることはできない。
しかしその強固な竜鱗や頑丈な筋肉をもってしても、着弾後の爆発による衝撃を殺し切ることはできなかった。
ウィングドラゴンはかすり傷程度のダメージしか受けていないように見えて、臓器をズタズタに破壊されていたのだった。
2匹めは1匹目の様子を見て学習したのか、自身に高速で迫る異物に気づき、ブレスでの迎撃に成功。
「おー、さすがドラゴン。しかし残念」
しかしそれを予測していた陽一はすでに2発目を発射していた。
ブレスは連続で放てないようで、ウィングドラゴンは逃げの体勢に入った。
「逃げられんよ」
ウィングドラゴンは射線を外れたが、ミサイルは軌道を変えて敵を追尾する。
光学式追尾システムをもつミサイルにロックオンされていた2匹目も、続けて撃墜された。
「喰らいなさい!!」
およそ100メートルのところまで近づいていた2匹の個体に対し、花梨は連続で矢を放った。
「ガァウッ!」
「ギグァオォッ!!」
矢は竜鱗を貫きウィングドラゴンに深々と刺さったが、分厚い筋肉を貫くだけの威力はない。
しかし牽制には充分であり、ウィングドラゴンたちは不機嫌そうに吠えながら身をよじった。
それにより接近の速度が緩み、実里は余裕を持って魔術を放つ準備ができた。
「いきます……! 〈獄炎の魔槍〉!!」
黒い炎をまとう長大な槍が飛び、1匹のウィングドラゴンの身体を貫いた。
「グギャオォォッ……」
その個体は断末魔の雄叫びを上げて地上に墜ちていく。
それを見たもう1匹は、一撃で仲間を仕留めた魔術に恐れをなしたのか、逃げ出そうとした。
「逃さないわよっ!!」
「グルゥッ……!!」
そこへ花梨がすかさず矢を放ち、数発の矢を身体に受けたウィングドラゴンが短い悲鳴を上げ、身をよじった。
「もう1発!!」
その間に詠唱を終えた実里が続けて〈獄炎の魔槍〉を放ち、その個体もあえなく撃墜。
町へ向かっていた最後の1匹も、陽一の地対空ミサイルによって撃ち落とされたのだった。
○●○●
――ズシン…………ズシン…………。
殺到する魔物の集団が生み出す地鳴りとは別に、ほぼ等間隔で響く低い音と振動があった。
陽一らが戦闘開始数分後には気づいていたその地響きは、少しずつ近づいていた。
それが近づくに連れ、地鳴りだけでなく、メキメキと木をなぎ倒す音も混じってきた。
「そろそろかな……」
陽一ら3人は近づく敵を掃討しながら、音のするほうを凝視していた。
戦闘開始からすでに1時間ほどが経過しており、陽一らのいる場所から離れた位置を進んでいた魔物たちは、ちらほらと彼らを無視して町へ向かっている。
森からはまだ新たな魔物たちがとめどなくあふれ出しており、それらに対応できるだけの弾薬はすでに尽きていた。
もう数分もここにとどまれば、殺到した魔物の集団に対処しきれなくなり、押しつぶされてしまうだろう。
これまでのようにここに踏みとどまって魔物の集団に対処するのは困難であり、作戦は次の段階へ進むときがきていた。
「よしっ! あいつの進路がほぼ確定したぞ。花梨、実里、近づくやつだけでいいから適当に追い散らしてくれ」
「おっけぃ!」
「はい、任せてください」
魔物の対処をふたりに任せた陽一は、運転席に座るとSUVを発進させた。
時速50キロメートルほどで足場の悪い岩石砂漠を走ったため車はかなり揺れたが、ふたりは実里がかけた〈空中浮揚〉によって振動を回避しつつ、〈慣性制御〉によってルーフラック上に留まり、追いすがる魔物を掃討していく。
そうやって5分もしないうちに先頭集団を引き離すことに成功した。
「ここらへんでいいか……」
森から30キロメートルほど離れた場所まで移動したところで車を止めた。
「ふたりともおつかれ」
「ふー。そっちこそおつかれ」
「はい。陽一さんもおつかれさまでした」
車を降りた陽一は、花梨と実里もルーフラックから地面へふわりと着地するのを確認し、SUVを【無限収納+】に収める。
「あとはこの辺に……」
【鑑定+】が予測する敵の進路を確認しながら、陽一は数メートル歩き、ふたりもそれに続いた。
「ここだな」
そして、なにもない場所で陽一は立ち止まった。
「ここにこいつを置いて……その上に、これ……っと」
手の中に現われた小さなピアスを地面においた陽一は、それに厚い紙を乗せると、その上に薄く砂をかぶせた。
「次はこっちだけど……、実里、穴掘りの魔術ってある?」
「はい。落とし穴を作ったりするのがありますけど」
「じゃあここに3メートルくらいの穴を掘ってくれるかな?」
「はい」
陽一の指示に従い、実里は深さ3メートルほどの少し大きめの穴を掘った。
「よしよし、ありがとう。じゃあここにこいつらを置いて……」
そして陽一はそこに地雷を設置していく。
「よし、埋めよう」
穴の周りに盛り上げられた土砂を崩し、穴を埋めていく。
「さて、そろそろ出てくるかな」
穴を埋め終えた陽一は、【無限収納+】から望遠鏡を取り出し、森のほうに向けた。
「平面世界だからか、かなり遠くまで見えるな」
この世界は地球のような球体の惑星ではなく、地表が平面の世界らしいのだが、これまで陽一はそのことをあまり深く考えていなかった。
しかし、眼前に広がる地平線には一切の丸みがなく、望遠鏡を覗いたときに思ったより遠くまで見えることから、ここが惑星ではないのだということをあらためて実感した。
「わ……すごい……」
陽一の隣では、遠見の魔術で森を見ていた実里が、驚きの声を上げた。
「あたしも見たいー」
「ほいよ」
「……ひえー、すっごいわねぇ……」
陽一から望遠鏡を受け取った花梨も、レンズの向こう側の光景に驚きの声を上げた。
「ドーム球場並みかよ……。ったく無茶苦茶な大きさだな」
メキメキと樹木をなぎ倒しながらようやく森の端から姿を表したのは、巨大な亀の魔物だった。
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