第12話 現代兵器と弓矢と魔術

 『ここ、大きな岩がごろごろ転がってますわね』


 先頭集団が地雷攻撃をうけて数分後、魔物の死骸や倒れた木々を踏み越え、後続の集団がようやく森を抜け始めた。

 そんな魔物たちのまえに立ちはだかったのが、広い範囲に壁のように並べられた大岩だった。


 森と町とのあいだにひろがる岩石砂漠には、人の背丈よりも高い大岩がごろごろと転がっていた。


『これ、あなたの【無限収納+】で運べませんの?』


 シャーロットの提案で、100を超える大岩を【無限収納+】に収納し、森の切れ目から100メートルほど下がったところへ壁のように並べていった。

 また、その大岩の壁の一部は通路のようにあいだを空けており、魔物の群れをそこへ誘導するように仕向けている。

 そうやってできるだけ魔物の群れを密集させようという算段である。


 無論、ある程度大型の魔物の力をもってすれば大岩をどけたり壊したりするのは容易だろうが、それでも集団の一部はシャーロットの思惑通り壁を避けて移動し、やがて通路状に空いたスペースへと殺到していった。


「上に下にと大忙しだな……。花梨、実里、しばらく上は頼むよ!」

「オーライ!」

「はい、任せて下さい!」


 対物ライフルの有効射程1000メートル以内にいる、手強そうな魔物をある程度連続で仕留めた陽一は、一旦ライフルを【無限収納+】にしまい、SUVのルーフラックにしっかりと固定した重機関銃に手をかけ、魔物の集団へむけて容赦なく銃弾を浴びせかけた。


 ――ドルルルルルルルルルルルルッ!!


 毎分1200発のペースで放たれる大口径銃弾が魔物の集団を倒していく。

 ゴブリンやコボルト、ハウンド系やラビット系などの小型の魔物は、あれよという間に肉塊と化していった。


 元の世界では猛獣を1発で仕留められる44マグナム弾をもってしても、容易に倒すことのできないワンアイドベアーやダークウルフといった強固な毛皮を持つ魔物も、12・7x99ミリNATO弾の前には為す術なく倒れていくしかないようだ。


 それでもさすがは高ランクの魔物であり、射角次第ではこの大口径の銃弾を弾き飛ばすこともあるようだが、衝撃は如何いかんともしがたく、骨や臓器はしたたかに破壊された。

 そして動けなくなってその場にとどまると、後続の集団に踏み潰されるのである。


 しかし仲間(?)の死骸を踏み越えて前進する集団もまた、重機関銃が放つ銃弾の餌食えじきとなって倒れていくのだった。


「おおー、なんかでっかいのがきたよー!?」


 花梨の声に上空を見上げると、ワイバーンが近づいてくるのが見えた。

 ワイバーンは飛行速度こそそれなりに早いものの、航行距離が短く、せいぜい日に50キロメートルも飛び続ければ、力尽きてしまう程度の飛行能力しか持っていない。

 連中は自分たちが町へとたどり着けないことを理解しているのか、例外なく陽一らを標的としているようだった。


 その数およそ10。


「これ以上近づけるのはやばいか……」


 対象が大きいのでかなり近づかれているように見えるが、それでもまだ500メートルほどは離れていた。

 花梨と実里がワイバーンを仕留めるとなると、100メートル以内に引きつけたうえで、魔術を付与した矢や、ある程度効果の高い単体攻撃魔術を数発当てる必要があり、そこまで10匹すべてを近づけてしまうと倒しきれずにこちらへ被害を及ぼす個体が出てくる可能性がある。

 一旦重機関銃から手を離した陽一は、再び【無限収納+】から対物ライフルを取り出し、構えた。


「竜っつっても、しょせんは亜竜か」


 ワイバーンは大きなカテゴリーでは竜種だが、細かくカテゴライズすると亜竜、すなわち"竜モドキ"となる。


 竜と亜竜の違いはいくつかあるが、そのひとつに竜鱗りゅうりんの有無がある。


 亜竜は爬虫類はちゅうるいのようなうろこ状の硬い皮膚を持っているが、竜はさらにその外側がより硬いうろこ、すなわち竜鱗に覆われているのだ。

 竜鱗を持たないワイバーンであれば、対物ライフルでも充分に倒すことが可能なのである。


 ――ドゥンッ! ドゥンッ! ドゥンッ……。


 低い銃声が何発も続けて鳴り響き、ワイバーンの巨体が次々に墜ちていく。

 ワイバーンはかなりの巨体を誇るためさすがに1発で仕留めるとはいかないが、それでも5~6発もあれば充分に倒すことができる。

 陽一は500メートルの距離まで近づいた5匹のワイバーンを撃墜した。


「あとはいけるか!?」

「ええ!! 実里、雑魚は任せるわよ!!」

「わかった!!」


 5匹まで減らせば残りは花梨ひとりで撃ち落とせるだろうと判断し、陽一は再び重機関銃を構え直した。


「よしよし、仕掛けのほうもうまくいってるみたいだな」


 陽一がワイバーンを仕留めているあいだに、地上ではさらなる大爆発の連鎖が起こっていた。

 大岩の壁を避けていた魔物の集団だったが、後続の勢いに押されるかたちで壁に殺到し、ほどなく岩の壁は乗り越えられた。


 しかしその先もまた、地雷原となっていた。

 さらに、岩を効果的に粉砕すべく岩と岩の隙間に貼りつけられたり、大岩の亀裂に詰め込まれたりしたプラスチック爆弾が連鎖して爆発を起こす。


 爆弾や地雷の爆風に加え、大岩が砕かれてできた岩の破片などもまた凶器となって魔物の集団を襲う。

 そうやってさらに多くの魔物を倒したが、さりとて焼け石に水程度の成果でしかなかった。


「おお、そろそろやばくなってきたか?」


 魔物たちの犠牲で壁がなくなり、ある程度密集していた集団が拡散されていく。

 さすがにそれらすべての足止めをできるとは最初から思ってはいないが、できるだけ数を減らすべく重機関銃で銃弾をバラ撒いて、可能な範囲で魔物を仕留めていった。

 ただ、これまでの殺戮行為で集団からの敵愾心ヘイトが高まったのか、大半の魔物が陽一らを目がけて殺到したのは嬉しい誤算だった。


○●○●


 地上の集団が1キロメートルのところまで近づいたところで、陽一は【無限収納+】から回転式多銃身機関銃、すなわちガトリングガンを取り出した。

 先ほどまで使っていた重機関銃ほどの大きさではないにせよ、これも三脚架に立てて据え置きで使う重火器の一種である。

 ガトリングガンにしてはコンパクトなため、"ミニガン"の通称で知られているものだ。

 1発の威力こそ重機関銃に劣るが、手数は毎分6000発と約5倍になる。


『敵が1000メートルに届くまでは重機関銃でとにかく数を減らしなさいな。1000メートルの距離まで近づかれたら、ミニガンで雑魚を掃討しつつ、うまく誘導して敵を分断して、小さな集団をいくつも作るのがよいと思われますわ。あなたの【鑑定+】とやらでできますでしょう?』


 というシャーロットの助言のもと、陽一はミニガンを掃射しつつ群れを誘導していく。


 本来であれば毎分3000~4000発に抑えておかないと不具合を起こしやすくなるミニガンだが、4000発入りのマガジンボックスを空にするたびに本体を【無限収納+】に収めてメンテナンス機能で状態を回復させることで、陽一はこの殺戮兵器の性能を限界まで引き出すことができた。


 マガジンボックス25箱、すなわち10万発の弾丸を使い尽くしたころ、先頭集団はいくつかの小集団に分断されていた。


「よっこらせっと」


 いったんミニガンから手を離した陽一は、【無限収納+】からグレネードランチャーを取り出し、小集団に向けて撃った。


 ボシュッ、ボシュッとどこか間の抜けたような音が鳴る。山なりに飛んでいったグレネード弾が目的の場所に着弾し、爆発が起こった。


 【無限収納+】を使って弾の装填とメンテナンスをしつつ、連続でグレネード弾を放って小集団を倒していき、おりをみて残り少なくなった重機関銃の弾を浴びせた。

 重機関銃の弾が空になるころには、当初の目標を大幅に上回る、3万匹近い魔物を倒せていたが、それでも1匹残らずというわけにはいかず、数百匹単位の魔物が3人の乗るSUVに近づいてくる。


「実里っ!!」

「はいっ! 援護をお願いします!!」


 突撃銃を構え、実里が相手をしていた飛行系の魔物を牽制する。

 そのあいだに実里は詠唱を終え、陸から迫りくる数百匹の魔物の群れを、〈死神の大鎌〉という超級攻撃魔術によって一掃した。

 ふたりに殺到していた魔物たちは、わけもわからぬまま身体を上下に分断されて、切断面から灰になっていった。


「やっぱ魔術ってすげーな」

「ほんとに……」


 殺到してきた魔物のなかには、重機関銃やミニガンの銃撃に耐えたものも含まれていたが、その手の頑丈な魔物でさえ、実里の魔術によって紙切れのように切断されたのである。


 戦車などを相手にすれば現代兵器に軍配が上がるのだろうが、こと魔物を相手とした場合はこちらの世界の武器や魔術のほうが効果が高くなるのは仕方のないことである。

 魔物の身体を覆う、あるいは体内を巡る魔力は彼らを守る鎧であり、そんな魔力の鎧を打ち破るのもまた、魔力なのだ。


「おお、デカいのが近づいてきたな」


 陽一の突撃銃と花梨の弓矢で牽制しつつ、実里の範囲攻撃魔術で魔物を掃討する、という行為を繰り返し、なんとか集団をしりぞけていた3人のもとに、大型の魔物が近づいてくるのが見えた。

 サイクロプス、オーガ、ギガンテスといった巨人系の魔物が、100匹単位で近づいてくるのは、なかなか見ごたえのある光景だった。


 これら大型の魔物であっても、花梨の弓矢や実里の魔術を持ってすれば倒せるのだが、なんといっても数が多い。

 大物を倒すにはそれなりに高い効果の魔術が必要なので、そのぶん射程が短くなってしまうし、弓矢で倒すにしても射程ギリギリでは仕留め損なうおそれがある。

 どちらにせよある程度は引きつける必要があるのだ。


「できるだけ数は減らしとこうかね」


 ここまで大物用に温存しておいたロケットランチャーを構えた陽一は、花梨と実里がバックファイアに巻き込まれないよう注意しながら、いちばん近くにいたサイクロプスに向けて対戦車榴弾りゅうだんを発射する。

 数秒後、着弾地点にいたサイクロプスは爆発四散した。


 魔術に比べて効果が低いといっても、その差分を埋めるだけの物理的な威力があれば問題はないのだ。

 グレネードランチャーのときと同じく、陽一はロケットランチャーを適宜【無限収納+】へ出し入れしながら、大型魔物の集団に向けてロケット弾を撃ち続けた。


「あとはあたしたちが」

「お任せください」


 ロケット弾1発で2~3匹を行動不能に陥らせられることもあり、数分で大物の魔物を半数以下まで減らすことに成功したため、接近を許した個体は花梨と実里で殲滅せんめつできた。

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