第11話 迎撃開始
あと数分で、先頭集団が境界線に到達する。
陽一はその2キロメートルほど後方に米国製SUVを停め、その時を待っていた。
「もう、すぐみたいね……」
「陽一さん……」
陽一の傍らで、花梨と実里が不安げな声を漏らす。
シャーロットを元の世界に送り返したあと、陽一は一度町に戻り、準備を終えた花梨と実里を連れてこの場に戻っていた。
シャーロット指導による準備を終えた時点で、車を停めたこの場所をホームポイントに設定していたのである。
「まずは俺たちが頑張って、アラーナたちに少しでも楽をさせてやらないとな」
アラーナは現在、冒険者たちとともに町の近くで待機している。
メイルグラードを出て3キロメートルほどのところに防衛拠点を築き、迎え撃とうという構えだ。
過去に数回
「そうね」
「はい。頑張ります」
「うん。まぁふたりの出番は少し先だから、あんまり気負わないで。それに、俺たちはあくまでお手伝い。無理はしない。いいね?」
「おっけー」
「はい」
陽一の言葉で、ふたりの緊張は少しばかりほぐれたようである。
「……くるよ」
陽一がそう口にしたのとほぼ同時に、森と荒野に連続した爆発音が鳴り響いた。
「どうやらうまくいったみたいだ」
今回の作戦で最初に仕掛けたのは、ワイヤートラップで発動する地雷だった。
森の内側50~100メートルのあたりに、対車両地雷数十個を設置し、境界線あたりに生える木々のあいだにワイヤーを張る。
先頭集団が森を抜けようとワイヤーに引っかかると、地雷が爆発するという仕組みである。
先頭集団にはハウンド系やウルフ系、コボルトやゴブリンなど、身軽で小型の魔物が多いため、この時点で1000匹以上を仕留めることに成功した。
さらに、爆発の衝撃や爆風によって木々が倒れ、わずかながら進行を遅らせるという副次的な効果もあった。
「お、飛行系のやつらが出てきたな」
鳥のような、あるいはコウモリのような魔物に、
ほかにも人型で両腕が翼のようになっている、いわゆるハーピーらしきものや、
いくら飛行能力があるといっても、永遠に飛び続けられるわけではない。
この世界の飛行系の魔物は翼の力だけでなく、魔力を利用して空を飛んでいるが、それでも長距離を跳び続けられる魔物はそれほど多くないのだ。
なので、この手の魔物は途中まで陸を進むか、陸生の魔物の肩や背に留まって進み、ある程度距離を稼いだところで飛び立つのである。
今回飛び立ったのは、地雷の爆発に驚いて思わず、もしくは爆発を避けて、あるいは乗っていた陸生の魔物がダメージを受けて、といった具合に飛び出したものと思われる。
そして、飛び立てぬまま爆発に巻き込まれて死んだ飛行系の魔物も、もちろん多数存在した。
――ドゥンッ! ドゥンッ! ドゥンッ……。
低く重い銃声が鳴るとともに、1匹、また1匹と魔物が墜ちてゆく。
「小さいのはべつにいいけど、でかいのはな」
多くの魔物が町を目指して飛び立ったが、小型の魔物に関してはあえて無視した。
およそ100キロメートル離れた町にたどり着いたところで、まともに戦う力も残っていないだろう。
そこで陽一が狙ったのは、ヒポグリフやグリフォンといった飛行距離が長く、かつ飛行速度の速い中型の魔物である。
その手の魔物は1~2分で対物ライフルの有効射程に入るので、【鑑定+】で狙いをつけ、射程に入った時点で容赦なく撃ち落としていった。
「花梨は撃ち漏らした中型のを、実里は小さいのを頼む!」
「はいよ!」
「はい!」
魔物の中には3人を敵とみなし、町ではなく彼らをめがけて飛んでくるものもあったが、陽一はとにかく町へ向かうものを重点的に撃ち落としていった。
そして陽一らに近づくもののうち、小さな個体はある程度近づいたところで実里の魔術によって、中型のものはさらに近づいたところで花梨の弓によって倒されることとなった。
「ギギィッ!!」
「グェッ……!」
「ビギャッ……!!」
「クエエェェッ……」
断末魔の雄叫びとともに、まずは実里の魔術で小型の魔物がパタパタと撃墜されていく。
『効果』『射程』『範囲』は、魔術の3要素と呼ばれている。
実里が最初に狙ったのは、飛行速度の速い小型の魔物である。
威力、すなわち『効果』がそこそこ高く、『射程』が長いかわりに『範囲』の狭い長距離向け単体攻撃魔術を連発して、1匹あたり1~2撃で撃墜していく。
長距離といっても、魔術が到達できる『射程』の限界は、せいぜい200~300メートルではあるが。
続けて中型の魔物をある程度引きつけたところで、より『効果』が高いかわりに、『射程』が短く『範囲』の狭い中距離単体攻撃魔術で仕留めていく。
そうこうしているうちに撃ち漏らした小型の魔物が多数殺到してくるので、『効果』が低く、やや短い『射程』ながら『範囲』の広い中距離範囲攻撃魔術で一気に倒し、そこで生き残ったものはさらにひきつけて『効果』を高めた近距離範囲攻撃魔術で撃ち落とす、といった具合に雑魚を掃討していった。
「デカイのは任せてっ!!」
ある程度まで引きつけた中型の魔物を次々に撃ち落としているのは花梨だった。
新たに習得した魔術で身体能力や弓矢を強化した花梨だったが、さすがにライフルよろしく1キロメートル以上先の相手を仕留める、というのはほぼ不可能である。
それでも100メートルといわれるコンパウンドボウの有効射程を、300メートルほどに引き上げることができていた。
「よし、ヤバそうなのはだいたい仕留めたな」
町へと向かう魔物のうち、手強そうな個体をあらかた撃ち落とし、陽一は自分たちへ近づいてくる魔物へと照準を切り替えた。
多くの魔物が3人に撃ち落とされるなか、弾幕をくぐり抜けてきた2匹のグリフォンが左右から挟撃するように向かってくる。
「花梨、右のやつを頼む!」
「はいな!」
――ドゥン! という
体表を覆う毛皮とその下にある筋肉、そしてなにより魔物がまとう魔力に阻まれて、ライフルの射程に対して比較的近い距離であっても致命傷を与えることはできない。
「グルァァッ!!」
甲高い
同じライフルから同じ威力で放たれた銃弾は、先ほどよりも深く敵の体をえぐり、筋肉の壁を突き破って内蔵をいくつも破壊していった。
「グエェッ……!」
そして飛行できるだけの生命力を失ったグリフォンは、力のない悲鳴を上げながら墜落した。
ちなみに陽一の攻撃で2発目のほうがより高い効果を得られたのは、1発目でそれなりに大きなダメージを受けたことで、魔物が無意識下に展開している魔力での防御が薄れるせいだということを【鑑定+】によって確認している。
「グルルゥーッ!!」
右側からは別のグリフォンが、雄叫びとともに速度を上げて近づいてくる。
「ガァッ……!!」
しかしその個体は花梨の放つ矢に胴を貫かれ、絶命した。
「こっちは1匹落とすのに2~3発必要だってのに、そっちは1発かよ!」
「ふふん、すごいでしょう?」
花梨の矢がライフルの弾よりもダメージを与えられるのは、放たれた矢そのものが魔力を帯びたこちらの世界の素材でできていることに加え、魔術によって貫通力を強化されているからである。
「そろそろ下からもくるぞ!」
飛行系の魔物を順調に撃墜し続ける3人に向かって、地上を進む魔物の集団が地雷原を越えて接近し始めるのだった。
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