第10話 シャーリィにおまかせ
「で、なぜわたくしに打ち明けましたの? わたくしがこのことを……例えばエドに話したら、あなた大変なことになりますわよ?」
行為が終わって5分ほどで完全に調子を取り戻したシャーロットは、現在陽一が用意したアウトドア用の椅子に身を預けている。
まだ少し身体や衣服が汚れているが、陽一のスキルを使えばいつでもきれいにできると聞いたので、とりあえずは気にしないことにしたようだ。
ふたりは同じく陽一が取り出したテーブルを挟んで向かい合って座り、目の前にはコーヒーが用意されていた。
「まず第一に、時間がないってのが大きいかな。第二に利害の一致。それ、便利だろ?」
そう言って陽一は、シャーロットの首にかかったネックレス――意思疎通の魔道具――を指差した。
物を自由に出し入れできる、制限はあるものの瞬間移動ができる、現代科学で再現できない道具を手に入れられる、なにより、未知の資源と文明にあふれた世界と行き来できる陽一の利用価値は計り知れないものがある。
それを大国の中枢とつながりのあるエドが知れば、いったいどんな目に遭うか、あまり想像したくないところではあった。
「でもさ、俺はどんな状態からでもここに来れるし、最悪こっちの世界に引きこもれるんだぜ? そしたら誰も俺にたどり着けない。で、時間がたてばそいつはバッテリー切れで使えなくなる、と」
魔道具には現在動力源として魔力が貯蔵されているが、魔力が存在しない元の世界で使い続けると、およそ半年で動作は停止する。
「つまり、この道具をこれからも使いたければ、協力しろというわけですわね?」
「そゆこと。まぁでも、シャーロットは信頼できそうってのがいちばん大きいかな」
「な……?」
陽一の言葉に、シャーロットの白い顔がほんのり赤くなる。
「バカですの? わたくしがアナタになにをしたのかお忘れになって!?」
「俺にナニを……? あー、その節はどうも……」
「その節…………? ばっ……!?」
シャーロットとしては、最初エドに頼まれてトランクを漁るなどして陽一を調べたことを言いたかったのだが、目の前の馬鹿な男はその後の行為のことを思い浮かべているらしい。
「ばかぁっ……! この、ヘンタイ!!」
そしてそのことに思い至ったシャーロットは、さらに顔を赤くしてそう吐き捨てた。
「まぁでも、さっきも……ねぇ?」
「さっきのはただの治療行為ですわ!!」
先日カジノホテルで行われたのは、正体不明の媚薬で平常心を奪われたうえ、陽一に花梨、実里、アラーナの4人と行なわれた5Pという少々異常なプレイである。
治療という名目で行なわれた1対1のセックスとは羞恥の度合いが違ってくるのだろう。
「……のわりには楽しんでなかった?」
「う、うるさいですわね!!」
そう言ってしばらく赤い顔で息を荒らげていたシャーロットだったが、ほどなく呼吸を整え、コホンと咳払いして表情をあらためた。
「……では、もう少し詳しく事情をおきかせくださいませ」
調子を取り戻したシャーロットに対して、陽一は現在の状況はもちろん、過去の経緯やスキルなどについても詳しく説明した。
正確には、うまく誘導されて気がつけば洗いざらい話していた、という具合ではあるが。
(さすが女スパイ、話術ハンパねぇな。ま、べつにいいけど……)
「なるほど……。では【無限収納+】という能力に、重さや体積の制限はないのですね?」
「うん、ないね」
「10メートル以内なら対象が見えていなくても……例えば密室の外からでも収納ができる?」
「【鑑定+】と組み合わせれば」
「なんとまぁ……。でも、それならいろいろ調達できそうですわ」
「じゃあ手伝ってくれるってことで?」
「……そのかわり、こちらも欲しいものがあれば遠慮なく言いますわよ? 例えばこれのように」
と、シャーロットはネックレス型の魔道具をつまみ上げる。
「わかった。できる限りこっちも協力するよ」
「では、早速ですが……、なにか姿を隠すような能力をお持ちではなくて?」
「あー、俺にその能力はないけど、そういう魔道具ならあるみたいだなぁ」
陽一はアラーナが用意し、カジノの町で使っていた認識阻害の魔道具を思い浮かべた。
「すぐに用意できます?」
「たぶん」
そう返事をすると、陽一はシャーロットを連れて『辺境のふるさと』に【帰還】する。
カジノホテルスタッフふうのシャーロットの服装では悪目立ちする可能性がある。新しいものを購入して用済みになった古いコスプレ用のローブを羽織らせ、ふたりで宿を出た。
「随分と町の雰囲気が変わったな」
事情の説明に少し時間を要したせいで、先ほど冒険者ギルドを訪れて2時間以上経っていた。
おそらく
多くの住人が、荷物を抱えて上層区方面へと慌ただしく移動していた。
「いまなら……魔術士ギルドかな」
冒険者ギルドへの報告を終えたアラーナたちは、おそらく花梨と実里に魔術を習得させるために魔術士ギルドを訪れていると予想し、そしてその予想は的中した。
「む、ヨーイチ殿?」
「陽一? それに……」
「あ、シャーリィ?」
「ごきげんよう」
花梨と実里はアラーナにつき添われ、受付で魔導書への魔術登録を行なっている最中だった。
そこで陽一は、シャーロットへ協力をあおいだことを含め、ここまでの経緯を詳しく説明する。
「認識阻害の魔道具? であれば前に用意したものがあるぞ」
「それっていちばん効果が高いやつ?」
「まぁ中の上といったところか」
「いちばんいいのを用意してくれ」
「であれば」
と、アラーナの視線が受付嬢のクララのほうへ向く。
どうやら魔術士ギルドでは魔道具も扱っているようだ。
「いくつ欲しいんだい?」
「ふたつ」
問いかけに陽一が返事をすると、クララはカウンターの奥へ引っ込み、数分後に腕輪をふたつ手に持って戻ってきた。
「ちとかさばるが、こいつがいちばんいいやつだよ」
「ありがとうございます! 代金なんですけど……」
「貸しにしとくよ色男。今度の報酬で返しておくれ」
「ありがとうございます!!」
魔道具にはサイズ調整機能がついており、装備すればそれぞれの手首にぴったりとはまった。
「なんとも便利な……」
と感心するシャーロットを連れて、陽一は例のコンテナのところへ【帰還】する。
以降、シャーロットに連れ回されいろいろな施設を巡り、多くの武器弾薬を調達した。
今回の件で、いくつかの反社会組織およびその予備軍は、武器類を根こそぎ失うこととなり、一時的かつ限定的な地域でのことではあるが、米国の治安は少しだけよくなった。
また、軍施設からも一部物資を
「あと2~3日あれば戦車のひとつも用意できたのですけれど……」
「いやいや、これで充分だよ。俺ひとりで全滅させる必要はないからな。まぁ2~3割も削れたら大戦果だろう」
町には1000人近い冒険者と、100名ほどの騎士がいるという。
数だけでいえば100倍近い差はあるものの、魔術やスキルがある世界では必ずしも
ならば、自分はできる範囲でお手伝いができればそれでいい、くらいの心持ちでことに臨むのがちょうどいいだろうと、陽一は考えていた。
「自分たちの住む町なんだから、最後は自分たちで守ってもらわないとな」
「それもそうですわね。だとしても、まだ少し時間はありますし、できることはやっておきましょうか」
魔物の集団が森を抜けるまでおよそ10時間というところで、ふたりは物資の調達を切り上げ、森と荒野の境界線に戻った。
そして、手に入れた物資と陽一の能力を考慮しながら、シャーロットの指示で数時間かけて迎撃の準備を整えた。
どうやら彼女は戦術にも少々明るいようで、平和な日本で過ごしてきた陽一では思いつかないような策をいくつも提案したのだった。
「名残惜しいところですが、そろそろお
現代兵器を扱える者があとひとりいるといないとでは大きな差があるだろうが、彼女には彼女の事情がある。
「いや、ここまでつき合ってくれてありがとう。助かったよ」
「ふふ、どういたしまして。しかし、まだ随分距離はあるでしょうにもう地響きが伝わってきますのね」
集団の先頭が森を抜けるまで1時間を切っている。
数時間前からわずかずつだが地鳴りのような低い音が聞こえ始めており、いまは小さな地震並みの揺れと、低い轟音とがはっきりと感じ取れるまでになっていた。
「はは、いざ近づいてくると、やっぱり怖いもんだな」
「危なくなったら無理せずお逃げなさいな」
「そうさせてもらうよ」
陽一は一旦シャーロットを連れて例のコンテナへと戻る。
「ではお気をつけて。健闘を祈っておりますわ」
「おう。ありがとな」
「あと、これはしばらくお借りしますわね?」
そういって、認識阻害効果のある腕輪を陽一に見せる。
「もちろん。じゃ、いってくるわ」
「いってらっしゃいませ。またお会いできる日を心よりお待ち申し上げております」
ホテルスタッフらしい丁寧な見送りを受けた陽一は、異世界へと【帰還】した。
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