第3話 お花摘み……?

「あの、あたし……ちょっとお花摘みに……」

「あ、うん。この辺に魔物がいないのは【鑑定】済みだから、大丈夫だよ」

「ありがと……」


 顔を赤らめ少し目を潤ませた花梨が木陰に消えていく。

 同じように頬を紅潮させ、呼吸の荒くなっている実里が花梨を見送る。


(わたし、興奮してるの……?)


 ふと陽一を見ると、目が合ってしまった。


「あ……」


 その瞬間、下腹部に小さなうずきを覚えた実里は、思わず目を逸らしてしまう。


(生き物を殺して興奮するなんて……、私、おかしいのかな……?)


「興奮しているのだろう?」

「ひゃっ……!?」


 突然耳元で囁かれた実里は、驚いてその場から飛びのこうとしたが、囁いた当の本人であるアラーナにうしろから抱きとめられた。


「ちょ、アラーナ……なにを……?」

「ふふ……。ここが疼くのだろう?」


 左腕を実里の身体に回したアラーナは、いつのまにかグローブを脱いだ右手でスカートをたくし上げた。


「アラーナ、なにやってんの?」


 陽一の問いかけに蠱惑的な笑みを向けたアラーナだったが、すぐに実里へと視線を戻し、彼女の耳元に囁きかける。


「魔物と戦っているとな、不思議と気分が高揚してくるのだよ。でも、それは決しておかしなことじゃない」

「はぅん……んぅ……」

「私とて、その興奮を抑えきれずに自分で慰めたことは何度もある。だから、そう恥ずかしがる必要はないのだぞ?」

「そう……なの……?」

「そうだとも。でも、いまは自分で慰める必要はない。わかるだろう?」

「ん……んぅ……」


 実里のとろけるような視線が陽一をとらえた。


「う……えっと……」


 ふたりの様子を見ていた陽一もすでに大変なことになっているが、さりとてこの場はどうすべきかと戸惑うばかりである。

 周りに人や魔物がいればとがめようもあるのだが、幸か不幸か【鑑定+】で調べた限り、近くにはなにもいなかった。


「陽一さん……おねがいします……」

「あ……う、うん……」


 こうも直接的にお願いされれば、どういう状況であれ引き受けざるをえないだろう。


 陽一が近づくと、アラーナはすっと身を引いて離れ、実里は尻を突き出した状態で近くの木に手をついた。

 実里の背後に立った陽一は、まず尻が隠れないようにローブの位置を横にずらし、スカートをたくし上げた。


 陽一はそのまま実里を抱き、さらにアラーナとも楽しんだ。


 ふたりとの行為が終わったというのに、花梨はまだ戻っていない。

 花梨が姿を消したあたりの木陰から、くぐもった声や水音が聞こえてくる。


「ふふ……。花梨はお花摘みとやらに手こずっているようだな……」


 いたずらっぽい笑みを浮かべてそんなことを言う姫騎士を尻目に、陽一は音のするほうへと歩いていった。


「よっ、手伝おうか? お花摘み……」

「え? きゃっ! やだ、陽一!?」


 突然木陰から顔を出した陽一に驚き、花梨は咄嗟とっさにスカートの裾をおろして股間を隠した。


「や、これは、その……違うの……! あたし、お外で、その、するような……変態じゃ、ない……からぁ……」


 顔を真赤にしてうつむく花梨に、陽一は呆れたような笑みを向ける。


「んー、結構大きな声、出してたと思うけどなぁ……」

「え……?」


 その言葉に花梨が顔を上げた。

 陽一は花梨の視線を受け止めると、わざとらしく視線を動かす。

 その先には、ことを終えてぐったりとしつつも満足げな様子のアラーナと実里がおり、ふたりとも服は乱れたままだった。


「へ? な、なんで……?」

「普通のことらしいよ?」

「え?」

「魔物と戦ったあとは、性的に興奮することが結構あるんだと」

「へ? あ、そ……そーなんだぁ」


 そう言って安心したように息を吐いた花梨だったが、相変わらず頬を紅潮させたまま、視線を上げて陽一の目を見た。


「あの、じゃあ……あたしも、いいかな……?」

「もちろん」


 そして陽一は、花梨とも野外行為を楽しむのだった。

 

○●○●


(やっぱり、視線が痛い……)


 帰りの馬車でも陽一は同乗者からの視線を受けることになった。


 行為のときは周りに誰もいなかったはずだし、しっかりと〈浄化〉をかけているので匂いなどは消えているのだが、なぜか往きよりも視線を痛く感じるのは気のせいだろうか……。

 メイルグラードに帰り着くまで、冒険者たちの視線にさらされることになった陽一は、あらためて自動車を買おうと決意するのだった。


「アラーナさん、領主さまから呼び出しがかかっております」


 門の前で乗り合いの馬車を降り、町に入ろうとしたところで警備兵に呼び止められた。


「私ひとりに?」

「いえ、トコロテンの皆さん全員ですね。できれば一両日中に」


 狩りは順調に進んだため少し早めに切り上げており、運よく帰りの馬車をすぐに捕まえることができたので、まだ日没までには時間があった。


「ふむ。なんなのだろうな……」


 いぶかしむように呟きながら、アラーナはうしろに控えていた陽一ら3人へと向き直った。


「というわけなのだが、いまから領主の館に行ってもいいだろうか?」

「あたしはいいよ。アラーナのお父さんだよね?」

「うむ」

「だったらご挨拶しておきたいな」

「あの、私もちゃんとご挨拶したいかな」

「そうか、すまんな。ヨーイチ殿は……どうした? 少し顔色が優れぬようだが?」

「ん? あ、いや、大丈夫だよ? い、行こうか」

「そうか。体調が悪いなら日をあらためてもいいと思うが……」

「いや、いい! ほんと、大丈夫だから……」

「ふむ。ではこれから向かうか」


 そのことを警備兵に告げると、領主が手配した馬車があるとのことなので、4人はそれに乗り込んだ。


「わぁ、町中を馬車が走るんだね?」

「ほんと、異世界に来たって感じよねー」

「はは。ニホンでも町中を自動車で走っていたではないか」

「あはは、そういえばそっか」

「それにしても、この馬車全然揺れないね」

「うむ。一応最高級の部類に入るものだからな」


 楽しげに会話をはずませる女性陣と少し離れた席に座った陽一は、【健康体α】の効果で痛くなるはずのない胃のあたりを軽く押さえながら、終始無言だった。

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