第19話 ドレスを乱して…… 実里編

 目が覚めると、ドナの姿はなかった。


 実際には彼女が目覚めたとき、陽一は気がついていたのだが、ドナが黙って出ていこうとしたので気づかないふりをしていたのだ。


「さよなら、ねぼすけさん……ちゅっ」


 軽くシャワーを浴び、身なりを整えたドナは最後にそう言いうと、陽一の唇に軽くキスをして部屋から出ていった。


「ふぅ……。俺もシャワー浴びるか」


 ドナが出ていったのを確認したあと、中途半端に脱げて乱れていた衣服はすべて【無限収納+】に収めて全裸になった。


「あ、このソファ……」


 ふとドナとの行為にふけった場所を見ると、いかにも高そうな革張りのソファが汚れていた。


「はは、このままじゃマズいよな……」


 陽一は汚れたソファもついでに【無限収納+】に収め、メンテナンス機能で汚れを分離して元の場所にもどした。


 シャワールームに入り、しっかりと身体を洗って部屋に戻ると、花梨たちがリビングに座っていた。


「ゆうべはおたのしみでしたね……ぐふふ……」


 口元を押さえてからかうような笑みを浮かべながら、花梨はどこかで聞いたことのあるようなセリフを陽一に告げる。


「ドナは花梨に言われてきたって言ってたぞ」

「あらら、バレてたか。あはは……」


 花梨がどういう意図でドナを自分のもとによこしたのか、いまいちよくわからないままではあるが、あまりそこを掘り下げても意味はあるまいと思った陽一は、これ以上このことには触れないようにした。

 どうやらアラーナと実里も昨夜のドナとの情事については把握しているようだが、それについてとくに思うところはなさそうである。


(なんか随分甘やかされてるような気もするけどな……)


 そんなことを思いながらも、陽一は話題を少しだけ変えることにした。


「みんなはゆうべどこに泊まったの?」

「シャーリィの好意で、このホテルの別の部屋に泊まってたんです」


 陽一の質問に答えたのは実里だった。


「んふふ。シャーリィをまじえて遅くまでガールズトークしてたのよ」

「うむ。彼女はなかなかに聞き上手でな。女だけでああも楽しい夜を過ごせるとは思っても見なかったぞ」


 どうやら昨夜は女性だけでワイワイと楽しんだようである。


(いろんなこと……喋ったんだろうなぁ……)


 おそらくシャーロットが花梨たちに部屋を用意し、なおかつ話し相手となったのには、なにかしらの意図があったのだろう。

 とはいえ余計な情報を変に漏らせば魔道具を使えなくなる可能性もあるので、すくなくとシャーロットになにかを知られることに関して、陽一はあまり気にかけないことにはしているのだった。


「あのさ、陽一……。これってきれいにできるかな?」


 花梨たちはそれぞれ昨日着ていたドレスを手に持っていた。

 アジトで暴れたせいで汚れたりほつれたりしている。


「もちろんできるけど、なんで?」

「えっと、明日には帰るじゃない? だから、今日一日はきれいな格好で思いっきりカジノを楽しみたいの」


 どうやら実里とアラーナも同じ考えのようなので、陽一は彼女たちのドレスをスキルの力で新品同様にしてやった。


○●○●


 カジノに行くと、エドがにこやかに出迎えてくれた。


「みなさま、存分にお楽しみくださいませ。ただし、手心は加えませんので、その点はお覚悟を」


 おそらく昨夜のことや人身売買組織の情報に関して、エドはある程度把握しているのだろう。

 しかしそれはそれ、これはこれ、というやつだ。


 カジノホテルの支配人としては、常にフェアであろうというのがエドの信条らしい。


「ええ、存分に楽しませてもらいますよ」


 そう言って陽一らは、各々お気に入りのゲームに散っていった。


「さて、今日は普通に遊んでみるかな」


 もうカジノで稼ぐ必要のなくなった陽一は、【鑑定+】を使わずにプレイすることにした。


 資金にも余裕はあるので、あまり勝ち負けにこだわらず、純粋にゲームを楽しむ。

 しかし勝ちに対する気負いがなくなると、不思議と勝てるものである。

 平常心に近い状態でただ楽しむためにプレイしたテキサスホールデムやクラップスで、陽一は結構な勝ちを得てしまった。


「くぁ……」


 感情とは関係なくシステムの都合で勝ち負けの決まるスロットでもやろうかと思い、スロットエリアに行ってみると、単調にレバーを弾きながらあくびをする実里の姿があった。


 淡々と打ち続ける彼女は相変わらずそれなりに勝っているらしく、もしかするとスロットも感情に左右されるのかもしれないと思いつつ、陽一は実里の隣に座った。


「もう飽きちゃった?」

「へ? あ、陽一さん!?」


 単調にスロットを打ち続けてぼーっとしていたのか、横に陽一が座ったことに気づかなかった実里は、声をかけられてようやく彼の存在に気づいたようだ。


「えっと、いえ……、楽しい、ですよ?」


 陽一の問いかけに、実里は少しうろたえながらそう答えた。


「ほんとに?」

「はい、ほんとに……」

「そっかぁ……。んー……! 俺はちょっと疲れたから部屋で休もうと思うんだけど、楽しいんなら邪魔しちゃ悪いかなぁ……」


 わざとらしく身体を伸ばしながら、陽一がちらりと実里を見ると、彼女は軽く目を見開いたあと、気まずそうに顔をそらした。


「えっと、私も、ちょっとだけ、疲れたかも……です」

「じゃ、1回部屋で休む?」

「……はい」


 実里は軽く頬を染め、少しうつむきながら小さな声でそう答えた。


○●○●


「きゃっ? えっと、陽一さん?」


 部屋に入るなり陽一はお姫様抱っこの要領で実里を抱え上げた。


「休むんなら、ベッドにいかないとね」


 陽一はそう言うと、実里を抱えたまま寝室に入り、彼女をベッドに横たえた。


「せっかくきれいなドレス着てるからさ、このままで、いいかな?」

「え? あ、はい……。ご自由に、どうぞ……」


 部屋に戻ったところで最初から休むつもりがないのはお互いわかりきっていたので、ここまでくればストレートに始めるべきだろう。

 陽一は膝上までかかっているひらひらとしたドレスをまくり上げた。


「へぇ……、ガーターベルトだったんだ」


 スカートの下から現われたレースのガーターベルトを目の当たりにし、陽一は思わず呟いた。


「へ、変ですか……?」


 陽一の反応に、実里は不安げに答える。


「いや、すごくいいと思う」


 そしてふたりは、お互いに服を着たまました。


「あの……これ、お願いしていいですか?」


 ツーピースになっているドレスのスカートを汚してしまった実里は、その汚れを【無限収納+】で落としてもらうべく、スカートを脱いだ。


「実里……それはそれでソソるな」

「え……?」


 上はドレスに身を包みながらも、下はガーターベルトのみという実里の姿に、陽一は先ほど解消したばかりのが、ふたたびと溜まっていくのを感じた。


「もう1回、いいよね?」

「でも、そろそろ戻らないと」

「お願い……」

「……もう、しょうがないですね」


 そんなわけで陽一と実里はふたたびしたのだった。

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