第11話 金髪美女におしおき
「あなた、何者ですの?」
「善良な日本人観光客ですよ」
「嘘おっしゃい。ただの観光客がなんでわたくしのことを……。それに、そっちの女性たちをどうやってここに連れてきたの?」
「ま、いろいろありまして」
「なにが目的?」
「俺たちはただこの町を楽しみたいだけですよ。そもそも変に勘ぐってきたのはそっちでしょう?」
「勘ぐられることをするのが悪いのじゃないかしら?」
「この国ではそうなんですかねぇ……。でも、なにもなかったでしょう?」
シャーロットはすでに陽一の衣服を調べ終えており、その結果あやしいものはなにも出てこなかった。
スーツケースはエドが徹底的に調べているはずなので、陽一の言うとおり彼を疑う必要はない。
――ただし、こんなことさえしなければ。
「うしろ暗いところがないのなら、あのままわたくしと寝ていればお互い幸せだったのじゃないかしら?」
シャーロットの言うとおりではあるが、陽一としては女性陣を安モーテルに押し込んで自分だけ豪華な部屋で金髪美女としっぽりやるというのが、なんとなく嫌だったのだ。
3人に対する申し訳なさはもちろんあるが、なんでも自分の思いどおりになると信じて疑っていなさそうな相手の鼻っ柱を折ってやるのもまた一興ではないか、という思いもある。
「人の荷物を漁るような悪い子には、お仕置きが必要でしょう?」
動機をいちいち説明するのも面倒なので、陽一はそうシャーロットに告げた。
「うふふ。もともとわたくしはあたなと寝るつもりだったのだから、いまさら犯されたところで痛くも痒くもありませんわよ? むしろご褒美すわぁ」
自身の格好と陽一の言葉から、性的ななにかをされることを確信したシャーロットは、再び妖艶な笑みを浮かべて腰をくねらせた。
「ねぇ、ズボンの下でおっきくなってるソレ、早く突っ込んでくださらない? 日本人の硬いアレを想像しただけでわたくし果てそうなんですの」
「むむ……」
シャーロットの姿と言葉にドキリとした陽一は、思わず唸ってしまう。
その動きもセリフも陳腐なものだったが、陽一は抗いがたい淫猥さを感じてしまっていた。
もしひとりでこの場にいれば、シャーロットのペースでいいようにもてあそばれていただろう。
「貸したまえ」
「あ……」
陽一の不甲斐ない様子に少し呆れ気味な口調で言いながら、アラーナが陽一の手から媚薬の入った小瓶を奪い取った。
「なかなか手強そうな女なので、まずは私がお相手しようか」
アラーナの言葉にシャーロットが眉をひそめる。
「あの、後学のために聞いておきたいのですが、そちらの方はどこのご出身かしら?」
シャーロットの表情や口ぶりから、それは純粋な興味からの質問らしく、先ほどまで漂っていた
「英語圏はもちろん、ヨーロッパやロシア、北欧にもそのような言語は存在しないと思うのですが……」
元CIAというのが関係しているかどうかは不明だが、シャーロットは多くの言語に馴染みがあるらしい。
意味はわからずとも、聞いたことがあるかどうかくらいは判断できるようだ。
「あー、じゃあ、あれ使おうか」
シャーロットから淫靡さが薄れたおかげで正気を取り戻した陽一は、【無限収納+】から銀色のネックレスを取り出した
。
「あ、じゃあそれはあたしが」
無言で一部始終を見守っていた花梨が、ふと声を上げたかと思うと、陽一の手からネックレスをひったくった。
ベッドに乗ってシャーロットの傍らに座り、その白くて細い首にネックレスを着けてやる。
「ちょと、なんですの、これ?」
全裸に銀色のネックレスが追加されたことで、少しばかり卑猥さが増したように感じられた。
「さて、それで私の言っていることがわかるようになったかな?」
「……あなた、英語も喋れるの?」
「いいや。私の口元をよく見てみろ」
「口元……?」
「そうだ。よく見ればわかると思うが、君の耳に聞こえている言葉と私の口の動きとにズレがあるはずだが?」
「そんな……」
「あの、いいですか?」
驚き、目を見開くシャーロットに、実里が声をかける。
「なんですの……?」
「私はいま日本語をしゃべっていますけど、えっと、シャーロットさんには英語に聞こえてますか?」
「……嘘よ」
「ちなみにあたしはいま英語喋ってるわよ」
そこへ花梨が割って入る。
「口の動き方と声の聞こえ方だと、あたしがいちばん自然じゃないかしら?」
「え? え?」
事態が理解の
「ちなみに私にはシャーロットさんの言葉が日本語に聞こえてますよ」
その実里の言葉も、彼女の耳に届いたのかどうか……。
「なによ……、これ。どうなってるの……?」
「そのネックレス、翻訳機みたいなもんなんですよ」
戸惑うシャーロットに陽一が告げる。
「そんな……、ありえないわ……」
元CIAのシャーロットは、最先端技術に対してそれなりの知識を持っているが、こうも完璧に言語を翻訳できる装置など聞いたことがなかった。
リアルタイムで翻訳処理されることも驚きだが、イヤホンもなしに翻訳後の言葉が耳に届いていることが理解できない。
しかし、そこはさすが元CIA特別調査員である。
理解が及ばないものに対して思考を停止する術に長けているシャーロットは、とりあえず事実だけを受け入れ、自身の混乱を治めることにした。
相手の言葉がわからないよりは、わかるほうがいいのだから、そこは受け入れてしまったほうがいいだろう。
そうなると気になるのが相手の意図である。
「なにを考えてらっしゃるの? なんの意図があってこのようなものを私に?」
元CIAで、現在もエドのもとで情報戦を繰り広げることの多いシャーロットに、このようなエドの古巣が全力で動き出しそうな装置を身に着けさせる意図がわからない。
「なんの意図って……。言葉が通じたほうが楽しいでしょう?」
「そんな……ことで……?」
なにか深い意味があっての行為と勘ぐっていたシャーロットだが、陽一の態度を見る限りそれは本心のようであり、彼女は大いに呆れ返ってしまった。
「さて、御託はこの辺にして、そろそろ本番といこうではないか」
意地の悪い笑みを浮かべながら、アラーナは小瓶のふたに手をかける。
その様子が、どうも陽一の知るアラーナのキャラクターにそぐわないように思えた。
「なぁ、アラーナ。なんでそんなにノリノリなの?」
「ふん。私の……いや、私たちのヨーイチ殿を誘惑するような女にはお仕置きが必要だろう?」
「そりゃそーだ! じゃああたしも手伝おう!!」
「わ、私も……」
「うむ。ではみんなでこらしめてやろうではないか」
女性陣の様子に、陽一は嬉しいような恥ずかしいような、そして微妙に情けないような複雑な心情を抱いた。
おそらく先ほどシャーロットの誘惑に負けそうになった自分を見て、アラーナは嫉妬したのだろう。
そうであれば誘惑に負けた陽一にも責任の一端はあるような気がしないでもないが、女の人というのは仮に男が浮気した場合、浮気相手の女性を恨むことが多いらしいので、そういう複雑な心情と
(ここは、下手に口を出さないほうがよさそうだな)
長々と理屈っぽく考えあぐねた陽一だったが、みんなが楽しそうなので静観することに決めた。
「ちょっと、わたくし女には興味なくてよ? そっちの男に代わりなさいよ」
翻訳機――意思疎通の魔道具――に関して一旦考えないことにしたシャーロットは、あらためて自分の状況を確認し、どうやら連れの女性たちが自分の相手をすることは理解したようだが、それに関して大いに不満があるようだった。
「まぁ、女になにをされたところでどうということもありませんし、飽きたら代わってくださいませ」
「ほほう。その態度がいつまで持つか、楽しみだなぁ」
アラーナはベッドに乗ってシャーロットの傍らに膝を着き、小瓶の中身を手のひらに垂らした。
シャーロットを挟んで向かいに膝をついた花梨と実里にもそれを分けてやる。
(ってか、あれって触っても大丈夫…………みたいだな、一応)
【鑑定】したところ、どうやらインキュバスの媚薬は粘膜からのみ吸収されるらしい。
注意点があるとすれば、一度女性に吸収されたあと、汗などで体外に排出された際、気化した成分を吸い込むことで多少の催淫効果があるということだろうか。
「な、なによ、それ? ドラッグ?」
「まぁ、クスリの一種ではあるな」
「中毒性はありませんから心配しなくていいですよー」
麻薬の一種ではないかと不安げな表情を浮かべるシャーロットが少しかわいそうに見えたので、陽一はそう補足しておいた。
「ではそろそろいくぞ」
アラーナたちの手でいろいろなところに媚薬を塗りたくられたシャーロットは、あっさりと陥落した。
「ふふ。女に触られて果てたようだな。ほら、ここはまだ欲しがっているぞ?」
「あはぁ……そんなぁ……」
勝ち気だったシャーロットの泣きそうな表情になにかのスイッチが入ったのか、アラーナは粘液まみれの手をぺろりと舐めてしまった。
「アラーナっ!!」
その様子を見た陽一から、叱責するような声が飛ぶ。
「どうした? ヨーイチど……の……」
見る間にアラーナの目が虚ろになり、腰のあたりがガクガクと震えだした。
「あっ……あっ……」
立っていられなくなったのか、アラーナはその場にペタンと座り込んでしまった。
「あちゃー……」
舌もまた粘膜なのだ。
媚薬の混じった愛液を舐めればどうなるかは、説明するまでもないことだろう。
「ヨ、ヨーイチどのぉ……」
頬を紅潮させ、わずかによだれを垂らしながら、アラーナはすがるように陽一を見た。
眉根は下がり、目はどこか虚ろで、目尻には涙が溜まっている。
(なんかここ最近アラーナのがっかり感ハンパないよなぁ……。まぁその残念っぷりに惚れ直してる俺もどうかと思うけど)
アラーナの残念な姿を見て、わずかに笑みをたたえつつ、陽一は軽くため息をついた。
「まったく、アラーナったらドジなんだから……」
そう呟いた花梨と、実里の目が合った。
そしてどちらともなく呆れたように微笑み、肩をすくめる。
「しょーがない、あたしたちもつき合いますか」
「……だね」
そしてふたりは同時に、媚薬のついた自身の指をぱくりと咥えた。
――――――――――
本日オシリス文庫版12巻が発売となります!!
よろしくお願いします!!
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