第14話 姫騎士とお外で

 森をしばらく歩くと、ワンアイドベアーに遭遇した。


「ほう、このような森の浅いところにワンアイドベアーが現われるとは……。ヨーイチ殿、大丈夫か?」

「ああ。あれなら何回か倒したから大丈夫」


 ワンアイドベアーは初めて陽一が敗北した魔物だが、いまとなっては何度か倒したことのある相手でもある。

 陽一は【無限収納+】から突撃銃を取り出し、構えた。

 大抵の魔物は普通の拳銃で倒せるようになっていたが、ワンアイドベアーを始めとするCランク級の魔物となると、大口径の拳銃か突撃銃が必要になる。

 いまのところ弾丸の補充のアテがない突撃銃はあまり使いたくないが、ここはアラーナにある程度実力を見せ、少なくとも心配させないくらいのことはしておきたい。


 【鑑定+】で相手の思考をまず読む。

 魔物が理性ではなく本能で動くとしても、考えなしに動くわけではないので、ある程度行動を読むことはできるのである。

 さらに【鑑定+】を使い、今度は狙いを定める。

 サイトを使って狙うよりも、【鑑定+】を使ったほうがより正確に当てることができるからだ。


 弾薬がもったいないので、最初から致命傷を狙う。

 まずは眉間に狙いを定めた。

 風向きや銃のクセ、次に発射される弾丸の状態までもを考慮し、どの角度で引き金を引けばいいかは【鑑定+】が教えてくれる。

 なので、陽一は腰だめに突撃銃を構えたままだ。

 ワンアイドベアーがまだこちらを警戒して動く気配を見せないのは、アラーナの存在を警戒してのことらしい。 


(舐めやがって……)


 引き金を引く。

 轟音とともに突撃銃から放たれた弾丸は、眉間に命中した。

 しかし、その一撃は鋼鉄の板金鎧よりも硬いワンアイドベアーの頭蓋骨を貫通するまでには至らず、弾丸は頭蓋骨を砕きはしたものの、弾き飛ばされてしまった。

 その衝撃で脳を損傷したワンアイドベアーはいずれ死に至るだろうが、即死でないのならしばらくのあいだ戦える。

 だが、それも想定内であり、すでに2発目の弾丸は放たれていた。

 眉間に銃弾を受けて仰け反っていたワンアイドベアーは、無防備に晒された顎の裏に2発目の銃弾を受けた。

 絶妙な角度で進入した弾丸は、顎の裏の皮膚と筋肉を食い破り、そのまま脳幹を破壊した。

 ワンアイドベアーは糸が切れた人形のように動きを止め、その場に倒れた。


「とまぁ、こんなもん」

「うーむ、すごいものを見せてもらった……。その武器は、魔装かなにかなのか?」


 アラーナが興味深げに陽一の持つ銃を見る。


「いや、ただの武器。銃っていうんだけど?」

「ジュウか……見たことも聞いたこともないな」

「火薬を使って金属の玉を飛ばすだけだから、誰でも使えるんだけどね」

「火薬、というのは、たしか燃えやすい粉だったか?」

「あら、そっちじゃ火薬ってないの?」

「古い文献で見たことはあるが、燃やすにしろ爆発させるにしろ魔術を使ったほうが効率がいいからな」

「へええ」

「それも仕組みがわかれば再現できなくはなさそうだが、私としてはできれば……」

「ああ、ご心配なく。これは俺専用の、あれだ、【心装】ってことにしといて、人の手には渡らないよう気をつけるよ」

「うむ、助かる」


 素人がちょっとした訓練でワンアイドベアークラスの魔物を倒せるとなると、いろいろ不都合もあるのだろう。

 陽一はあくまで自分が楽しむために異世界を冒険するのであって、英雄や偉人になりたいわけではない。


 その後もふたりで適当に魔物を狩りつつ、森を進む。


「ヨーイチ殿、かなりのペースで進んでいるが、疲れはないか?」

「あー、全然大丈夫。アラーナこそ大丈夫?」

「うむ……。自分でも不思議なほど疲労がないな。このペースだと明日には町に到着できそうだ」


 陽一は自身の【健康体+】の効果を自覚しているので、むしろ彼女のほうを心配したのだが、さすが冒険者というべき健脚ぶりを見せるアラーナだった。

 無論、そこには新たに付与された【健康体+】の効果も働いているのだが、アラーナはもともとかなりの体力を誇っており、感覚としては“今日は随分と体調がいいな”という程度のものだった。


 昼食は弁当で済ませた。

 陽一としては狩った魔物の肉をメインにバーベキューにしたかったが、できれば先を急ぎたいというアラーナの要望から、手早く用意できる弁当にしたのだった。


「むむ!? このチキン南蛮なんばんというのもなかなかイケるな!!」


 アラーナのほうに、陽一が出す弁当を味わいたいという欲求がなかったわけではないが。

 その日は日没まで歩き、少し開けたスペースにテントを張った。


「ほほう、テントを宙に浮かせるとは考えたものだな」


 陽一が用意したのは、先日も利用したツリーテントだった。

 木に設置し、宙に浮かせることで、デコボコとした地面の形状に悩まされる心配がないすぐれものだ。

 夕食も弁当で済ませ、その夜はおとなしく寝た。


○●○●


「あと少しで森を出られるな」


 翌朝、わずかに明るくなり始めた早朝に出発したふたりは、昼前に森の出口付近まで到達していた。


「森を出たあと、町までかなり距離があるよね? 途中でもう1泊くらい必要かな」


 【鑑定+】には地図検索はもちろん、ナビのような機能もあるため、おおよその時間も算出できる。

 いまのペースで歩けば森を出るまでに30分程度、そこからメイルグラードの町までは徒歩で10~12時間はかかるようだった。


「いや、森を出たところに馬車を待たせてある。それを使えば3時間ほどで町へ帰れるぞ」


 今回アラーナが率いた調査団は、馬車を使ってこの森を訪れており、調査団が戻ってくるまでは馭者ぎょしゃが野営しながら待機する手筈となっているらしい。


「なるほど。でも、先に逃げた例の3人が馬車を使ってたらどうする?」

「あ……」


 どうやらアラーナは、自分を襲った例の3人組のことはすっかり忘れてしまっていたようだった。


 通常であればあの出来事は羞恥の極みであろうが、彼女にしてみればその後陽一と睦み合ったことのほうがより重大であり、それに比べればあのような出来事は些事に過ぎず、例の3人組も彼女にとっては路傍ろぼうの石ほどの存在でしかなくなっていた。


「そうだな……、もし私が手配した馬車がいなくても、森を出て少し南へ下ればほかの調査団や冒険者もいるだろうから、合流させてもらえるだろう」


 ここで陽一が【鑑定+】を使って3人の動向を確認したところ、どうやら連中は別の馬車を用意し、すでに辺境を離れてコルボーン伯爵領へ向かっていることがわかった。

 最初から姫騎士をかどわかすつもりだったのだから、もとよりメイルグラードへ戻るつもりはなかったのだろう。


「ま、問題なさそうだから、とりあえず森を出ようか」


 アラーナが先導するかたちでふたりは再び歩き始めた。


(しかし……あらためて見るとすごいな、やっぱ)


 白銀の胸甲に包まれたアラーナの上半身だが、鎧の胸元が大きく開いているため斜めうしろからでも豊満な双丘が作り出す魅惑の谷間がはっきりと見て取れた。

 そのふたつのふさは、胸甲に覆われながらも締めつけられるようなことはないらしく、姫騎士の歩みに合わせてゆさゆさと揺れていた。

 しかしふと疑問に思うことがあった。


「なぁ、その鎧って、露出多すぎない?」


 そう、彼女の装備はあまりにも守られている部分が少ないのだ。


 首周りと肩はしっかりと装甲に覆われているが、篭手こてなど腕を覆う装甲はなく、上半身を守る胸甲は前述したとおり胸元が大きく開いている。

 腰周りを守るタセットも、腰の両側面からうしろは覆っているが前面は開いており、脛当てを兼ねた金属ブーツは膝下までしかないので、股間から太もものあたりは無防備だ。


「いや、デザインとしてはすごくいいと思うんだよ? でも鎧としての機能を考えるとどうなのかなって」

「ふふ、これは魔装だからな」


 陽一の言葉を受けてアラーナは立ち止まると、少し得意げにほほ笑みながら振り返り、広く開いた胸元を指差した。


「軽く叩いてみるといい」

「お、おう」


 アラーナの提案に少し戸惑いながら、陽一は何物にも覆われていない胸元を軽く叩いてみた。


「おぉ?」


 手に帰ってきた感触は、昨夜さんざんもてあそんだ柔らかなものではなく、硬い板や壁を叩いたようなものだった。

 何度かペシペシと叩いてみたが、どうやら肌に触れる少し手前に見えない壁のようなものがあるようだった。


「すごいだろう? これはフルプレートメイルに身を包んでいるのと同じ効果があるからな」

「へええ。じゃあその鎧を着ているアラーナには触れないってことか」

「いや、そういうわけではないぞ。では今度はゆっくりと手を触れてみてくれるか」

「わかった」


 彼女の指示どおりゆっくりと手を下ろしていくと、先ほど見えない装甲に阻まれたあたりを越え、陽一の手は柔らかな胸元に到達した。


「ん……」


 触れられた瞬間、アラーナがわずかに身をよじった。

 じんわりとにじんだ汗のせいか、しっとりとした肌が手に貼りつき、柔らかな感触のあとに体温が遅れて伝わってきた。


「さわれた、だろ……?」

「うん……」


 昨夜あれだけ撫で回し、揉み倒した姫騎士の乳房だったが、鎧のあいだから見える谷間に触れるというのはまた格別なおもむきがあるようで、陽一は鼓動が速まるのと股間に血が集まるのを感じていた。

 触られたアラーナのほうも、どこか切なげな表情で陽一を見上げ、頬を軽く染めていた。

 手で軽く押さえると、胸は柔らかく沈み込み、適度な弾力を返してくる。


「んっ……」


 弾力を試すように何度かぐにぐにと胸を押さえたあと、陽一は谷間に指を差し入れた。

 ピッタリと房同士が密着した谷間の内側は、胸元の表面に比べるとよりじっとりと汗に濡れており、温度も高く、熱く柔らかな肉が押し寄せて陽一の手を挟み込んだ。


「外、なのにぃ……」


 陽一の手が動くたびに柔らかな乳房を震わせながら、アラーナは一応抗議じみた声を上げているが、実際には抵抗するそぶりも見せず、されるがまま受け入れていた。

 ひとしきり谷間の感触を堪能したあと、陽一はさらに手を動かし、胸甲に覆われたインナーのさらに下へと手を滑り込ませた。


「ヨーイチどのぉ……こんな、お天道てんとうさまの下で……」


○●○●


「ごめん、服汚しちゃって」

「ふふ……。誰がくるともしれない森の浅い場所であれだけの痴態を晒させておいて、謝るのがそこなのか?」

「ああ、いや……」


 少し呆れたような姫騎士の言葉と笑みを受け、陽一は照れたように頭をかいた。


「なに、汚れなどほれ、このとおり」


 アラーナがワンピースの裾などに手をかざすと、汚れが嘘のようにきれいになった。


「便利だねぇ、魔術って」 


 その後しばらく休憩し、身だしなみを整えたふたりは、無事に森を出ることができた。

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