第11話 陽一の告白
陽一がアラーナに事情を話したのは、短い時間だったが彼女と接して信頼できると判断したからだ。
この先異世界冒険をするにあたって、信頼できる人物の手助けを得られるかどうかというのは非常に重要なことだと陽一は考えており、異世界探索を始めた矢先にアラーナと出会えたのは、なにかの縁だと思うことにした。
もし彼女が信頼に足る人物でないとしても、それは自分の判断ミスであり、彼女を恨むつもりはない。
【鑑定+】を使えば彼女がどういう人物であるか、もっと詳しくわかるだろうし、すべてを話した結果、自分をどう思うのか、この先も力になってもらえるのか、そういったことも簡単に判断できるに違いない。
しかし、陽一は【鑑定+】でアラーナの生い立ちや心情を確認するつもりはなかった。
利害関係ならともかく、信頼関係の正解を【鑑定+】で引き寄せるような真似をしていれば、いずれ自分ではなにも判断できなくなってしまいそうだからだ。
たとえ間違いを犯そうとも、自分で判断すべきところを誤るわけにはいかないのだ。
陽一の話を聞き終えたアラーナは、しばらく下を向いてうんうんとうなり続けた。
そして数分間考えあぐねた結果。
「わけがわからん」
そう言って顔を上げた。
「うん、言うと思った」
陽一もそうやすやすと理解してもらえるとは思っていない。
「むぅ……ヨーイチ殿の話を信じられないわけではないのだが……なんというか、頭がついていかんのだ」
「なにかこう、感覚的なものは? 違和感とかさ」
「言われてみれば違和感のようなものがあるような気がしないでもないが、いまはまだ体調が万全ではないからなあ」
「そっかー」
「試みに問うが、ヨーイチ殿にはあるのか?」
「なにが?」
「この部屋とあの森とでなにか差異を感じるのか?」
「あー……、ないわ」
森と屋内という環境の差は感じるが、ではこちらの世界の森とあちらの世界の森とでなにか決定的な違いがあるのかと問われれば、これといった明確な答えは出せそうになかった。
「まぁ、とりあえず遠い異国の人間とでも思ってもらっていいよ」
「うむ」
そのとき、グゥと姫騎士の腹の音が鳴った。
どうやら砂糖多めのコーヒー牛乳では腹の足しにもならなかったらしい。
「む……これは、その……」
「いや、しょうがないでしょ。あれからろくなもん食ってないしね。メシにしようか」
丸1日以上スポーツドリンクとゼリー飲料しか口にしていないので、あまり重いものは避けたいところだ。
「とりあえずこれ食っといて」
と食事ができるまでのつなぎとばかりに【無限収納+】からゼリー飲料を取り出した。
「む、そういえばヨーイチ殿は、魔力がないといいながらスキルを使っているではないか」
「だから、管理人さんから融通してもらってるんだって」
「そういえばそうだったか……。しかしその管理者とやらはもしかして神かそれに類するものではないか?」
「んー、たぶんそうだね。まあ考えるのはあとにして、まずはメシだよメシ」
陽一はキッチンへ行き、とりあえず雑炊を作ることにした。
“突然ひとり鍋がしたくなるかもしれない”と思い買っておいた小さめの土鍋と、“冷やご飯が食べたくなるかもしれない”と思い用意してあった冷たくなったご飯、あとは卵と調味料いくつかを【無限収納+】から取り出し、まずは鍋にご飯を入れた。
あとは適当に水と粉末ダシを足し、グツグツ煮込む。
ある程度煮込めたら、塩で味を整えて溶き卵を垂らし、火を止めてふたをする。
「ほい、おまたせー」
鍋敷きをテーブルに広げ、土鍋を置いた。
深めの取り皿とレンゲ、おたまを用意して土鍋のふたを開けると、いい感じに卵に予熱が通っていた。
最後に軽くポン酢を垂らして完成。
(
欲を言えば最後に海苔を散らしたいところだが、残念ながら用意してなかった。
「おお、なにやらいい匂いがするな。これはなんだ?」
「雑炊だよ」
そう言いながらおたまで雑炊をすくって取り皿によそい、レンゲとともにアラーナに渡した。
先ほどに比べてさらに麻痺は解け、レンゲぐらいは使えるようになっていた。
「熱いから気をつけて」
「うむ、いただこう……あっつ!!」
「だから言ってんじゃん」
「むぅ……しかし、熱いが美味いな!!」
「気に入ってくれたようでなによりだよ」
「ふむ、これは……、米を柔らかくなるまで煮たものか?」
「お、よくわかったね」
「うむ。食感がリゾットに似てなくもないからな」
どうやら向こうにも米はあるようだ。
無論、日本の米のように長年品種改良を重ねたものと同じかどうかというのは不明だが。
結局彼女はおよそ2合分の米で作ったお粥をぺろりとたいらげてしまった。
「しかし、これはなかなか面白い素材だな。金属を混ぜているのか……いや金属製のものを使っているのか……?」
アラーナは、お粥を食べる前に飲んだゼリー飲料の空容器を手に取り、まじまじと見ていた。
それを見た陽一は、異世界になさそうなものを見せてはどうかと閃いた。
「アラーナの世界にはさ、こういうのないんじゃない?」
そういって陽一が見せたのは冷やご飯の入っていたタッパーだ。
彼女はそれを手に取ると、いろんな角度から見たり、指でコンコンと弾いて感触を確認したりした。
「スライム材だろう?」
「スラ……なに?」
「だから、スライム材だよ」
「スライム材? スライムって、あの、魔物の……?」
陽一はまだ見たことはないが、ファンタジーでは定番の存在なので、どこかにいるのだろうことは予想できる。
「そうだ。スライムを錬成してできる素材だな」
どうやら向こうの世界にもプラスチックに似た素材があるらしい。
では逆にあちらにあってこちらになさそうなものはないだろうか。
「あ、そうだ! この世界にはオリハルコンやミスリルがない!!」
「それは、ヨーイチ殿が知らないだけではないのか?」
「ぐぬぬ……、悪魔の証明かー」
「悪魔の証明?」
「存在しないものを存在しないと証明するのは難しいって話だよ」
本来、所有権などの権利の証明で使われる悪魔の証明という言葉だが、近年は消極的事実の証明――ないことの証明という意味で用いられることが多い。
「それがなぜ“悪魔の証明”になるのだ?」
「この世界に存在しない悪魔だけど、本当に存在しないかどうかってのはわからないだろ? もしかしたら誰も会ったことがないだけでどこかにいるかもしれないわけだし」
「いや、私は何度か戦ったことがあるぞ、悪魔と」
「そうそう。悪魔が存在することを証明するのは簡単なんだよなー。実際に会えば済む話だし」
「うむ。なかなかに手強い相手だったな」
「でもこの世界に悪魔はいないんだよ」
「それはヨーイチ殿が知らないだけではないかな」
――まさに悪魔の証明だ、と陽一は頭を抱えた。
「じゃあこれは?」
と陽一はテレビをつけた。
「おお!? これは……映し見の魔道具か?」
遠く離れた場所同士で映像や音声をやり取りできる魔道具も存在するらしい。
さらに映像や音声を記録する魔道具もあるので、それを応用すればテレビのようなものもできなくはなさそうだ。
大衆娯楽としてのテレビ放送は、少なくともアラーナの住む町にはないが、原理として再現可能であれば彼女の知らない国でテレビ放送のようなものが存在しないとは言いきれない。
その後も向こうの世界になさそうなものをいろいろと見せてはみたが、どれも魔法や錬金術、魔道具で再現できそうなものばかりだった。
「あとは……、こっちに来て」
そう言って陽一はバルコニーに通じる場所へとアラーナをいざない、窓から外の景色を見てもらった。
まだ外は明るく、マンションの高層階からはそれなり発展した現代日本の都市が一望できた。
「これは……見たことのない町並みだな」
感心はしつつも、やはりここが自分が住むのとは異なる世界だということをうまく実感できないアラーナだった。
○●○●
「で、結局のところヨーイチ殿は私に異世界云々の話をしてどうしようというのだ?」
「どう、って……」
話しているうちに、アラーナに異世界のことを理解してもらおうと必死になっていた陽一だったが、そもそも本来の目的は彼女に、異世界冒険の協力者になってもらうことだ。
「はっはっは、なんだそんなことか。ならお安い御用だ」
「そんなことって……。俺みたいな得体の知れない男の協力なんて普通しないでしょ? だから少しでも信頼を得るためにだなぁ」
「ヨーイチ殿は私の命の恩人で、その……初めての、相手なのだから……。なにかあっても望むところというか、なんというか……」
姫騎士の声が徐々に小さくなり、もじもじし始め、その様子に、陽一は思わず笑みをこぼした。
「そもそもヨーイチ殿は、ヨーイチ殿が言うところの異世界、つまり私の住む世界? でなにをしたいのだ?」
「あー、それなんだけど、アラーナは自分を冒険者と名乗ってたよね」
「いかにも」
「冒険者って、例えば魔物を討伐したり、いろんな場所を探索したりするような感じの職業ってこと?」
「まぁだいたいそんな感じではあるな」
「とりあえず俺はその冒険者ってやつになってみたいんだ」
「そうか! では私とパーティーを組もう!!」
アラーナは嬉しそうに目を輝かせた。
「あ、うん。アラーナさえよければお願いします」
「うむ、任せてくれ!!」
「じゃあ、早速だけど異世界……いや、アラーナの住む町のことなんかを教えてくれる?」
その後、ふたりは今後の方針などを夜が更けるまで話し合った。
「いつ出発する?」
「そうだな、私の手足が万全の状態になってからがいいので、今夜ひと晩寝て問題なければ明日でいいだろうか?」
「だいじょうぶだよ。今日はもう遅いから寝るか」
「うむ。その……ヨーイチ殿?」
「ん?」
「今夜は、その、一緒に寝てもらってもいいだろうか?」
「……うん、もちろん」
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