第10話 装備の調達
そろそろ異世界攻略を始めねばなるまい。
陽一には戦闘向きのスキルがないため、まずは装備を整える必要がある。
(っつっても、なに用意していいのかわかんねぇなぁ……)
とりあえず陽一は【帰還+】の機能のひとつである、遠隔地からのホームポイントの確認機能を使って、異世界の様子を確認することにした。
意識を集中すると、異世界の様子がダブったようなかたちで視界に入り込んできたので、目を閉じてみると完全に異世界の景色だけが見えるようになった。
(あらためて使ってみるとへんな感じだなぁ……)
陽一は実際に経験したことはないが、ヘッドマウントディスプレイ型のVR《ヴァーチャルリアリティ》機器を使えばこのような感覚になるのかもしれないなどと思った。
実際にその場に立っているという感覚はなく、といって離れた場所からモニターを見ているというのとも異なる、不思議な状態であった。
「お、いたいた」
以前から何度かお目にかかっている、角の生えた大うさぎを発見した。
遠隔地からでも【鑑定+】は問題なく働くようで、それはスピアラビットという魔物であることがわかった。
大きさはやはり大型犬程度である。
ひとまず、これを相手に戦える武器や防具を探していくことにして、【帰還+】を解除した。
いろいろなネットショップを見ながら、どういう装備で行くべきか検討する。
とりあえず目についたのが、ライオットシールドと呼ばれるポリカーボネート製の盾。
(あのデカイのに突進されて受けきれるか? でも、ないよりはマシだよなぁ)
小口径の銃弾であれば防げる程度の強度はあるらしいので、一撃くらいは耐えきれるだろうと思い購入を決定した。
(あ、鎧ってあるのかねぇ……、ってあるわ)
盾の次は鎧、と思い大手ネットショップで検索をかけてみると、中世の騎士が身に着けるような全身を守る板金鎧が表示された。
(これ、装備して動けるかぁ?)
陽一は自分が板金鎧を着込んでいる図を想像したが、数歩歩いて転び、立ち上がれずにバタバタしている姿しか見えてこなかった。
(……却下だな)
しかし鎧姿を想像したことで、防具の方向性は見えてきた。
(動きやすさ重視で。とりあえずいつもの作業服をベースに考えよう)
下手にこだわって着慣れない服を着て、普段のパフォーマンスが出せないのでは意味がない。
盾に関しては不要であれば【無限収納+】に入れてしまえばいいだけである。
同じように、いつもの作業服に着け外しがしやすいものを追加するというのがいいのかもしれない。
(とりあえずあの森を抜けるのが第一なんだよな)
魔物がはびこる深い森を、できるだけ軽快に動きながら進んでいく。
その姿を想像したとき、陽一の頭にふとあるものが閃いた。
(サバゲー?)
深い森など、厳しい自然環境の中、ミリタリー装備に身を包んでエアガンなどを撃ち合うサバイバルゲームで使うようなものならば、あの森で行動するのに適しているのではないか。
そこで陽一はサバイバルゲームの装備関連を確認するため、ネットでその手のサイトを適当に覗いて回った。
(ふむふむ、ヘルメットとベスト、それにプロテクターか。あと、手袋もあったほうがよさそうだな)
いくつかのサイトを参考にしながら、陽一は軍用のヘルメットと防弾ベスト、肘や膝を守るプロテクターに、指先が自由に動くタクティカルグローブというものを購入した。
(あー、でもこれじゃあ剣と魔法のファンタジー世界になじめそうにないなぁ)
そこで陽一は、全身を隠せるものを探すことにした。
ぱっと思いつくのはマント、ローブ、ポンチョあたりだろうか。
(お、このローブいい感じだな)
有名な宇宙戦争映画に登場する騎士のコスプレ衣装のローブが目についたので、それを購入することにした。
次に武器だが、ミリタリーグッズを見ていたせいか、まず思いついたのはサバイバルナイフだった。
(できるだけ刃渡りの長いやつを……、ミリタリーマチェット? とりあえずこれにしとこうか)
陽一が選んだのは、ネットで販売されているナイフ類の中では比較的刃渡りの長いミリタリーマチェットというものだった。
まっすぐな片刃のマチェットは、なんとなく使いやすそうに見えた。
ただ、これであのスピアラビットと戦えるかといわれると、正直難しいところだろう。
これはあくまで護身用といったところか。
なら遠距離攻撃ということになるが、素人が普通に買えて、かつ使えそうなものといえば――。
(弓?)
生まれてこのかた弓など射ったことはないが、クロスボウであれば使えそうな気がしないでもない。
しかし、クロスボウについて説明したサイトや動画を見て回ったが、発射後に弦を引いて矢をつがえるのに随分と手こずりそうである。
複数人のパーティーで前衛がいるというのであればまだしも、ソロで使うには難しいだろう。
となると、やはりあれが欲しくなってくるのは仕方あるまい。
そう、銃である。
○●○●
マイナスにマイナスをかけるとプラスになる。
反社会的組織に対して犯罪行為で被害を与えるということは、逆に社会貢献ということにはならないだろうか?
(うん、なるということにしておこう)
草木も眠る丑三つ時。
陽一はいま、とあるマンションを訪れている。
どこからどう見てもごく普通のマンション。
実際に住んでるのも普通の人たち。
しかし、このマンションの一室が、じつは反社会的組織の武器庫になっているのである。
そのテの武器庫といえば港湾の倉庫などを思い浮かべるが、最近の怖い人たちはそういう〝いかにも〟な場所をあまり使わないらしい。
有事の際に拠点から離れたところへわざわざ取りにいくよりも、近所にあったほうが便利だということもあるのだろう。
この場所については銃といえば裏社会だろうということで、【鑑定+】を使ってそれっぽい語句で検索し、その結果から銃器の保管場所、ということでさらに検索をかけたところ、容易に特定できた。
マンションはもちろんオートロックだが、暗証番号など【鑑定+】の前には無意味である。
一応念のためとばかりに薄手の手袋をはめた手で番号を押し、あっさりとロックを解除してマンション内へと侵入していた。
もちろん防犯カメラもあるだろうが、これについては金髪のウィッグとマスクで変装しているので問題ないだろう。
まさかこの手の連中が歩容認証まで使うまい。
そしてマンション内の武器庫となっている部屋の前へと到着する。
現在室内に人がいないことは確認済みだ。
ひとり暮らし向けの狭いマンションなので、入り口ドア前から部屋のもっとも遠いところでも10メートル以内、つまり【無限収納+】の効果範囲内であることは確認している。
そして、目視できていなくても、鑑定結果等で効果範囲内にあることが確認できた場合は、ちゃんと収納できることも検証済みだ。
『銃器 弾薬』で検索鑑定をかけ、室内のおそらくは金庫かなにかに入っている拳銃や弾丸を指し示す矢印が、いくつも現われた。
そして、それらをすべて収納する。
(よし!!)
陽一はカメラの死角へと移動し、【帰還+】を発動して自宅へと戻った。
「おほぉ、ずっしりくるなぁ……」
怖い人たちの武器庫からいただいた拳銃を手に取り、陽一は感動のあまり声を漏らしてしまった。
それは裏社会の人間が好んで使うひとつ星エンブレムの入った拳銃だった。
一般的な拳銃が38口径なのに対し、この拳銃は30口径と小振りなのだが、こと貫通力という点においては45口径の拳銃にも匹敵するとも言われており、取り扱いのしやすさやコストパフォーマンスの面から素人に好まれるものだ。
結果、例の武器庫からは同じ拳銃を5丁と予備の弾倉を10個、弾丸500発を入手できた。
ニヤニヤと笑みを浮かべながら手に持った銃を舐めるように見ている陽一は、いままさに銃刀法という法律を犯しているわけだが、そこは気にしないことにしたようだ。
翌日、陽一は射撃訓練を行なうことにした。
問題はその場所なのだが、彼には異世界という便利な訓練場がある。
まずは遠隔地からの状況確認を行なう。
主観で見回したところ、特にこれといった魔物らしきものは見当たらなかったので、さっそく【帰還+】を発動した。
「おお、ちゃんと来れたな」
前回は靴を履かずに転移してしまったが、すでにホームポイント2を自宅玄関に変更しているので、靴を履き、作業服の上にダウンジャケットといういつものスタイルで転移した。
注文した装備品については、早いもので今日中にも到着するだろうが、すべてが揃うには1週間ほどかかりそうだったので、その間は魔物と遭遇しないよう警戒しつつ射撃訓練を行なうことにした。
すでに『自分を認識している』かつ『魔物』『獣』『人』でそれぞれ検索をかけているので、半径100メートル以内に魔物や獣の類がいればわかるようになっている。
最初は『自分を認識している存在』で検索をかけたが、虫やら微生物やらで矢印の数がとんでもないことになったので、条件を絞り込んだ。
いまのところ自分を認識している魔物や人はいないようなので、さっそく【無限収納+】から取り出した拳銃を構えた。
照準の合わせ方はガンシューティングゲームで慣れているので、その経験を元に、5メートルほど離れた場所にある木の幹を狙って引き金を引く。
パンッ!!
短い破裂音のような銃声が響き、狙っていた木の幹を銃弾がかすめ、えぐれるのが見えた。
中心を狙ったつもりだったので少し狙いは逸れたようだが、思っていたほど反動もなく、問題なく使えそうだった。
銃声に反応したのか、検索結果の矢印がいくつか表示された。
しかし充分に距離があったので、多少警戒しつつも2発3発と続けて発射していく。
少しずつだが検索結果の矢印が増え、徐々に陽一へと近づいてくるものもあったが、いままで聞いたことのない音に警戒しているのか20~30メートルよりこちらに近づいてくるものはなかった。
どうやらしばらくは安全なようなので、習うより慣れろとばかりに拳銃を撃ちまくる。
弾倉が空になったら【無限収納+】へ戻し、予備の銃と交換する。
弾倉だけを交換することも可能だが、銃というのは何発も続けて撃っていると銃身が熱くなり、命中精度が落ちたり故障の原因になる、とどこかで聞いたことがあった陽一は、とりあえず銃ごと交換することにしていた。
一度【無限収納+】に収めさえすれば、メンテナンス機能により銃は最善の状態となるので、弾づまりなどのトラブルを防ぐ意味でも有効な手法であろう。
この拳銃1丁あたりの弾数は、あらかじめ薬室に入れておいた1発と弾倉の8発合わせて9発となる。
5丁すべての弾を打ち尽くした陽一は、弾切れの拳銃を新たに取り出し、空の弾倉を外して地面に落としたあと、弾の詰まった弾倉を【無限収納+】から取り出し、手早く装填する。
10メートル以内のものであれば触れずに収納が可能なので、外した空弾倉も【無限収納+】へ収めた。
2周目からは各8発ずつとなり、予備の弾倉は10個あるので、最初の9発×5丁と予備の8発×10個の合わせて125発を続けて撃ち尽くした。
その頃には命中精度もかなり上がっており、弾倉の交換にしても空の弾倉が地面につく前に収納できるようになり、弾倉交換の手際も飛躍的によくなった。
(俺ってもしかして射撃の才能あるんじゃね?)
小口径とはいえこれだけ続けて銃を撃てば、持っている手はもちろん、構えている腕や肩、そこから続く全身にそれなりの衝撃が伝わるので、相当疲れるはずだ。
衝撃以外にも銃声で耳がバカになるということもあるだろう。
しかし陽一には【健康体+】という加護があり、そのおかげで疲労や痛みはすぐに回復するのだった。
それだけではない。
衝撃や銃声で痛んだ身体や器官が回復するたびに、『超回復』の効果によりわずかずつではあるが、しかし急速に成長しているのだった。
『超回復』とは『
陽一本人はあまり自覚していないが、じつは【健康体+】という加護により、『鍛えれば鍛えたぶんだけ異常に早く成長する』という成長チートを手に入れていたのであった。
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