第11話 戦闘訓練、というか実戦
「あー、腹減ったぁ……」
射撃訓練を終えた陽一は【帰還+】を発動し、『エスポワール305』に戻った。
そしてそのまま部屋を出て、空腹を抱えながらコンビニへと足を運んだ。
普段であれば弁当1個で腹は満たされるのだが、このときはなぜか弁当1個のほかに、ロールケーキとエクレアをカゴに入れ、レジでフライドチキンとフライドポテト、肉まんを追加した。
(勢いで買っちゃったけど、食えんのか?)
普段なら見ただけで胸焼けを起こしそうな量だったが、結果、ぺろりと平らげてしまった。
(【健康体+】のおかげで胃腸が強くなったのかなぁ)
その考えは一部正解であるが、それがすべてではない。
【健康体+】から派生した回復能力により、陽一は常に『超回復』が起こっている状態といっても過言ではない。
そのエネルギー源として管理者の神通力とでもいうべき魔力が使われているわけだが、あくまでそれは回復のための代謝を促すものであり、実際の新陳代謝に必要なエネルギーは陽一本人が飲食で摂取したものが優先的に消費される。
(ま、ベストコンティションを保つって効果もあるし、食べすぎでブクブク太るってことはないだろう、たぶん)
思考の経緯は間違っているが、結論は正解である。
基礎代謝が異常に上がっている状態なので、そうそう太るということはないのだ。
(肌艶もよくなってきたなぁ)
食後、歯を磨きながらふと鏡を見た陽一は、自分の頬をなでながらそう思った。
代謝が促進されるとなると、あわせて老化も促進されるのではないかと思われるかもしれないが、そこは神に類する者が与えたもう加護である。
ベストコンディションを維持するという【健康体+】の効果のせいか、陽一はむしろ若返ってすらいるのだった。
異世界において通常の【健康体】を持っている者は、全盛期を長く維持することができ、寿命も種族平均の倍ほどに延びると言われている。
その【健康体】に付与された『+』の文字がいったいどのような効果をもたらすのか、加護を与えた管理者にとっても未知数なのだが、あの間抜けな管理者はすでに自分が与えた『精一杯の加護』についてほぼ忘れ去っているのだった。
○●○●
「あー、面倒くせぇ……」
食事を終え、ひと息ついた陽一は、弾丸の補充を行なっていた。
弾倉に1発ずつ弾を込め、銃に装着したあとスライドを引き、薬室へと銃弾を送る。
そして、弾倉に追加で1発を補充。
(もっと効率のいい方法はないかねぇ。先に全部の銃の薬室へ1発ずつ入れたあとに弾倉へ詰めるとか?)
そこでふと陽一は思い至った。
【無限収納+】のメンテナンス機能を使って弾込めができないだろうかと。
【無限収納+】内に銃と弾丸が収まっているのは認識できる。
空の弾倉が装填されている、薬室が空の銃が、あと4丁。
そこに、弾薬を込めるようにイメージする。
「できた……!!」
【無限収納+】から銃を出し、弾倉を取り出すと、しっかり弾が込められており、スライドを引くことで薬室内の弾も排出された。
(こりゃ楽だ!)
その銃と排出された弾を【無限収納+】に戻し、弾の補充をイメージすると、薬室内に再び弾が装填されるのがわかった。
残りの銃と予備弾倉にも同じ要領で弾を込める。
そもそも予備弾倉は不要ではないか、とも思ったが、【無限収納+】内での弾倉交換もできるようなので、なにかの役に立つだろうと思い、一応すべての予備弾倉に弾を込め直しておいた。
翌日、一部の装備が届いた。
届いたのはミリタリーマチェット、ミリタリーベスト、革ズボン、プロテクター各種、タクティカルグローブ、安全靴、大盾、円盾、ローブで、ステンレスメッシュのシャツとズボン、軍用ヘルメットと防弾バイザー、フェイスマスクはもう数日かかりそうだ。
しかし、一部とはいえこれだけ揃っていればそこそこ安心できる。
あの場所での戦闘訓練くらいならできるのではないかと、陽一は考えた。
ただ、頭を守るものがないのは不安なので、近所のディスカウントストアでバイク用のジェットヘルメットを購入した。
購入したものは人目のないところまで運び、【無限収納+】へと収めておく。
届いた装備のうち、盾とローブ以外を身に着け、少し離れた位置から洗面台の鏡に自分の姿を映す。
(うーん、これで街を歩いたら職質一直線だな)
サバイバルふうな格好として見ればなかなか決まっているが、ファンタジー世界になじむかどうかといわれると、答えは否と言わざるをえまい。
(やっぱローブ買っといて正解だな)
購入したのは宇宙戦争映画の騎士が着ているコスプレ用のもので、茶色の布製だった。
それを装備の上から羽織る。
さすがにヘルメットのままではフードをうまくかぶれないので、ヘルメットを脱いだ。
そうやって全身をローブで覆い、フードを目深にかぶれば、なんとかファンタジー世界にもなじめそうな格好にはなった。
ヘルメットを脱いだりかぶったりするのは面倒なので、【無限収納+】から取り出すと同時に装備、装備したまま収納、というのができないかどうかを試行錯誤し練習したところ、問題なくできるようになった。
同じく盾も【無限収納+】からの直接装備、収納を練習しておく。
小さい円盾であっても、銃を撃つには邪魔になるので、とっさのときにいつでも出せるようにしておく必要はあるだろう。
そうやっておよそ半日のあいだ、【無限収納+】を使った装備の変更の練習を行なった陽一は、近くの中華料理店で量の多いランチを食べたあと、異世界へと飛んだ。
事前の確認で近くに人がいないことは確認しているので、フードを脱ぎ、ヘルメットをかぶっていた。
今日は動かない的ではなく、魔物を相手に戦闘訓練を行なうことにしている。
魔物を相手にする時点でもう実戦といってもいいのだろうが。
『魔物』で検索をかけ、近くの魔物を探す。
いちばん近い矢印が示した方向へ進むと、そこには最初に遭遇した角の生えたウザギがいた。
**********
スピアラビット
状態:警戒
討伐ランク:F
魔石:100グラム
討伐証明部位:角
備考:高い跳躍力を誇る凶暴な兎型の魔物。額に生えた角を武器に突進してくることが多い。5メートル程度であれば助走なしで跳躍可能。角と毛皮が素材として好まれ、肉は食肉として多く流通している。
**********
敵は陽一の存在に気づき、警戒しているようだ。
討伐ランクについてだが、これは同ランクの冒険者3~4人で安全に討伐ができる目安、というものらしい。
(冒険者って、やっぱいんのね)
Fランクがどの程度の強さかは不明だが、仮にAから数えたとしてもかなり下のランクになるのではないかと予想される。
そのあたりのことはさらに詳しく【鑑定】することでわかりそうなものではあったが、陽一はあと回しにすることにした。
陽一は約7メートル離れた位置で銃を構えた。
拳銃の有効射程を考えると、これ以上離れるのは望ましくない。
しかしこれ以上近づけば、逆に相手の間合いに入ることになる。
ちなみに彼我の距離は【鑑定+】で測っているので、目測を誤るということはない。
スピアラビットは警戒しつつも、鼻をヒクヒクさせながらじっと陽一の様子を見ていた。
あと数歩近づいてくれば飛びかかってやろうとでも考えているのだろうか。
しかし陽一はその場から前に出ず、拳銃を構えた。
そしてスピアラビットの目と目のあいだに照準を定め、続けて2回、引き金を引いた。
バンバンと銃声が響いたあと、スピアラビットはその場に倒れた。
1発は狙いどおり眉間に、もう1発は少し逸れて頬をかすめ、そのまま肩のあたりに命中した。
なぜ陽一が2回引き金を引いたかというと、以前なにかの漫画で読んだ“確実に仕留めるなら2回引き金を引くことだ。バンバンっとね”という台詞が頭をよぎったからだ。
仕留めたスピアラビットを【無限収納+】へと収め、解体機能を使ってみる。
すると、スピアラビットは角、牙、骨、皮、肉、内臓、血液、魔石、そして弾丸に分かれた。
試しに皮を取り出してみると、なかなか触り心地のいい毛皮が現われた。
毛皮を収納し直し、続けて〝魔石〟と分類されたものを取り出してみる。
くすんだ黒い小石のようなものが手の中に現われた。
(魔石、ねぇ……)
それは魔力を宿した固形物で、石のような形状、質感から魔石と呼ばれるようになったらしい。
魔物という存在は、例外なく魔石を身体に有している。
それは大抵の場合心臓に宿していることが多く、この魔力の塊である魔石から体内に魔力が流されることで、体内に魔石を有していない獣や人類と比べ、素の状態での身体能力が高くなっているといわれていた。
そしてこの魔力の塊ともいえる魔石だが、この世界においては貴重なエネルギー源とされている。
この世界には魔法があり、魔法効果を再現できる魔道具というものが存在した。
その魔道具の動力源として使用されるのが今回手に入れた魔石である。
(俺らの世界で言うところの石油とか電気みたいなもんかな)
というのが、【鑑定+】を使って魔石について調べた結果、陽一が抱いた感想であった。
魔石はこちらの世界の文明を支える貴重なエネルギー源であり、魔物の死骸から得られる素材もまた、各分野で必要とされる資源である。
これらをしかるべき機関に買い取ってもらうことで、こちらの世界での収入源とできそうであった。
次に弾丸を取り出してみる。
これはスピアラビットを仕留めた際に体内に埋まった銃弾が、解体によって取り出されたものだった。
さらにメンテナンス機能のせいか、本来であれば潰れているはずの銃弾が綺麗に復元され、旋条痕すら消えていた。
しかし、発射時に消費された火薬を復元することはできないようで、銃弾として再利用はできなかった。
(火薬さえなんとかなれば再利用できるのかな?)
再利用の可不可はともかく、【無限収納+】に入れておけばかさばることもないので、陽一は今後も使用済みの銃弾をできる限り回収しておくことにした。
(さて、もうちょい続けますか)
その後も陽一は何匹かの魔物を仕留めていった。
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