第8話

 東京に帰り着くと、その日の東京は快晴だった。まだ早朝だからかもしれないが、やはり京都より少しは涼しい。

 その日、自宅に戻った俺は、夕方まで冷房のきいた居間のソファーで寝ていた。日曜日だったので家族はみんないたけれど、お構いなしだ。

 寝る前に一つ妹に確認したのは、俺が京都に行っている間に齊藤さんって人から電話がなかったかということだ。美緒には京都に行くことは言っていない。静岡まで会いに行きたいけど行けないみたいなことを電話で言ったので、静岡を通り越して京都に行くなんてとても言えない。もしいない間に美緒から電話がかかってきて、俺が京都に行っていることを電話をとった家族がポロッと言ってしまったりしたらまずいことになるから、それだけを心配していたのだ。だからといって事前に家族に居留守を頼んでいても変に怪しまれる。

 今回、行きも帰りも静岡県内通過中は深夜で、電車の中で爆睡していた。もっとも、静岡で降りたところで、美緒はまだ生まれてもいない。もしかしたら美緒のお母さんが今ちょうど高校生くらいで、どこかにいるかもしれない。もし、今俺が美緒の今はまだ高校生のお母さんに会ったら……、

「あ、そうそう、北川さんって人からなら電話あったよ。昨日の夜」

 俺の妄想を打ち砕いて、妹はさらりと言う。優子には京都に行くことは言ってあったけど、いつ帰るかははっきり言っていなかった気がする。

 すぐに電話しようかとも思ったけれど電話のある居間にはわんさか家族がいるし、暑いし、夜行疲れで睡魔に襲われていたので寝ることの方を優先した。

 京都より涼しいとはいえ、東京も十分真夏日だった。夕方少し涼しくなってから西友に行くといって出かけて、近所の公園の公衆電話で優子に電話した。

 電話に出たのは年配の男性という感じで、今度は優子の父親のような感じだった。どうにも無愛想で、優子は塾に行っていていないと言った。そこで、帰ったら折り返し電話をくれるよう頼んで、それだけで電話は終わった。

 なんだか呆気なかった。

 続いて美緒に電話しようかとも思ったけれど、なんだか優子がいなかったから仕方なく美緒に電話って感じがして気がひけたし、静岡を素通りしたばつの悪さからも今日はやめておいた。

 その日、優子から電話はなかった。

 優子から電話があったのは、翌日の夕方だった。

「生きて帰ってきたのね。よかった」

「何言ってんだよ。大げさな」

 俺は苦笑していたけど、なんか優子の声は冗談で言っているという感じではなかった。

「だって内藤君が京都に行くって言ってた日に大阪行きの飛行機が落ちたし」

「ああ、そっか。でも、俺が飛行機なんかで行くわけないじゃん。夜行の鈍行だよ。それよか、昨日、どうしたの?」

「どうした、って?」

「昨日、電話したんだけど。まだ帰る前に電話くれたって聞いたから」

「え? 電話くれたの?」

「うん。そしたら、塾に行ってるって言うから帰ったら電話くれるように頼んでおいたんだけど」

「え、全然知らない。誰が出たの、その電話?」

「たぶん、お父さんかな?」

「昨日、授業終わった帰りにお父さんに迎えに来てって言おうと思って家に電話したら、お父さん、もう寝てた」

「だから聞いてなかったのか」

 俺は、優子に悟られないようにふとほほ笑んだ。優子が故意に俺の電話をスルーしたわけではなかったってわかったから。

「塾、行ってるの?」

「何、塾って。江戸時代じゃあるまいし。進学教室よ。行くって前にも言ったじゃない」

 優子は笑っていた。まだこの時代、学習塾って言い方はなかったっけ? いや、なくはなかったと思うけどな……記憶があいまいだ。

「だって君のお父さんが塾って言ったよ。夏休みはずっと行ってたの?」

「ううん。私の場合は日曜日だけ。二学期になっても日曜日には毎週行くと思う。だって、このままだといろいろ危ないから」

 文系科目だったら俺が教えてあげるよ……と言いたいところだけど、それ言ったらなんか傲慢に取られるよな。優子は俺の正体を知らないのだから。美緒もだけど。

「じゃあ、平日は暇なんだ、夏休み中は」

「うん、暇」

「だったら会える? 京都のお土産も渡したいし」

「わあ、ありがとう。でも、早い方がいいな。夏休みもあと二週間でしょ。宿題がたまってるの」

「じゃあ、明日」

「でも明日、予報だと雨だってよ」

「じゃあ、あさってにしようか」

「いいよ。土産話だけでも十分なんだけど。あ、でもあさってっては登校日」

「あ、こっちもだ。でも、どうせ午前中だけなんだけど」

「うん、うちもそう。そうね、午後なら大丈夫」

「じゃあ、あさっての午後にしよう。一度家に帰ってから?」

「もちろんよ。制服のままうろうろしてて、先生に見つかったら大変。ああいう日は午後には先生があっちこっちではってるんだから。ほら、前に制服のまま一緒に喫茶店行ったじゃない。その話を友達にしたら、もし先生に見つかったらどうするつもりだったのってさんざんばかにされた」

「大変だなあ、女子校って」

「うちは特別よ、もう」

「で、どこ行く?」

「午後からだから、東京とかはちょっと」

「あ、そうだ。四月に花見に行った公園があるんだけど。里見公園っていって」

「知ってる。いいよ。暑そうだけど」

「じゃあ、一時に船橋でいい?」

「うん」

「じゃあ、一時に京成船橋の上り方面の改札ね」

「踏切のところね。了解」


 いつまでも残暑は厳しかった。昨日は予報通りに午前中だけ雨で、ほんの少しだけ暑さが和らいだけど、今日はまたよく晴れて真夏日だった。

 京成船橋の上り方面への改札口で待っていると、優子はほぼ時間通りに踏み切りの向こうから現れた。

「ねえ、急いで行こうよ」

 顔だけは笑顔だったけれど、明らかに焦っているように優子はさっと定期を駅員に見せて先に改札に入った。切符を切ってもらう俺は、その分少し遅れた。でも、あらかじめ切符は買っておいて正解だった。

 そもそも未来の時代ではICカードで入場してしまうから、初乗りがいくらかなんて意識していなかったけれど、このころは100円だった。降りる国府台までは120円だ。

 電車はなかなか来なかった。その間、優子は俺にキティーちゃんのついた茶色い角封筒を渡した。

「何これ? 絶交状?」

「違うわよ。バクダンよ」

 優子は笑っていた。

「うそうそ。ほら、このあいだ、キャンデーの作り方教えてって、言ってたじゃない」

「ああ、そういえば」

 正直言って、忘れてた。そういえば、前に会った時、次は映画って言ってたのも思い出した。それもころっと忘れて里見公園にしてしまった。

「男の人にも分かりやすくと思って書いたんだけど」

「大丈夫。俺、器用だから。今度作ったらあげるね。あれ? その指は?」

 優子の指に小さな絆創膏があるのを見つけた。

「ああ、これ? お料理してて包丁で切っちゃった。ホント、私って生傷が絶えないでしょ。前に熱いお味噌汁を手にこぼしちゃったし、この間は柱に肘ぶつけて大変だったんだから」

 トマト色がかった赤塗りに、窓の下には黄色いラインの入った電車が来た。急行押上往きだった。

「これ、国府台停まる?」

「え? 停まるよ」

 なにしろ令和時代の京成の路線図に慣れてしまっている俺は、急行などという未来には存在しなくなる種類の電車に乗るのは新鮮だった。未来には、国府台は各駅停車しか停まらない駅になる。

 ありがたいことに冷房車で、俺は乗ったらすぐにドアの上の路線図を見た。急行の停車駅は「東中山」、「八幡」、「市川真間」、「国府台」の順だった。各駅停車しか止まらない駅には「葛飾」など、頭がくらっとするような懐かしい駅名があった。後の京成「西船」である。また、今向かっているのとは反対方向だけど、「センター競馬場前」という駅名も路線図に見えた。後の「船橋競馬場」である。もう船橋ヘルスセンターはなく、すでにららぽーとができているはずなのに、駅名だけはいまだにセンター競馬場前なんだなとぼんやりと俺は思っていた。

 車内は平日の昼間とあって、すいていた。俺は最近少し伸びた自分の髪をいじっていた。床屋になかなか行けない。なにしろ、1000円でカットのみしてくれる簡易床屋がまだこの時代にはなく、洗髪までフルコースで3000円は取られる床屋ばかりだ。

 そんなことを考えているうちに、電車は俺の竹川高校の最寄り駅も、優子の鴻池女子学院の最寄り駅もどちらも停車してそして発車した。特に優子の学校の最寄り駅では、優子は先生が乗って来ないかどうかかなり気にして車内やホームを見渡していた。

「先生が乗ってきたら突っつくから知らんふりして」

 そこまでなのかと思う。でも俺が見た限り、先生は分からないけれど少なくとも優子の学校の緑の制服はいなかった。

 そこからすぐに降りる国府台駅だ。八幡や市川真間に比べたら小さな駅だ。優子は定期券範囲外になるけど精算窓口に行かず、差額の百円を改札の駅員に渡して定期券を見せて出た。

 白い歩道橋を渡って県道を越え、江戸川の土手の上の小径こみちに出た。

 空はぬけるように青く、川の水もそれを反映して青かった。河原には思い思いに昼下がりを楽しむ人たちがいたけれど、やはり平日とあってまばらだった。夏休み中の子供や学生くらいしかいない。

 太陽は容赦なくその光を降り注ぐ炎天下だけれど、川風が心地よかった。

 坂東の大地とその中をくねる大河、そして生い茂る川岸の緑と、すべてが明るく輝いていた。

 川を左手にして、俺たちは歩いた。行く手にこんもりと森が見える。そこが里見公園だ。だがそこに行くまでの右手の高台は明陽女子大、教育大、商科大、市立一中、県立高校と学園都市となっており、さらにはスポーツセンターや病院もある。

 未来の俺はこういう風景を電車の車窓からしか見ることはなくなっていたけれど、感覚的に風景は何ら変わらないような気がした。

 川のこちら側は緑あふれる光景だけれども対岸は東京都で、河川敷の向こうの土手のさらに向こうはなんら自然というものが見当たらなかった。そして一つだけ違和感を覚えたのは……、そう、スカイツリーがない! 当たり前だが…。いや、ここからはスカイツリーは見えたっけ? 忘れた。 

「なんかここで絵を描いたらいい絵が描けそうだよね」

 俺は何気なくつぶやいてから、優子を見た。

「そういえば何だっけ、君が好きだといっていた画家」

「ロートレックね」

「今度、見せて」

「いいよ……って、本物は無理だけど」

 優子はけらけらと笑った。

 やがて、汗だくになりながらも、ようやく里見公園の入り口に着いた。入るとすぐに芝生の広場があって、その奥は噴水のある花壇。そして木の茂みの下にベンチがある。

「今日は静かだなあ」

 いつと比べてそんなことを言ってしまったのか、俺にも分からなかった。

「ここ、来たことあるの?」

「あるよ」

 反射的に、俺はそう答えていた。だがよく考えると、俺が何度かこの里見公園を訪れたのは、この時よりも後ばかりだった気がする。

 実はアルバムに写真が残っていたのでなんとなく覚えているのは、星司や他の二人ばかりの友人とこの公園に来たことであった。高校卒業間近だったころの写真だから、今この時よりも未来ということになるけれど、その写真には多くの花見客が写っていた。

 俺がふと今日が静かだと口をついて言ってしまったのは、無意識のうちにその花見のシーズンとイメージを重ね合わせていたからかもしれない。

「俺の友達に沖田裕一郎ってのがいてね、そいつと花見のころに来たんだ」

 ホントかどうかわからない。でもまるっきり出まかせではないような気がする。ぼんやりとした記憶の中に、この時よりも前に裕一郎とここへ花見に来たことがあったようななかったような……。ただ、ここでこの間裕一郎とコミケにいたことがふと思い出されたので、なんなくそう言ってしまった。

「たしかに、お花見の時に比べたら静かでしょうね」

 歩きながら芝生や噴水のあるエリアから、ただ木立がうっそうと茂る道へと俺たちは入って行っていた。そのあたりの木が全部桜だ。今は葉が生い茂って、うるさいほどの蝉時雨がそこから降ってきている。この桜の林が春になるといっせいに花をつけたら、花見客が押し寄せないはずはない。むしろ花よりも人の方が多いかもしれない。

「裕一郎と来た時も、すごかったな。人でごった返してたよ。このあたりも全部シート敷かれて全部宴会」

 本当は星司と来た時、てか来ることになる時の未来の記憶だ。

「その沖田君って人がいちばんのお友達?」

「まあ、そうだな」

 優子の関心は、花見よりもそっちに行った。

「中学校からずっと一緒だったからね。がちでマブダチ」

「ホント? 実はもっと深い関係だったりして?」

 優子はにやにやして、いたずらっぽく笑う。

「そんなんじゃねえってば。なに喜んでる? もしかして腐女子?」

「え? まあ、婦女子だけど」

 一瞬驚いたけど、優子は腐女子という言葉の意味は分からずに、普通の婦女子だと思っているらしい。まだ腐女子という言葉は一般的じゃないんだ。でも、この間の晴海のコミケでは、それ関係のサークルももうすでにたくさんあったけどなあ。

 木立の中の道はいくらか涼しかったので、崖の下の江戸川を見下ろすベンチに腰をかけた。ここは川原の道からはかなりの高台になる。

 目の前には低い椿の木があった。もちろんこの季節だから。花など咲いてはいない。

「ねえ、椿って好き?」

「え?」

 考えたこともないことをいきなり聞かれると、戸惑うものだ。

「私って二月生まれなの。で、椿も二月の花だから、椿が大好きなの」

 ほとんど人の気配がない静かな今日の里見公園だが、たまには近くを散策する人もいる。たいていはカップルだ。

 しかも、わりと近くの道を、中年と若い女の子のカップルが腕を組んで歩いていた。中年といっても、この時代に来る前の本来の俺よりも少なくとも肉体的には若いけど。

 優子もそのカップルを見ていた。

「ああいうアベック、どう思う?」

 突然、優子はそう聞いてくる。どう思う?って言われても……俺、今だからこそ、高校生に戻れたからこそ同じ高校生の女の子とデートしてるけど、令和の時代の姿のままだったら天地がひっくりかえっても不可能なこと。

「親子かもよ」

 俺は嫉妬の気持ちを押し殺していた。

「いいえ、父親とあんなふうに歩く子なんて絶対にいない! いるわけない! いたら気持ち悪い!」

 そんなことはないだろうとは思うけど、優子の言葉にあまりに力が入っていたので反論なんてできない。

「じゃあ、親子じゃなかったらもっとキモい」

「そんなことないよ、私はあこがれる。ほら、前に網代新次が好きだって言ったでしょ。やっぱ、中年がいいよ」

 でも、この時代の網代新次って、令和の時代の俺とほぼ同じ年齢だったんじゃなかたかな? 令和の時代では網代新次はもう亡くなっているけど。

「この間お母さんに、私、二十歳以上年上の人としか結婚しないって言ったらあきれてた」

「そりゃ。あきれるだろう」

 俺は笑いながらも考えた。じゃあ、高校生の姿ではなく、元の姿のままこの時代に来た方が良かったかなって。でも、二十歳以上っていっても、あの時代の未来の俺はもっと年が離れてることになっちゃうケドな。

 俺は心の中で苦笑していた。それから優子を見た。

 俺ははっとした。

 優子の目は遠くを見ていた。景色を見ているのか…それとも急に開けた別の世界を見ているのか…少なくとも、俺を見ていなかった。

「行こうか」

 俺の呼びかけに優子は我に返り、はっとした表情で俺を見て真顔からぱっと笑顔になった。

 また川原の土手の上の道に出た。相変わらず風が強かった。

「おい、そこのアベック! 昼間っからいちゃついてんじゃねえ!」

 土手の下から罵声が聞こえた。

 どうも酔っ払いらしい。一人で土手の下のスロープに座っていた、あまり上品とは言えないおっさんだ。

 俺も優子も無視してそれまでの話を続けながら、少し足を速めた。そして少し離れてから俺は苦笑して振り返った。

「昼間っから酒飲んでんじゃねえ」

 優子だけに聞こえる小さな声で言ってから、二人して笑った。俺たちはまだただの友達ということになっているけど、傍から見たら立派なカップルに見えるらしい。当然だけど。

 それから国府台の駅の近くの「テキサス」という喫茶店に入った。ウインナーコーヒーを二つ頼んだのだが、だいぶ待たされた。

「ねえ、京都、どうだった?」

「暑かった」

 優子に聞かれて、最初に口をついて出たのがそれだった。

「盆地だから、余計に暑いんだよね。京都、行ったことある?」

「ないけど、行ってみたい」

 俺は、京都で集めたお寺とか観光地のパンフレットを出して見せた。

「それからこれ、お土産。西陣織の布で作った小物入れだってさ」

 昔の俺、つまり本当にこの時の俺だったら、女の子に何を買ってきたら喜ぶのか分からないからなんてコメントをつけただろうな。でもそこは、俺はもう人生経験豊富だし……ま、それはいいにして。

「もらっちゃっていいの?」

 優子はうれしそうだった。

「それよりさあ、悲報」

「え?」

「あと十日で夏休みも終わる」

「それ、言わないでよお。せっかく忘れてたのに」

 そう抗議しながらも、優子は笑っていた。

「宿題終わらせなきゃ」

「えー? あんなしちめんどくさいものはちゃっちゃと終わらせて、あとは思いきり遊びたおすのが夏休みの正しい楽しみ方だろ」

「そうなの?」

 俺も笑った。そうなのだ、この時代でこれを言っても、誰も某アニメからのパクリだとは気づくはずもない。未来のアニメなのだから。

 未来ついでにもう一つ……。

「あまり宿題ため込んでワニとシャンプーにならないようにね」

「へ?」

 優子は怪訝な顔をする。

「いや、なんでもない」

 この時代の人に分かるはずのないことをちょこちょこと言って、俺は楽しんでいた。そして、少し顔をも真顔に戻した。

「で、塾にも行くんだろ?」

「だから塾ってんいうんじゃなくて、進学教室。前から決まってたことだし」

 昔の俺なら「塾なんか行くな。俺と会う時間がなくなる」なんて言ったかもしれない。でも、過去はやり直さなければならない。

「そっか。がんばれよ」

「なによ、他人事みたく、自分も同じじゃない」

 声をあげて優子は笑った。

「そうだった」

 俺も笑った。

 船橋に着いた時はまだ明るかったけれど、もし冬だったら十分に真っ暗になっているはずの時刻だった。

「じゃ、またね」

 優子はそう言い残して、人ごみの中を踏切の向こうへと消えていった。俺は一人でとぼとぼと、国鉄の駅の方へ向かって歩いた。

 今日は楽しかった。楽しかったけれど、これはいったい何なのだろうかと思う。デートなのかな? 周りからはそう見えただろうな。でも、優子ははっきりと俺の彼女になると言ったわけではなく、あくまで友達という位置関係だ。

 ま、なるようにしかならないだろうと、俺はほとんど傍観者だった。

 だから、家に帰ると思い立って美緒に電話した。美緒とてネッ友(今はリア友かな?)にすぎないし、だから二股かけているなんて罪悪感は持つ必要はないと思ってたし、実際にその必要はなさそうだった。

 ただ、それでもあからさまに優子の存在を美緒に話す気にはなれなかった。

「夏休み終わっちゃうね」

 結局は同じ話題だ。

「宿題、終わった?」

 美緒が聞く。俺は苦笑。

「たぶん、ワニシャン」

「やっぱ?」

 なんだかまるでちょーうれしいことのように美緒は笑う。もちろん優子に夏休みの宿題なんてちゃっちゃと終わらせてなんて説教こいたのは、ただ某アニメのセリフをパクって言ってみたかっただけで、実はほとんど手もつけていない。

「でも、その歌、もう古いよ。うちのクラスの子たちは多分知らない」

「古いたって今でも夏のライブの定番曲だぜ。扇子忘れると悲劇が起こる」

「そういえばMCZの西武Natsuマニアライブ、行ったの?」

 俺はまたまた苦笑。MCZの夏ライブ、行きたかったんだ。でも、ここにいたら行かれるはずもない。チケットも当選して抑えていたし、カード決済だったからもう支払いも済んでいた。それを干してしまった。

「それがさあ、行けなかった」

「嘘、まじか。前にDMでは行くって言ってたじゃない」

「バイトが休めなくてさ」

 苦しい嘘である。

「そっか。そんなんばっくれちゃえばよかったのに」

「そうはいかねえだろがあ」

 苦笑していることは、声で伝わっていると思う。そして美緒が言う。

「9月1日の朝に起きたらまた8月の17日くらいにならないかな。それが何回も繰り返されたりして」

「それ、アニメの見過ぎ。それこそ古いアニメ」

 二人して笑った。その同じアニメのセリフを俺もパクったことは秘密である。

 やっぱ、美緒とは時代的に話が合うだけでなく、お互いの感覚もピタッとシンクロする。

 ところが……

「ああ、たしかに古いアニメだけど、そんなこと言ってたらあの事件、思い出しちゃった」

「え? あの事件?」

「ほら、放火事件」

「え?」

 一瞬美緒が何言いだしたのか分からなかったけど、そういえば何カ月か前に美緒が電話で、すごい事件があったって言ってたし、どうもアニメ関係らしくて落ち込んでいたけど、その事件のことかな? 放火事件だったんだ。感覚は一致しても、世の中の動きに関しては俺は完全に取り残されてる。

 その事件を全く知らないだけに俺は何とも言いようがない。

「そうだね」

 言えるのはただそれだけだった。そしてわざと話題を変えた。

「夏休みに会いたかったね」

 その言葉は嘘ではない。そもそも、俺は美緒と同じ高校生になりたくて強く念じていたのに、それはかなったけれど時代的にずれて美緒と会えないのでは元も子もない。

うちも会いたい。どうしたら会えるんだろう」

 美緒の声はもう半べそだった。

「会えるよ、きっと」

 俺が時代を逆行して17歳の高校生になってここにいる、そんなあり得ないことが起こったんだから、美緒と会うっていうあり得ないことも実現するかもしれない。強く願えば実現するんだったよな。

「ねえねえ、二学期になったら文化祭なんだけど、来てくれたらうれしいな」

「行きたい。でも、静岡だろ」

「近いよ、新幹線に乗ればすぐだよ」

 たしかにそうなのだ。でも今の状態では、新幹線で静岡に行ったところで、そこに美緒はいない。

「ねえね、じゅんくんとこの文化祭は?」

「俺んとこは遅くて、十月なんだ。たいてい他の学校は中間試験前で、だから行けないって文句言われる」

 たしかに、そんなことがあった記憶がある。

うちんとこ二学期になってわりとすぐだから、来て!」

「うん、考えとくよ」

 なんだか胸が熱くなってきた。美緒はリアルで会ったことはないし、その顔も遠目に写った画像でちらっと見ただけでアップで写った画像とかは見てないし、だから顔もよく知らない、それなのになんで胸がときめくのだろうかと思う。会おうと思えばいつでも会える優子もいるのに……。

 俺は美緒との会話の言葉の一つ一つをかみしめていた。妹から長電話への苦情が入るまでずっと……。


 文化祭か……と俺は思う。優子の学校の文化祭はいつだったっけ。そんなことを考えているうちに、八回も8月下旬が繰り返されることもなく、すんなり夏休みは終わった。

 実は夏休みが終わる直前に二つの台風が仲良く日本を襲撃して金曜日に関東直撃、翌日にはもっと前にできていた台風が九州を直撃、さらに翌日の日曜日に重なった9月1日には別の台風が対馬海峡を通過するというトリプル台風のラッシュとなった。俺の家は特に被害はなかった。

 優子に電話しても、「台風大丈夫だった?」「宿題の提出、無事にできた?」の二つばかりで、どうも優子の様子が前のように明るくないことに俺は気づいていた。

 優子の学校は下校時の寄り道は一切禁じられていると何度も聞いていたし、日曜日は優子の言葉でいう進学教室、つまり塾に通っているようで、会うのは難しかった。だから接点は電話だけだったのだけど、どうも俺からばかりかけている。しかも、あまり会話もはずまずに、時には途切れがちにもなった。

 まずは親か店の従業員が出るので、優子に取り次いでもらうのがどうにも億劫で、その点必ず本人が出る美緒への方が自然と電話する回数が増えていた。

 家族に聞こえないようにコードを引きずりながら別室に電話を持ちこんだり、公園の公衆電話までテレフォンカードを手にわざわざ電話をかけに行く苦労は同じだけど、同じ苦労ならばその後が楽な方がいいと思うのも人情だろう。

 だけど、美緒までがスマホの向こうの声がちょっと焦り気味になっていたのは、新学期が始まってから最初の週の週末近くだった。

「ねえねえ、台風来るっていうか、そっちに行くみたいだよ。大丈夫?」

「え? そうなん?」

 そう言いかけてやめた。台風が来るっていうのならものすごいニュースになっているだろうし、それを知らないとなるといろいろとまずい。

「まあ、なんとなるだろう。先週の台風…じゃなくて、あ、いあ、あのなんでもない」

 やばい、先週のこっちの台風14号のことを話題に出しそうになってしまった。

「そっち行くの、日曜の深夜から明け方にかけてってみたいだから、次の日電車止まるね」

「そっか、休みだ」

「いいなあ」

 いいなあって、俺だってそう思う。こちとらたぶん台風も何もなくて無事平穏に平常授業だよ。

「被害もなくって、『HN会い』、ちゃんと見れたらいいね」

「それなー」

 俺が推してるHNZ46の冠番組だ。もちろん略称。でも本当は次回だけじゃなくて、こっちに来てからずっと見られずにいるんだい。切実に見たいなあ。

「こっちはずっと見れないんだから。いつもネットで拾ってるけど」

 なんか美緒の方が、俺が言いたいことを言ってくれた?

「え? 見られないの?」

「あのねえ、静岡じゃやってないんだよ。知らなかったでしょ。首都圏の人は恵まれてるよ。現場にもすぐ行けるし」

 美緒とはそんな話をしていたけれど、その日の晩はこちらでもすごい豪雨となった。別に台風が来ていたわけではないが雨は激しく、翌朝のニュースでは県内でも若干浸水被害が出た所もあったようだ。もちろん、我が家は何の被害もなかった。

 そして天気がいいだけでやることもない暇な日曜日も終わって、翌日の月曜日は曇ってはいたものの残暑厳しき真夏日だった。

 この日は五時間目までだったので少し早目に家に帰ると、珍しく美緒から電話が来た。

「さっきも電話したのに、誰も出なかったから心配しちゃった」

「ん?」

 こんな昼間に電話くれたって、俺は学校行ってるに決まっているのに……と思ってすぐに気付いた。

「学校、休みじゃなかったの? 台風、大丈夫だった? じゅんくんの住んでる県、なんかすごいことになってるってニュースで言ってるけど」

「え? あ、うん」

 なんかしどろもどろ。

「なんとか大丈夫だった」

 話合わせないとやばい。

「たくさんの家が停電してるってけど、じゅんくんとこは?」

「うちは大丈夫」

 かなりの被害が出ているようだ。それにしても今日、母親も祖父母も出かけていてよかった。もし親が電話とって、俺は学校に行ってるなんて美緒に言ったらなんだか面倒なことになったな。

 そして優子の方はしばらく電話もせずにいた。なんかあいまいだけど、でもはっきりとつき合っている訳ではないし、今も友達の範囲を超えていないと思うから別に気にもしなかった。

 ただ、裕一郎だけは毎朝通学電車で顔を見るたび進展を気にして聞いてくる。

「なんか、今度はうまくいきそうな気がするよ、君なら大丈夫だよ」

 何の根拠もなく裕一郎は言ってくる。そして延々と、自分の悲惨さを訴えてくるのだ。

 そんなある日、一人で下校中の俺は京成八幡から国鉄本八幡の間の、道が国道と交差する交差点にある杉沢書店という本屋に立ち寄った。銀行の二階にある本屋だ。竹高生も多く利用するがたいていは暇つぶしによって本を立ち読みし、買わずに出てくる人がほとんどなので「杉沢図書館」と陰口をたたく者もいた。

 実は俺は、この日はそこに行くのを少しためらった。なんかいやな予感がする。いや、俺にとってそれは予感というよりも、遠い昔のいやな思い出がよみがえって、それが予感となるのだ。だから今日はやめとこうかとも思ったけれど、足は本屋の入り口への階段を上っている。

 歴史には抗えないということなのか……。

 歴史は改竄を赦さない……そんな歌もあったな、昔…ではなくて未来に。

 俺は雑誌コーナーで,アイドル雑誌の「明凡みょうぼん」を見ていた。令和の時代ではすでに存在しない雑誌だ。今まさに子ねこクラブが大ブレイク中で、雑誌は多くのページを子ねこに割いていた。十月に行われる予定の子ねこクラブの、日比谷野外音楽堂での初ライブの告知も出ている。そういえば、今月中には1 stアルバムもリリースされるとのことだ。この時代の言い方で言うなら、「最初のLPレコードが出る」っていったとこかな。

 そんな時、隣に人影を感じだ。竹川高校と一貫校である竹川中学の生徒だ。制服は今は夏服なので、ポケットに張り付けた校章と学年クラスが書かれたアップリケの文字がオレンジなので中学生だと分かる。高校生ならば水色だ。

「おお」

 俺はすぐにその中学生を認識した。前に一度だけ会ったことがある。優子の弟の俊正だ。

「なんか汗びっしょりじゃんかよ」

 鼻の頭にも額にも、大粒の汗があった。その時俺は、頭がくらっとした。この情景、うっすらとだけれど記憶がある。かすかな記憶がよみがえったのだけれど、この世界ではそれは既視感となる。

「これ、お姉ちゃんから」

 ためらいながらも、俊正はかばんから手紙を取り出した。かなり封筒にしわが入っていたから、昨日今日に預かってきたという感じではない。もう何日も俊正のかばんの中で眠っていたようで、なかなか俺に会えなかったから渡しそびれていたのかもしれない。

「ご苦労さん」

 俺はそれだけ言うと、手紙を受け取った。

 普通だったらなんの手紙だろうかと怪しむだろうし、まずは尋常な状況ではないと思うだろう。用件があるなら電話でもいいと思う。そもそもデジタルな時代の感覚がまだ抜けない俺は、手紙なんてずいぶん古風だなと思うけれど、同時に微かに、おぼろけながらその手紙の内容が記憶にあったような気がした。そう、この手紙を渡してくれた時の俊正の、あの鼻の頭の汗はたしかに記憶に残っていたのだ。

 俺は電車に乗ると、ドアのそばにもたれて立って、その手紙を開封した。


「突然こんな手紙を受け取って、きっと驚いていることと思います。でも、本当の私の心の中を知ってほしくてペンをとりました。

 実は私、去年ある人とつき合っていました。あなたの通っている竹川高校の人です。その人とは楽しい思い出もたくさんあるけれど、最後の悲しい思い出の方が私の心の傷になっています。

 私、その人が忘れられないんです。

 もう何回も会ってからこんなこと言うのはおかしな話かもしれませんけど、あの人と同じ学校に通うあなたと友達でいていいのでしょうか? あなたに聞いている訳ではありません。私への自問です。あなたの学校はうちの学校と違ってたくさん生徒がいるから、彼のことあなたは全く知らないかもしれません。でも、あなたの友達の一人かもしれません。その両方の可能性があるので、あの人の名前は言いません。私にはこんな過去があること、一応知っておいてもらいたいと思います。

 変な手紙でごめんなさい


 椿が好きなかつ生傷の絶えないY・Kより」


 なんだか、何が言いたいのだかよくわからない手紙だった。俺は彼女と山木隆夫との過去は知りすぎるくらいに知っている。でも彼女は、俺がそれを知っていることを知らないのだ。

 この手紙は特に別れの手紙ではなさそうだ。だからこそ、何が言いたいのかよくわからない。

 でも、かつては間違いなくあの杉沢図書館、もとい、杉沢書店で俊正から優子の手紙を受け取った。そうしたことが確かにあったことは、俊正の鼻の頭の汗の記憶で間違いない。

 だんだんと、記憶のベールがはがされていく。

 あの時、俺は優子から受け取った手紙は、間違いなく別れの手紙だった。山木隆夫のことが忘れられないので、隆夫の友達である俺とはつき合えないという内容だったはずだ。

 それは、優子の名前を初めて聞いた時に、すぐに思い出した結末でもあった。それが今日この日、ここで別れの手紙を渡されるという形でだったことをなんとなく思い出した。

 だが、今日もらった手紙は内容が違っていた。

 それもそのはず……。

 俺はたしかにこうなることを思い出していたから、あえて山木隆夫や大村洋の名前は一切出さずに、その友達であることは優子には隠し通してきた。だから、別れの手紙は来なかった。

 俺はうすら笑いを浮かべていた。

 俺は過去を変えることに成功したのか。歴史は改竄を赦さないというあのフレーズに、見事に抗ったのか。

 優子のことは洋にも話していない。優子と会うようになってからすぐに夏休みになったし、二学期からは席替えをして洋が隣ではなくなったので、話す機会もあまり多くはなくなったこともある。たまに話してもアイドルの話や、音楽のアーチストの話だけにした。

 それにしても優子は手紙の最後に「生傷が絶えない」なんて書いて居たけれど、隆夫とのことは生傷どころかこんなにも大きな心の傷だったんだなあと、しみじみと感じた。

 そして、この後に新しい登場人物が現れることを俺は思い出した。大学生になってからもごくたまに会ったりしていた人だから、その人の記憶はある程度はっきりしていた。

 だがそれは、自分の記憶通りの、実際に昔に俺が体験した世界での話で、俺は今は過去を変えてしまっている。はたして彼女は昔どおりに登場するだろうか……そんなことを考えているうちに、電車は終点に着いた。


 たしか、優子の友達である「その人」は突然まだ出会っていない俺に電話をかけてくる。記憶の中ではそうだった。

 はたして今の俺がいるこの時代ではどうなのだろうか……

「純一、電話!」

 帰宅して自分の部屋にいた俺は、階段の下から母に呼ばれた。

 まさか……もう、今日、その例の人から電話が来るのか……手紙をもらってからこんなにすぐだったのか……、

「もしもし」

「ねえねえ、あのさあ、来月子ねこクラブのコンサートがあるって知ってる?」

 裕一郎だった、なんだ…って感じで、俺は力が抜けた。

「知ってるよ、今日『明凡』で見た、日比谷の野外音楽堂だろ? 来月」

「行こうよ」

 俺は少し考えてから、返事をした。

「いいよ」

「じゃ、チケット、買いに行こうぜ」

「どこで?」

「プレイガイドに決まってるじゃん。津田沼のパルコの」

 ライブのチケットはネットで申し込んで、抽選で当選か落選かで気をもんで、当選メールが来たらコンビニに受け取りに行く……そんなシステムに慣れてしまっていた俺には、チケットを買いに行くというのが新鮮だった。

「早く行かないと売り切れるよ」

 チケットは抽選ではなくて先着順なのだ。

 裕一郎とはそのチケットを買いに行く日取りを決め、あとは少し雑談して終わった。優子の手紙のことは言わなかった。別に隠したわけではなく、面倒だったからだ。

 そうしたら夜に、また電話だと呼ばれた。

 今度は美緒だった。あっちの世界では、またなんか事件があったのだろうか?

「元気?」

「うん、元気」

 って感じで始まった会話によると、特に何か特別なことがあったわけではないようだ。だが先日の台風の余波はまだ続いていて、いまだに停電している地域もあり、避難所生活を余儀なくされている人たちが自分と同じ県内に多数いるようだ。だからニュースで県名を聞くたび、美緒は過敏に反応してしまうらしい。

「ねえ、HNZのワンマンライブ、行かないの?」

 いきなり聞かれても知らんがな。俺がこっちに来る前には、まだそんな話は全くなかった。結構急に決まったんだな。だが、知らないというそぶりは見せない方がいい。

「ちょっとその日は都合が悪くて」

 その日がいつなのかも知らないのだけど…。

「ど平日だもんね。埼玉って遠いの?」

 そっか、もしかしてあのどでかいスーパーアリーナかな? 行きたかったなあ。

「うん、ちょっと遠いかな」

「でも、来週の月曜の敬老の日に、たしかじゅんくんの住んでる千葉で全握じゃなかった?」

「だねえ」

 これも初耳だけど、知っているふりをした。

 そして、これ以上HNZの話をしてるとぼろが出そうなので、強引にアニメの話にもっていった。オタ友でもある美緒に俺がまず聞いたのは、見られなかった夏アニメの最終回だ。

「え? まだアニメ見られないの? 夏休みだったのに?」

「うん。自分の部屋にテレビないと厳しいよ。パソコンも使えないし」

「そっか。夏アニメはこれまでの2期や3期とか、異世界ものも相変わらず多かった。『うちの娘』とか『お母好き』とか『チート』とか」

 新作の題名を言われても、俺にはさっぱりわからない。

「2期ってどんなのがあった?」

「いちばん人気が『ダンまち』かな、『高木さん』も」

「高木さん」は1期を見ていなかったけれど、「ダンまち」は大好きだった。悔しい、見たかった。

「『アストラ』も好きだった。男子には『変好き』とかも人気だったんじゃない?」

「変好き」は本屋で原作ラノベのタイトルくらいは見たことがあったような気がした。

 こっちもまたあまりつっこんで話すとぼろが出るので、話はこれくらいにした。

 それにしても、美緒との会話はなんか安心できる。だから、美緒と話している時は優子のことは完全に忘れていた。

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