第4話 チロ野球?
『どうだった? 六年三組』
帰宅すると、早速先輩から電話がかかってきた。
「可愛かったですね、子供たち。スルー力も高いし」
『でしょ? みんなそれぞれの変換能力を持ってるからね。それを分かってるから、変なことを口にしても誰も笑ったりしないしね』
確かにこれはすごかった。
もしクラスの中に男の子がいたら、『チンチン』と変換したとたん教室は爆笑に包まれてしまうだろう。そうなったら、もう学校に行きたくなくなるのは間違いない。特殊能力ゆえに私立のお嬢様学校に通わせる親の気持ちがよく分かる。
『それで私の離任式の送辞、ちゃんと考えてくれたよね』
来週、先輩のための離任式が行われる。
その時に、お世話になった六年三組の代表者が送辞を読むことになっているのだ。
「ええ、学級委員長の猫山路美に文章をお願いしました。内容も事前にちゃんと確認しますからご安心下さい。カタカナがないことをね」
六年三組の子供たちにカタカナはヤバい。
もし猫山路美が当日欠席してしまった場合、誰が代理を務めるかによって大惨事になってしまう可能性がある。
『それが賢明だわ。それで、路美ちゃんが読んでくれるの?』
「はい。そうしようと思います」
今日は彼女に助けられた。それに、彼女がクラスの信頼を得ていることも確認することができた。送辞を読むのは、委員長の猫山路美で決まりだろう。
『そうね。あの子はクラスで一番賢いから適任だわ』
「ですよね。もし釜山千絵だったら、『プロ野球』を『チロ野球』って読んじゃいますからね」
すると先輩は電話の向こうで苦笑する。
『千絵ちゃんならそうね。『チロ野球』って、なんだか犬の野球みたい。ていうか、クラスでしゃべったの?』
実は先輩は、プロ野球選手との結婚がきっかけで退職するのだ。
しかも、以前『神ってる』という流行語を生んだ球団の選手だったりする。
「みんな知ってましたよ。だってこの間の記者会見、先輩デレデレでテレビに映ってたじゃないですか」
『うわー、みんなあれ見てたの? お願いだから変な内容にしないでよね? 彼も後で離任式のビデオ見るって言ってるんだから』
「任せて下さい。かの流行語も猫山路美に教えてありますから」
「えー、心配だなぁ……」
こうして俺は、満を持して離任式に挑んだのであった。
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