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 そんな事を考えている頃、急な報らせがあった。母が死んだという。師の曾子が呉起を気遣って言った。

「家に帰って、御母堂ごぼどうをきちんと弔ってやりなさい」

 しかし呉起は、腕をまくりみ傷を見せて言った。

「いいえ。宰相となるまでは帰らぬと、母に誓ったのです。例え母が死んでも、誓いは破れません」

 曾子はこれを聞いて激しく怒った。この曾子という人は親孝行の精神に厚く、「孝経こうきょう」という書物を著した程の人だ。親よりも誓いを優先する呉起に激怒したのは、当然の事であろう。

 ただ、生没年を調べた人の説によると、この曾子(本名は曾参)はこの頃すでに故人で、呉起の師になったのは曾申という人だったとも言う。

 だとしても、中国人は昔から孝を大事にする。やはり親の葬儀をすっぽかす男には腹を立てたのだろう。呉起は即刻破門された。

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