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 未練がなくなったのだろうか、呉起はまもなく自国――衛国えいこくを出た。国境を越えながら、呉起は郷里の方を向いて言った。

「母上。私に、儒学をやめる機会をくださったのですね。感謝します」

 一礼をして、呉起は歩き出した。彼は魯国ろこくへと向かった。

 魯国で、呉起は兵法について学んだ。肌に合ったのか、呉起は乾いた土が水を吸うように学を修め、優れた兵法家となった。

 戦国時代は七雄しちゆうと呼ばれた七つの大国が覇権を争った弱肉強食の時代で、七国の合間にはたくさんの小国があった。

 魯国も衛国と同じく、小国の一つであった。今、魯国は隣の斉国せいこくに攻められそうになっており、兵法に明るい人材を求めていた。斉は七雄の一つで、大国である。

「罰と褒美は誤りなく行って兵の心をつかみ、命令には必ず従うよう仕向ける。これが肝心だ。反対に、働いた分だけの手当を出さなければ、どんな精強な兵も本気で戦いなどしない。将の器とは、すなわちそれをこなすかどうかにある」

 呉起は、これまでに身につけた兵法をかんがみて、そう結論した。そして自分にはそれができる自信がある。対斉戦争の将軍は、自分に任命されるだろうと確信していた。

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