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 以前は大きな屋敷に住んでいたが、呉起の失敗により屋敷は売り払い、使用人もいなくなった。今は母子二人で粗末な家に住んでいる。屋敷を売った金がいくらか残っており、生計はそれで立てていた。

 母は今度は、驚かずに頷いた。

「あなたは昔から、決めた事はやり抜く子でしたね。持ってお行きなさい。私は老いて先の短い身、気にする事はありません」

「ありがとうございます。実は今、人を」

 告白しようとした息子を、母は押し留めた。

「すぐに行きなさい。あなたはこの地を出るつもりだったのでしょう」

 呉起は涙を流した。

「お察しの通りです。私はいつか必ず、宰相となってみせます。それまでは、再びこの地を踏みません。これが誓いの印です」

 そう言って、呉起は自らのひじに咬みついた。更に歯に力を込め、血が滴り落ちる。母は黙って見ていた。

「お元気で」

 呉起は家に残った金の八割を持ち出し、家を後にした。

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