7-5

 だが、呉起の兵法は死んでいなかった。


 新たに王に就いた粛王しゅくおうは、悼王の太子たいしである。


 呉起を討った始終を聞いて、粛王は目を怒らせて言った。


「いくら呉起が憎いとはいえ、先王ともども射るとは不敬もはなはだしい。許さんぞ。射たのは誰だ?」


 公族たちは恐れをなして言い訳した。

「呉起を追っていたら夜になってしまい、先王のねむ殿でんとは気付かなかったのです。大勢で射たので、誰の矢かは分かりません」


「そうか……ならば」

 粛王はぎろりと一同をにらんだ。

「矢を射た者は全員処刑する。その家族も連座れんざだ」


――厳しい結末となった。こうして一族皆殺しとなった者は七十余家にも上ったという。


 呉起が悼王の下へ行ったのは、これを見越しての事だった。

 呉起は己の死と悼王の死を利用して、復讐を遂げた。

 呉起は最後まで、死の力学を以て戦ったのである。

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