7-4

 公族たちは、急いで兵を向かわせた。

「うぬ、誰がお前など恐れるか。呉起を射よ! 討ち取った者には千金の報償を与えるぞ!」

 兵士たちは、建物に殺到した。呉起がその中に入って行くのを見て、明かりもないまま、横殴りの豪雨の如く矢を射た。あまりにも連射したので、矢弦やづるを切る者が相次いだ。

「もういいだろう。明かりを持って来い」

 公族たちが、松明を手に建物に入った。川原のあしのように床を埋め尽くす矢を蹴り分けながら進むと、呉起は矢ぶすまになって倒れていた。少し笑ったような顔で、事切れている。

「おお、これは……!」

 公族たちは、声を上げて驚いた。呉起の死にではない。呉起が倒れている、その下にあるものを目にしたのだ。

「……呉起の奴も、最期には人の温もりを求めたか。因果だのう」

 一人が、哀れんでそう言った。ここは霊安室だった。呉起は、先日死んだ悼王のしかばねの上に倒れていたのである。彼は死臭でここを探し当てたのだ。

「呉起だけでなく、王のご遺体にも矢があたってしまったな。まあ仕方ない、新王には理由を話してお許しいただこう」

 そう言って、公族たちは引き上げて行った。

 ――呉起の一生は、こうして終わった。

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