7-2

 壮絶な追撃が始まった。


 たった一人で逃げる呉起を、大勢の兵士が追いかけ、次々と矢を放った。

 流れ矢で他の兵士や市民が傷ついているのに、公族たちは止める気配もない。


「そこまでして俺を殺したいか。人間の欲が、こんなにも醜いものだったとはな」


 自らを振り返るように、呉起は呟いた。すでに背中と腕に矢を受けている。

 皮鎧がなかったら即死していただろう。

 呉起は狭い道を選び、身を隠して逃げ続けた。


「たった一人に翻弄ほんろうされおって。まだ呉起は討てぬのか」

 呉起討伐連合ごきとうばつれんごうの主格が、兵の隊長を叱咤しったした。

「申し訳ありません。どうも逃げ道が意外でして。でもようやく、呉起が目指している場所が分かりました」

「どこだ? どの道、国外しかあるまいが」

「いえ、奴は我が国の宮殿に向かっています」

の宮殿だと? 馬鹿な」

 もはや味方などいない宮殿を、なぜ呉起は目指すのか。意図は分からないが、とにかく兵を宮殿に回した。

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