6-3

 宰相となると、仕事は多くなる。しかしそれ以上に、政敵も多くなるものである。そうでなくても呉起は、来ていきなりたくさんの公族貴族を免職して、恨みを買っていた。

 悼王と相性が良すぎたのも、結果を悪くしていた。悼王がもう少し呉起を抑えていれば、そこまで極端なリストラはしなかったであろう。しかし呉起は、そんな事まで気にしていなかった。

「準備が整いました。軍を動かします」

 呉起は自分の手足のように楚軍を操り、各地で戦果を挙げた。えつを討ち、ちんさい併呑へいどんし、三晋さんしんかんちょうの三国を指す)を退け、しんにも遠征した。

 史書にはそう書かれているが、別の資料によると三晋と戦った事くらいしか本当ではないらしい。しかし、呉起の軍備増強はこれまでに倣い将兵を優遇する事に重点を置いていたので、楚軍は相当強くなったのだろう。諸国が楚を恐れるようになった、と記されている。


 楚が呉起の働きによって隆盛を極めた頃、裏方では、暗い影が動いていた。

「あの呉起にも、弱点はある」

「奴には味方がいない。でも魏でも、内部からの讒言ざんげんには弱かった」

「どうせ支持者は悼王だけだ。もう少し待とう」

 呉起によって失脚させられた公族や貴族は、いつしか集まって結束し、呉起に復讐する機会をうかがっていた。

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