5-6

 君主は、呉起の顔色を窺うような目をしている。


(この人は、本当に俺を必要としている。

 それに、気丈な女が嫁に来ても、俺がしっかりしていれば済む事だ)

 そう思った呉起だが、しかし答えは正反対だった。

「畏れながら、公主を私になどとは、もったいない事です。お気持ちは嬉しくありますが、辞退させていただきます」


 呉起は一礼して、君主の間から去った。


 翌日、君主は公叔座を呼んで言った。

「呉起は話を断った。公主など畏れ多いと」


 公叔座は、大袈裟に嘆息して言った。

「やはり。呉起は魏に留まる気はないのですよ。いつ寝返るか分かりませんぞ」

「うむ。要職に就けておくのは危険だな」


 魯の時と同じように、呉起は実権を取り上げられた。

 結局呉起は、公叔座の下僕が考え出した罠に嵌ってしまったのか。


「魏が、俺を引き留めたいと思うほどになったか。

 ならば別に魏でなくとも、宰相の座にありつけるかもしれん」

 呉起はそう思っていた。

 魏に執着のなくなった呉起は、あっさりと出て行った。

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