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 史書によれば、呉起はあっさりと公叔座に騙された事になっている。


 だが、果たしてそうだったろうか。

 敗北率0パーセントを誇る兵法家の呉起が、何の不審も見出さなかったとは思えない。


「付き合いもなかった公叔座が、いきなり家に招待した。何故だ?

 奥方の振る舞いも、どこか不自然だった」


 呉起は帰り道、そう独りごちた。

 公叔座には何か目的があったはずなのだ。


「『妻となった公主』だな、強調したかった事は。

 公叔座の家があんなに嚊天下かかあでんかだという噂は聞かない。

 あれは芝居だろう」


 冷静に考えれば、そこまでは読める。

 しかし、芝居の真意までは、分からなかった。


 何日かして、魏君主が呉起を呼んで言った。

「嫁入り先を探している公主がいて、なかなか器量もいい。呉将軍にどうかと思ってな」

 呉起は目を白黒させた。

「私に公主を、ですか」

「将軍には、いつまでもこの国のためにがんばってもらいたいのだ。

 君が宰相の職を希望しているのは、前から知っている。

 わしの一族と姻戚を結べば、いずれそうなる日も来よう」


(そういう事だったか)

 呉起は、公叔座の描いた絵図が全部見えた。

 ここで断るという事は、魏に留まる事をも断る意味合いに聞こえてしまう。


 呉起は、思い出したような顔をして言った。

「先日、宰相公叔座様の家に呼ばれました。あの方の奥方も、確か」

「うむ、公主だ。

 実は、君に公主を勧めてはと言って来たのは彼なのだ」

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