5-3

 翌日、魏君主の下に参内した公叔座は、呉起の話題を持ち出し、大袈裟にほめ称えた。


「呉起将軍が出れば、負ける戦はありません。我が魏国が千里四方も領土を広げられたのも、全て彼のおかげです。ただ……」

「ただ、どうした?」


 公叔座が語尾を濁したので、魏君主は訊ねた。

「彼ほどの人材が、いつまでもこの国にいてくれるかが問題なのです。他国に引き抜かれるのが心配で……」


 そう言われると、君主も不安な顔になった。

「確かにそうだ。それとなく呉起の心中を測る手はないかな?」


 公叔座は、冷ややかな笑みを浮かべて答えた。

「一つございます。呉起に、魏の公主こうしゅ(公族の娘)との縁談を持ちかけるのです。呉起が魏に留まる気なら受けるでしょう。

 しかし他国へ移る気なら、断るはずです」

「なるほど。では、奴の好みそうな娘を選んでおこう」


 君主が了解したので、公叔座は退出した。

 しかし、このままでは呉起に有利な話になってしまう。


 公叔座は次の仕掛けにかかるため、今度は呉起を訪ねてこう言った。

「以前から君の噂は聞いていたよ。ゆっくり話がしたいと思うのだが、今夜我が家に遊びに来ないか」

「はあ、では参ります」


 呉起がそう答えたので、公叔座は彼を馬車に乗せた。

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