第2話 森と二人
シークとティオはハレルの機転で家路につくことになった。
ティオはハレルの事が気がかりなのか、落ち着かない様子であった。
「ハレル大丈夫かしら......やっぱり私もいた方がよかったのかもしれない」
「大丈夫、あの二人も一緒だから」
ソフィは村で治癒の力が使える一人である。
薬草にも精通している彼女は、村ではもっぱら怪我人や病人をみる役目をしていた。
一方アロフは普段は村の警備と物資調達をしている。時折森を抜け、村で補なえない物資を街に調達しにいく役目だ。
魔物も出現する森を数日かけて往復する。
物資調達の仕事は命懸けであった。
また、森の抜け道は、外界との接触を嫌う村において、物資調達者にしか教えられない決まりがある。
シークは今は見習いだが、来年からは物資の調達をする役割を与えられる予定だ。
「だけど心配だわ......」
「レン様もわかってくれるさ」
ティオはハレルの事になるといつも心配症だ。
それはティオにとってハレルは唯一の家族だから、なのかもしれない。
彼女とハレルはまだ幼い頃、両親を魔物に襲われ亡くしている。
両親は、二人に覆い被さるように亡くなっていたらしい。
その後は村長のレンが二人の身元を引き取ったのだが、三年前に彼女達はずっと迷惑をかけられないから、と出ていった。
今は森に出て薬草や花を摘むことや、衣類を織る事で二人は生計を立てている。
ゆくゆくは彼女達の摘んだ薬草や花、衣類も町で売られることになるのだ。
「......迷惑かけてごめんなさい。私、また明日もソフィさんのところへ行ってくる。多分、あの調子だとハレルもしばらく向こうに泊まるだろうから......。ハレルの着替えとご飯、持っていかなきゃ」
「僕もなにか手伝えるかもしれないし、顔を出しにいくよ」
「ありがとうシーク、やさしいのね」
シークはティオを放ってはおけない。
恥ずかしくて口には出さないが、そう思っていた。
そんな事を話していると、ティオの家はもう目の前だ。
待ち人の居ないティオの家に、灯りはみられない。
「それじゃシーク、またね。送ってくれてありがとう」
「おやすみ、ティオ」
「うん、おやすみ」
ティオを無事に送り届けたシークは、足早に帰路を目指す。
辿り着いた彼の家にもまた、灯りはついていない。
「......ただいま」
シークの父と母は物資調達者だった。
だが二人は一年前のある日、物資調達に行ったきり帰って来なかった。
両親を失ったシークにティオやハレルは、時には何も言わず側にいてくれ、時にはシークの話をいつまでもいつまでも聞いてくれた。
彼女達はシークの辛さをよくわかっている。放っては置けなかったのかも知れない。
だから、シークはティオやハレルの前では何事も無いように振る舞いたい。
もう、二人に心配をかけたくない。そう思っていた。
「......明日も早いから、今日はもう寝よう」
窓から見える夜空は、雲ひとつない満天の星で飾られていた。
「おやすみ」
__________
コンコン
ノックの音がする。
「ソフィさん、おはようございます。ティオです」
「あら、ティオ!それにシークも!......ハレルは徹夜で看病してたからかな。疲れて今は寝ているわ」
「そうなんですね。あの、これ!ハレルの着替えと、ご飯です!」
「あら、サンドイッチね!美味しそう!ハレルも喜ぶと思うわ」
「ハレルの事だから食事の時間も惜しんでそうだなって思ったの。サンドイッチなら手軽に食べれるから」
ティオは照れてる様子だ。
うつむく彼女の頬が少しだけピンクに染まる。
「男の人は......どうですか?」
「それが、まだ目を覚まさないのよ」
「そうですか。ありがとうございます」
「僕らに何か手伝えることはありませんか?」
「ううん、今は大丈夫。ティオは日課の薬草摘みに行ってらっしゃい。シークは私の代わりにティオに付き合ってあげて?」
「そうします、ありがとう、ソフィさん」
「わかりました。ハレルをよろしくお願いいたします」
「わかったわ。気をつけて行くのよ。あんまり遠出しないようにね。様子見にはまた今度いらっしゃい」
「いってきます」
シークはソフィに告げてティオと森へ行くことにした。
「......いっちゃった、か。今のハレルの疲れきった顔、シークには見せられないものね」
________
二人は薬草をとりにいくことにした。
ティオは普段よく行く薬草採取スポットにシークを連れて行った。
「それじゃ、はじめましょう。ハレルも頑張ってるのだから、わたしも頑張らなきゃ」
「これと、これはなに?」
「これは、ミラセージ、こっちが、スターミント......かな」
「やっぱり詳しいんだね、ティオ」
「ありがとう。でも私よりソフィさんの方がよっぽど詳しいのよ?」
「僕には全然違いがわからないや」
「ふふふ、シークったら」
口元に手を当てて笑う彼女がシークには眩しかった。
やっぱり彼女には森や自然が似合う。そうシークは思った。
「あ、こんなところにキトカの木が生えているわ!珍しい!」
「なんだいそれ?」
「この木はね、思いを込めて人にあげると、その人への願いが叶うって言われているのよ。今まで全然気がつかなかったわ、不思議ね」
「そうなんだ!知らなかったよ」
「弾力があって丈夫だし曲げたりとか、加工もしやすいの。きっとシークが居るから見つかったのかも。せっかくだから、少しだけ枝をもらっていこうかな」
それから、二人は薬草を夢中になって探した。
シークにとってティオと過ごす時間はあっという間に過ぎる。気がつけばもう夕暮れに差し掛かっていた。
「暗くなってきたね、そろそろ帰ろうか」
「うん。シーク、今日はありがとう。あなたのお陰で今日はここに来れたし、一緒にいれて楽しかったわ」
......もう少し太陽が沈むのが遅くてもいいのに。そうシークは思った。
シークは誇らしい気持ちと共に、彼女と村へ戻ることにした。
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