第3話 英雄の卵─夢道─

 占い師様と召喚士様の一族が住まうソフィアの町。

 そうです、英雄の卵トウカちゃんは、実は同じ町にすんでいました。 まるで、運命の様に……。


──っと、言うことは一切ありません。


 トウカちゃんの夢を聞き、それを叶わぬものと思った両親が「せめて英雄が生まれる地に住まわせてあげよう」と親心から、数年前にここに引っ越しをしたのです。

 だから、呼び出しのあったお城までは、歩いてすぐなのです。何度も通った道だから、迷子になる心配もありません。


「──あら、トウカちゃん? 今日も御使い? 偉いわね~」


 お城に向かうトウカちゃんは、何時ものように近所のおばさん達に捕まってしまいます。

 とても愛らしい見た目と、持ち前の素直な性格の為か、近所で噂になるほど人気者なのです。


「今日は違うんだよ! 僕、英雄の卵になるんだ!」

「あらあらそうなの? 凄いわね~アメちゃん……食べる?」


 実は、これで三人目……。一人目はクッキー、二人目は甘いパン……。その次はアメちゃんでした。


「あ、ありがとうございます! でも僕、今からお城に行くので」

「そっか~? おててが塞がって危ないわよね? じゃぁ~ポッケに入れておくから、後でお食べなさい」


 おばさんはアメちゃんを、トウカちゃんのポッケに入れると「気を付けてね」と笑顔で見送ってくれます。

 トウカちゃんは、守るべき沢山の人達との交流も大切にする良い子なのです。だって英雄の卵ですから! でも……時々悩みます「僕子供扱いされてない?」っと。



「──またトウカちゃんか……? ここは関係者以外立ち入り禁止だよ、何度も言ってるよね?」


 お城に着くと、いつもの門番さんが声を掛けてきました。トウカちゃんは、ポッケに入れていた手紙を広げ、「ムフー」っと声をあげ、自慢げに中身を見せました。


「ト、トウカちゃん……手紙にアメ、ついてるよ?」

「──そこじゃないよ! って本当だ!」


 さっきのおばさんに貰ったアメちゃんです。手紙にくっついちゃったのかな?

 ピッタリくっついていて、取れそうにありません。


「も、もういいから……内容を見てよ! ココ、ココ!」


 門番さんはそれを見て「ト、トウカちゃん……本当に選ばれたのかい?」と驚きの声を上げます。

 トウカちゃん、はそれが嬉しくて腰に両手を当てて「ムフー」っとドヤ顔をしました。


「な、中に入ったら真っすぐ進むんだよ? そうすると、大きな扉があって別の門番さんがいるから、その人にその手紙を見せてね? 後……おやつを食べながら、歩かないようにね?」


 門番さんがソフィア城の扉を開きます。いつも、外から見ているだけの建物の中に、今日は初めて足を踏み入れることになったのです。

 綺麗で立派な白いお城に、トウカちゃんは興奮を隠せそうにありません。

 門番のおじさんに、お菓子を食べながら歩かないように注意されたトウカちゃんは、言いつけを守りクッキーを頬張りながら、真っ直ぐ行きます……。


 言われた道を突き当たると、ソコには大きな扉と一人の門番さん。その方とは別に、トウカちゃんより少し年上の、目付きの悪いお兄さんが立ってたのです。


 お兄さんはトウカちゃんに気付き、振り向き一言「なんで、こんな所に子供がいるんだよ……」と、失礼な台詞を口にしました。

 すると、トウカちゃんはちょっとムスッっとして、ポッケから手紙を出したのです。


 そのお兄さんと門番さんに手紙を見せつけて。凄いだろ~って、胸を張ります。


「「アメ、ついてるよ?」」

「──だから、そこじゃないよ! って二個になってる!」


 なんと! 手紙についているアメちゃんは二つに増えていたのです。

 トウカちゃんのは、二人が揃ってツッコミを入れるので、ちょっと恥ずかしくなりました。


「だから、内容を見てって……」


 アメちゃんが入っているにも関わらず、手紙をポッケに入れた自分が悪いとは言え、少し泣きそうになりました。でも泣きません、だって……英雄の卵なんですから!


 二人は手紙の内容を見て驚きました「「え、英雄候補!」」っと……。

 見返すことが出来たトウカちゃんは「ムフー」っと勝利の声を上げます。


「ふ、二人揃ったようだね? それじゃ~この先に、占い師様と召喚士様が待っているから……。くれぐれも粗相を……悪い事をしないようにしてくれ」


 門番さんは大きな扉を開きます……。この先にはトウカちゃんが夢にまで見た、英雄に纏わる二人がいる。彼女の胸は、期待で張り裂けそうになったのでした──。

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