第2話 英雄の卵─巣立ち─


「──まったく……あなたが本当に選ばれるとはね。ママ驚いたわよ」


 トウカちゃんの夢は、前よりトウカちゃんのママもパパも知っています。しかし、二人共絶対なれるよ! とは言ってはくれなかったのです……。両親は、その夢を叶えることがとても難しいと知っていたのです。


「えへへ。ヤッパリ見てる人は見てるんだね? あ、占い師様の神託で選ばれるんだから、見てる神は……なのかな?」


 そわそわと浮かれているトウカちゃんに、お母さんはあきれてしまいます……。


「何でこの子が……。神様も、見る目が無いわね……」


 決してトウカちゃんのママも、彼女が嫌いなのではありません……。ただ、不安要素が沢山ありすぎて、つい否定的な言葉を言ってしまったのです。


「だ、大丈夫だもん! 一人でも寝れるし、オネショもしなくなったんだからね!」


 トウカちゃんの発言を聞き、ますます不安が増えるばかりです。


「トウカ……あなたもう九つになるのよ?」と、呆れてしまいました。


「ち、違うもん! 今年で十歳だし!」

「余計に不味いでしょ──!」


 

──王命である、英雄候補の召集令状は絶対です。

 受け取った者に拒否は無く、最低でもお城に出向き適性検査を行わなければならないのです。


 適正検査とは、まずお城に赴き占い師様の対になる存在、召喚士様に会いに行事です。そして稀に選ばれた英雄の卵は、召喚士様による召喚儀式に立ち会わないと行けません。

 そして、その中でも才覚のあるごく一部の英雄の卵には、伝説の武器が現れ、それを受けとる事ができます。


──それを賜りし者、英雄への階段を昇り始めるだろう……。これは英雄の話によく登場する、物語の一文です。



──トウカちゃんは、慌てて準備をしました。そして、ママにお別れの挨拶をします。


「じゃぁ、パパには上手い事伝えておいてね? 挨拶していくと、めんどくさくなりそうだもん」

「あんた……なにも言わずに出てったら、パパ泣くわよ? ……でも、言って出てったとしてもどうせ泣くわね……」


 腕を組ながら「それなら別にいいか……?」と納得してしまうトウカちゃんのママ……。パパさんが知った涙目になること間違いありません。


 トウカちゃんのパパは「娘は生涯嫁には出さんぞ!」と、常日頃言うほどにトウカちゃんの事が大好きなのです。もちろん、そんなパパを、トウカちゃんが嫌うわけもありません。

 だからトウカちゃんは、お父さんの泣き顔を見ない為に、こっそり旅立つことを決意したのです。


「へへ、そう言う事! じゃぁ、ちゃちゃ~っと行ってくるね? 僕、絶対に英雄になって戻ってくるから!」


「ちゃちゃ~っとって、御使いじゃないんだから……」


 玄関の扉を開け、トウカちゃんは旅立ちました。家を出てすぐ振り返り、手を振って叫びました。


「──絶対に、英雄になって戻ってくるからね!」っ

と念を押して……。

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