第7話 坂道途中の駄菓子屋さん

 知里ちさとは高校生。

 バス通学をしている。

 部活動は中学に続いて美術部に所属している。


 部員数は多くなかったけど、油絵を描いたり、デッサンしたり。漫画を描いている友達もいたし、自由に描きたいものを描けた。


 下手だけど絵を描くのは楽しい。

 それに部室で、友達とお喋りするのも!

 時には部室で本を読んだりもする。

 図書室と部室が近かったので、それもちょうど良かった。


 加えて楽しみなのが、部活帰りに、いつも友達と寄る、駄菓子屋さん。

 高校は坂の上にあったのだけど、お店はちょうど、その途中にある。


 その駄菓子屋さんは、おじいさんとおばあさんとネコがいて、知里は友達と毎日のように通っていた。


 ここは基本、駄菓子屋さんだけど、カップ麺だとかジュースにアイス、おでんがある。

 そうして、お願いすると買ったカップ麺にお湯を入れて割り箸をつけてくれる。

 部活帰りは、お腹がすく。

 運動部でなくても、お腹はすくのだ。

 だから、ここで少しお腹に入れておけるのは有難かった。

 何しろバス通学だし、家までは遠いのだから。


 そしてまたこの、おでんが美味しい。

 コンニャク、大根、餅巾着、厚揚げ、じゃがいも、糸こんにゃく、ごぼう天、丸天、玉子、牛スジ……

 知里のお気に入りはコンニャクに餅巾着に厚揚げ、大根。

 いやもう、どれも好きなので毎回迷うんだけど、いつも金欠の食べ盛りの高校生にとっては、できるだけ食べた気がして面積?の大きい物が好ましい。

 それで、このラインナップが多くなるというわけ。

 勿論、カラシもつけて、はふはふと串からかじりとる。

 串に刺してないものは、お皿にとって貰える。


 そういえば駄菓子を大っぴらに食べれるようになったのも、高校生になってからで、やっとこうして駄菓子屋さんに出入りできるようになった知里は嬉しかった。


 憧れのエビせんべいの丸ごと一枚を食べたのも、このお店でだった。

 ただ、小さい時に見た時は顔ほどあるように見えたけど、実際に手にしたエビせんべいは、あの頃に見たよりも少々小さく感じた。


(夢って叶っちゃうと、ちょっと寂しくなるものなのね)と知里はちょっとセンチメンタルになったものだ。


 この駄菓子屋さんは、おじいさんとおばあさんの住居がお店の奥にある作りで、だから、ネコも住居とお店を自由に行き来していた。


 知里たちは、おじいさん、おばあさんと学校のこと部活のことなんかをおしゃべりしながら、膝の上に乗ってくる、この人懐っこい三毛ネコを撫でながら、まったりと過ごした。


 それは、まさに至福のときだった。

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