第5話 少女漫画に恋をして

 知里ちさとは小学生。

 知里は『りぼん』の熱心な読者だ。


『なかよし』も、たまに読む時があるけど、『りぼん』の漫画家さんの陸奥A子先生、太刀掛秀子先生、田渕由美子先生が大好きなのだ。アイビールック、カントリー、おとめチック……知らなかった世界ばかり。


 陸奥先生の描く男の子は優しいお兄さんっていう感じ。

 特に眼鏡をかけてる男の子の笑った顔にドキドキする。

 一番好きな、チェックのシャツを着たサラサラ髪で眼鏡の男の子のイラスト。

 これを大切に切り抜いて、透明の下敷きに挟んで、こっそりいつも見てる。

 こういう人がお兄さんだったらいいのに。

 一人っ子の知里は兄弟がいる友達が羨ましくてしかたなかった。


 太刀掛秀子先生は小学校高学年になってから特に好きになった。

「ミルキーウェイ」「雨の降る日はそばにいて」は切ないけど、知里の大好きなお話。太刀掛先生の描く女の子には、すごく憧れる。柔らかそうな髪、大きな瞳は何か言いたげで、自分も、こんな女の子だったら良かったのにと、いつも思う。

 太くて量の多い寝癖がつくと取れない髪に、時々悲しくなる知里なのだ。


 田渕由美子先生では「フランス窓便り」が特にお気に入り。少しお姉さんっぽくて、そこがまたいい。大きな瞳に細い手足の女の子たちは着ている服も紅茶やコーヒーを飲むマグカップも雑貨の色々も素敵。フランス窓って響きも、なんてロマンチックなんだろう。


『りぼん』は付録もオシャレだ。便箋や封筒、ノートなんかは、勿体なくて使えない。

 宝物箱に大事にしまっていて、時々取り出しては見ている。とっておきの時に使うんだって決めているのだ。時には紙バックもついたりする。これまた勿体なくて使えない。


 好きな漫画雑誌は沢山あるけど。毎月買っているのは、やっぱり『りぼん』

 本当は『なかよし』も「キャンディキャンディ」とかあるし、好きだけど、どっちか一冊ってなるとやっぱり『りぼん』になる。

 両方買えたら一番いいんだけど、そうもいかないもんねと思う。


 少女漫画の中の男の子はカッコよくてすごく優しい目をしてる。

 スポーツをしている男の子よりも、知里が憧れるのは、ベンチで本を読んでいるような大人しそうな男の子。

(本の話とかできたらいいのになぁ。でも、もしも実際に目の前にいたら、きゃー! 絶対に一言も話せないよー!)


 そんな想像をしながら、透明下敷きに挟んだイラストを見ては、ほぉーっとため息をつく。

 知里は、初恋もまだまだの、恋に恋する少女なのだった。

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