第4話 食いしん坊と包丁

 知里ちさと6歳。この時には自分で包丁がある程度使えるようになっていた。

 これには深い理由がある。

 何しろ知里は筋金入りの食いしん坊だった。


 この少し前に知里の一家は、山の上に青い屋根の小さな家を建てて引っ越した。

 その家が建ち上がるまでの間、知里はおばあちゃんに手を引かれて、山の家に何度も通ったのだったけど、その時に決まってリンゴかナシを半分に切って皮を剥いたものを持たされていたのだ。


 このオヤツが果物好きの知里は楽しみで仕方なかった。

 リンゴとかナシがいっぱい食べたい=自分でも皮剥きできたら好きな時に食べられる!

(。 ー`ωー´) キラン☆


 お菓子は、かなり厳しく制限していたおばあちゃんも、果物に関しては身体に良いという考えだったから、かなりに与えられていた。そのせいもあって知里は果物に目がなかった。


 それに女の子だし、下手に勝手に触らせてケガをするよりも、包丁を危なくないように使えるようにさせた方がいい(これは多分、知里の性格を見抜いて、キチンと教えた方がいいという、おばあちゃんの考えだったのだろう)ということで、おばあちゃんに教えて貰いながら包丁の特訓をすることになったのだ。


 まずは、おばあちゃんのお手本を、じーっと見る。

 それから基本の『ねこの手』を習った。

 指を切らない為に大事なことだからって。

 最初からリンゴは難しいから、キュウリとかを、ねこの手にしながら切ってみる。


「そうそう、包丁の柄の真ん中を軽く握り込むようにして持って、慌てずにゆっくりね」

 最初は、おっかなびっくりだったけど、慣れてくると、ねこの手もちゃんとできるようになった。


 色々なものを切るのに慣れてきたら、それからいよいよ、リンゴだ。

 あいているほうの手でリンゴを持ってから、親指で押さえるようにしながら、ちょっとずつ剥いていく。

 これはなかなか難しいから、おばあちゃんもかなりハラハラしながら見守ってる。


 でもさすがに『好きこそ物の上手なれ』というだけあって、知里の上達は早かった。

 慎重にゆっくりと確実に剥いていく。

 何しろ上手に剥けば大好きなリンゴやナシが食べられるのだ。


 食い意地ゆえの熱心さ。おばあちゃんも感心するほど早くに丸ごとリンゴの皮を剥けるようになった。

 とはいえ、食べれるのは半分だけ。


 今は半分だけだけど、いつかきっと丸一個を食べてみせる!

 できるだけ薄く皮を剥く特訓をしながら固く心に誓う知里。

(この辺はエビせんべい丸ごとの夢と共通だ)

 知里の野望は果てしなく、夢は膨らむのだった。

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