第2話 憧れのエビせんべいと駄菓子屋さん

 知里ちさとは4歳になった。

 3年保育で幼稚園の年中組さんだ。


 ある日、おばあちゃんと手を繋いで幼稚園の帰り道、ランドセルを背負った男の子が駄菓子屋さんで買ったらしき、お菓子を手に持って齧っているのを見かけた。

 薄いオレンジ色の丸いせんべいで、せんべいと言っても、あの焼きせんべいとは違って、もっと軽い感じ。

 知里の目は釘付けになった。

 そのせんべいは少年の顔くらい大きかった(ように知里の目には見えた)からだ。


「おばあちゃん、あの子が食べてるアレは何?」

「ああ、アレね、エビせんべいだよ。エビの味のする駄菓子せんべい」


 エビせんべい……なんて美味しそうな響き。

 エビの味がするんだ。

 あんなに大きいおせんべいを見たことない。


「おばあちゃん、アレ食べたいなぁ」

「ダメダメ、あれはねぇ、知里にはまだ早いよ。それに、おやつなら、おばあちゃんがちゃんとあげてるでしょ」


 知里は不満だったけど、こういう時のおばあちゃんは厳しくてワガママは言えない。

 知里は心の中で(大人になったら、あの大きなエビせんべいを丸まる一枚、独り占めして食べるんだもんね)と固く固く誓ったのだった。


 また、良く子供たちが出入りしている駄菓子屋さんにも憧れた。

 勿論、おばあちゃんが、そういうお店に連れて行ってくれることはない。

 おばあちゃんは、あまり駄菓子屋さんが好きではなかったみたい。

「着色料が凄いし、衛生面がねぇ」と言っていた。その頃の知里はお腹をよく壊していたから、そのせいもあってなのかもしれないけど。


 だから、いつも店の側を通る時に、何気なく中を覗くぐらいしかできないのだけど、そこはまるで宝の山みたいに見えた。


 糸の先に大きさの違う色飴のついた糸引き飴、きな粉棒、モロッコヨーグル、ガムやチロルチョコ……あそこにあるのは、よっちゃんイカかなぁ……クジ引きでは三角くじにスーパーボール くじ!

 スーパーボールの当たりは、大きくて綺麗だ。お店の外でスーパーボールを弾ませながら、糸引き飴やきな粉餅を口に咥えている子供たちは知里の憧れだった。


(いつかもっと大きくなって、お小遣いを貰うようになったら、絶対、駄菓子屋さんに行くんだ。そうして、思いっきり色んなお菓子を食べるんだもんね!)


 おばあちゃんに手を引かれながら、知里は駄菓子屋さんと周りに集まっている子供たちを横目で見る。


 おばあちゃんが用意してくれている、赤い缶かんの中のおせんべいもチョコレートも大好きだけど、やっぱり、いつかきっと、あの駄菓子屋さんという夢の国を見て回りたい。


 スーパーボールは丸い宝石みたいだった。

 あんなに綺麗であんなに跳ねるんだもん。凄いよ。あの一番大きいの当たったらいいだろうなぁ。


 ──知里の憧れと空想は広がって止まらない。

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